88話 夢
日が落ちても話が続き、湯船にお湯を張りゆっくりと体を沈めた。
ベルエットの魔法により水が瞬時にお湯になったので私は目を疑った。魔力量が優れているのは知っているし、術の豊富さもわかっていた。しかし、それは私の頭が「わかっていた」だけで、彼女の常識がわかったわけでは無かった。
「ベルエットはさ、旅に出て沢山のものを見てそれからどうするの?」
「国を変える」
声は固いガラスの瓶で響いた。耳の中に入る水によってできた膜はいつも太い振動を立てているが、ベルエットの声は固く、芯が通り、震えていた。
「なんか壮大だね」
「そりゃー夢は壮大だよ。なんたって世界最高の魔法師になるんだから、国一つぐらい取らないと」
私はそれが冗談だと頭では認識しているのだが、彼女の声を聴くたびに本当にやってしまいそうで、身震いしてしまう。
浴槽の中ではベルエットの銀色の髪が花が咲くように広がり、ふわりと浮かぶ。久しぶりに熱いお湯に浸かったベルエットは満足そうにくつろいでる。
「てか、そんな事よりもさこのお風呂良いね。木の匂いも落ち着くし何より、足が伸ばせて良い」
くかーっとあくびを噛み殺しながらおやじの様に浴槽から手を出し目を瞑り息を吐く。
胸は、私と同等、うん。負けてはいるが。それ程大差があるわけではない、はずだ。
ユイラは胸に手を当て項垂れる。頭上から流れるお湯で体の泡を流し、ベルエットが占領している浴槽に体を滑り込ませる。
ユイラはベルエットの足の間に体を滑り込ませると、ベルエットは足を縮め体に付ける。
「ユイラは夢とかないの?」
「夢か。夢ね。お母さんに追いつくことかな」
「いい意味で?」
いい意味でとはどういった事なのだろうか。まず私は夢という物を正確に描いたことがない。お母さんに追いつくことも夢というより、おそらく目標なのだろう。夢か。
ユイラは頭の中で様々なことを思い浮かべるがこれといって何か思い浮かぶことも無く、ゆらゆらと意識を彷徨わせた。
「私の夢はお母さんを越えることだよ。悪い意味で」
ベルエットは湯から勢いよく立ち上がった。
湯から解き放たれた髪はベルエットの体に張り付き、衣装を着ているようだった。声には少しの遊びと、強気の感情。それでも、顔は笑っていた。
そして、私の胸はやはり負けていた。
ベルエットはユイラを見下ろしていたが、すぐに湯船の中に体を埋める。
嵩が減り、上半身が冷めていったが直ぐに温度が取り戻されベルエットの目線と私の目線と合う。とても暖かくて柔らかい目をしている彼女は、私の頬をつねり、にっこりと笑う。
「夢かと思うほど、ここは暖かいね」
何に対していったかはわからないが、私の体は既に火照り目が回りそうだった。




