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71話


「取り敢えず私は一つ最高の青イチゴってのを作ってみるよ」


 エイラはゆっくりと腰を上げながら話す声には不安が感じられる。

 日も徐々に高さを増し熱が空気にまで干渉し始める。まだ5月でも暑く、梅雨が明けた本格的な夏からは、体がアイスのよう汗と共に溶けてしまうのではないかとさえ思う。


「アミス付き合ってくれない?」


 エイラは近くにあるジョーロを二つ取り一つをアミスの方に向ける。濃度の高い畑の緑色にジョーロが同化したのかアミスはキョトンと焦点が合わずどこかを見ている。


「アミス」


 ユイラが肩をトンっと叩くと蛙が跳ねるように肩が上がりパッチリと目を開けた。


「少しだけ寝てもいいですか?」

「勿論!最初は私が見とくよ。ユイラはどうする?」


 エイラは再び畑の前に腰を下ろし青イチゴを見張る。アミスはエイラの隣に座り頭を肩に乗せた。少し曲がった小さな肩がとても気持ち良くエイラの隣で上下する。魔法を使い睡眠を十二分に取れなかったアミスは直ぐに深い眠りに付いてしまった。


「私は明日魔法清掃があるから今回は付き合えない」

「わかった。頑張って!」


 エイラはアイラが肩から落ちないようこちらに頭だけ向け言葉を交わす。ユイラも背を向け顔だけを向けて言葉を交わしていた。

 言葉の区切りがつきユイラが歩き始めた時、エイラが強い声を背中に投げかけた。


「ユイラ!蜂蜜祭楽しみだね」


 泡のようにやさしく伸びやかな声は全てユイラの体に取り込まれるように飛んでいき吸い込まれた。


「毎年楽しみだよ」


 二ヒっと小さく笑い返したユイラを真似エイラも小さく笑い返し青イチゴに目を向ける。


 今日の夜にでも蜂蜜レモンをもって行こう。蒸し暑い夏に外で飲むのなら氷を三つ入れよう。塩も少し入れるといいかもしれない。

 ユイラは自身の家に帰る為淡々と足を前に出し一歩ずつ歩く。5月の終わりであっても歩けば背中に汗を掻き、嫌な気持ちにさせられる。それでも、自分が歩んでいる道は何故だか嫌いでは無く歩いた先に何があるのか、確かめたいと思う気持ちが最近は力強く湧き出始めている気がしていた。


「ユイラ」


 もうすぐ家に着く時、突然後ろから何者かに抱き着かれる。声や身長、温もりから正体は分かっているが、急に来られるとどうしてもおどろ行ってしまう。


「突然どうしたの!」


 後ろから抱き着いたミツネは直ぐに体を離し、ユイラの横を歩く。

 傷んだジーパンに何も描かれていないTシャツ。軽装な服でその辺の女性より魅力的に見えるのは身内びいきなのかミツネの素なのか最近見ているこちらもわからなくなってきた。


「エイラの誕生日もうすぐでしょ?作戦会議しよ」

「良いけど、先に探し物手伝ってくれない?」

「探し物?」

「うん。ベラルーカの冒険譚」


 結局流され物置の本について探せなくなってしまった。エイラは自身で答えを見つけるし、私もある程度ベラリエラを捕まえる方法が浮かび始めているが、折角題材にした話があるのなら見とくべきだとも思っている。


「ベラルーカの冒険譚..」

「そう、ただの小説なんだけどね。すぐそこのベラリエラの海も出てくるんだよ」

「それ、私の家にあるかも」

「え?」



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