82話 魔法と自由
「ベラリエラについて?」
「うん。ベラリエラについて」
先程まで壁を作っていた小さなアガアリは雲の子を散らすように、どこかへ走っていった。女王アガアリが下層の森に侵入したことにより周りには魔物が近づかず二人は落ち着いて会話することができた。
ベルエットはだらしなくその場に座り込み肩の力を抜く。黒のワンピースが汚れてしまう事に抵抗はないのか堂々と座るベルエットに対してユイラは近くにあった切り株の上へと腰を下ろした。
「何、ベラリエラって」
「海」
「は?」
ユイラの抽象的な発言はベルエットは理解ができなかった。ベラリエラを海と知っている人も知らない人もベルエットと同じ言葉を出すだろう。
「ここから近くの海の名前をベラリエラって言うの」
「知ってる」
「その海の奥深くにベラリエラって言う魔物がいるらしい。そいつを調べたい」
普通の人間ならばここで一つ疑問を持つはずだ。魔物は普通の海にいない。魔力をエネルギーとして生きる魔物は幽遠の森から抜け出せば力を出せなくなってしまう。フワボウの様、下種族は魔力を余り使わない為生きていける。その分人間への被害はない。
しかし、力を持つ魔物はわけが違う。多量なエネルギーを必要とする魔物たちは街に出ればエネルギーが足りず、暴れるだけ暴れ死んでいく。諸説あるがエネルギー不足によりエネルギーを求め身を削り暴れ出す。
不思議が、疑問が、更なる問題が溢れかえり魔物は解明されていない。
だが、魔物が私たちが生活しているところでいずれ死ぬのなら、何故ベラリエラは普通の海で生きられるのか私はそれが知りたい。
そうすればお母さんが届いた深層に行けるかもしれない。
お母さんが分からなかった深層を知ることができるかもしれない。
「んーわかんないけど、嫌だよ?」
「学校があるから?」
「いや、学校には行かないし。やりたいことがある」
学校に行かない?主席合格をし、ガイスが心の中では憧れ、追いつきたい人間が行かないのか?
「やりたい事って?」
「旅したい」
「旅?」
「そう。私、何も知らないの。本も読んでこなかったし街の人とも仲良くない。やってきたことは魔法だけ。だから自由にどこかに行きたい」
私は魔法をずっと追い求めてきた。お母さんは魔法を使えていつも楽しそうで、綺麗だった。だから、それに追いつきたくて魔法を求め本や話で知識を満たしてきた。さっきだって、特殊なアガアリの穴は魔力を使えないことを知っていたから対応できた。
でも、魔法が使えたのならベルエットを穴から出す前に魔法で倒せる可能性、もっと簡単に穴から出す可能性を導き出せたはずだ。お母さんは出来たはず。
勿論ベルエットには外見も嫉妬するし魔法なんて嫉妬を越えて呆れさえする。でも、彼女は私が持っている自由を持っていない。まぁ、そんなことに同情はしないけどね。
ユイラはニヤリと口角をあげ土を弄るベルエットに目を向けた。
「ねぇ、私王都で財布盗まれたの」