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7話 森と浴槽


「ユイラさんはもう帰ったのかい?」

「はい。先ほど帰ってしまいました」


 ユイラが換金を終え10分後、受付の人間と同じ緑のスーツを着た者が来た。口元にひげを生やし黒のジャケットを羽織っている。受付の男は椅子から立ち狩り背筋を伸ばし質問に答えた。


「楽にしていい」

「はい」


 威厳の感じられる男は椅子に座り煙草胸ポケットから出す。マッチはジャケットのポケットから抜き取り火を付けた。口内に取り込んだ煙をゆっくりと外界に逃がし足を組んだ。


「あの子には申し訳がないね。若いのに魔物清掃なんかさせてしまって」

「そうですね。それでも、二時間でこれだけの掃除をできる者は多くいません。でも、彼女が成人になり森の探索及び清掃が、フリー時間になれば魔物や森の何かが分かるかもしれません」


 幽遠の森は18歳。成人を迎えれば下層探索、清掃は無制限となる。無論野宿も許されている。しかし、一般市民で森の中に入る者はそうはいない。一攫千金を狙い深くまで潜る冒険者や研究者。仕事で入る国の兵士。あとは清掃をする人ぐらいだろう。

 昔から森にはこの世のものでは考えられない物が眠っていると言われたり、魔法の発展に大きな変化が訪れるような考えが眠っていると言われている。発見した者は生涯名を残し、敬われる。指示に従い特定の物を探し出す葵鳥「ソーリエ」は見つけた人の名前を取り名付けられた。


「それがどれほど難しいか分かっているだろ。世の中に確認されている三大深層の解明は不可能に近いと。魔物についてもまだ正確な事は言えないという」

「そうですね。国の研究者が1つの研究に没頭し生涯を終えるぐらいですから」

「そうだな。脳筋の俺にはわからん世界だ」


 男は煙草を灰皿にこすりつけ腰を上げた。


「じゃあ、頼むな」


 低く渋い声でいい放ち森の中に消えていった。

 受付の男は深く一礼し、椅子に座りなおす。座ったまま先ほどユイラが持ってきた魔物の死骸を仕分けしていく。ゼリー状な魔物の破片はヘラで仕分けし、細かな固い破片はピンセットで分けていった。


ーー


 私はからぽな頭で熱火石ねつびせきを互いに強く打ち付け、水が溜まる木製の浴槽の中に入れた。木の匂いが強い風呂場。昔の人は毎日火を焚き暖かいお湯に浸かっていたらしい。今では熱火石を使い効率よく水をお湯に変えることができた。

 いつも1つしか入れない熱火石を今日は2つ入れた。どこか震える体を熱の温度でかき消したかったのかも知れない。

 熱を帯びた水で2,3回体を流し浴槽に入る。いつもより熱いお湯はユイラの肌をジリリと刺激した。足先からゆっくりと浸かり膝を曲げ肩までお湯に浸かる。窓から入る光がお湯に反射し液体を煌びやかに変化させる。

 人が死ぬのが当たり前でも寂しいよ。お母さんやお父さんが死んだ時とはまた別の悲しさだ。心に穴がぽっかりとではなく、人の繋がりが無くなる悲しさだ。

 ユイラは浴槽から抜け出し、冷たい水を体に掛ける。火照った体が一気に引き締まる。浴槽から抜け出しタオルで体を拭いていく。短い髪は乾くのも早くとても便利だ。

 服を着替え家を出ようとした時、リュックがゴソゴソと音を立てた。びくりとし肩が上がるが直ぐに落ち着きは治まった。

 恐る恐るリュックを開いてみると中から丸っこい物体が出てきた。


「フワボウ?」




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