67話
エイラとアミスが帰ってから私は一人屋根裏から月を見た。飲み物もつまむ物もなくただ淡々と暗い夜空に一番の光を放つ月を見た。そんな月を見ているとふと王都でのある話を思い出した。
『飢餓状態に陥っていたこの土地に隕石が落ち、周囲の地域にエネルギーが与えられた』
『干ばつが酷かったこの場所はたった数年で見違えるように変化した』
『突然の恵みの雨。作物の成長。人々の繁栄。』
『栄養が十二分に取れ魔法師が生まれる』
『それが夏が始まる最後の日なのです』
一つの夏、あるいは国ができるまでに様々な工程があり今私たちは立っている。もしかするとその中に私の祖先、血のつながった人物がいるのならば魔法より私は神秘的に感じてしまうかもしれない。
お母さんもその神秘的な一部で、もういないけれど何かしら私に残っているのだろう。
上を向くと顎が下がり口が開く。乾いた風が口の中に入り水分を求めたがる。点々と光る星を吸い込もうと唇をすぼめるが口の中に甘い味は広がらない。空気に味などは無いと知っていたが星には味があるのかもしれない。
お母さんは世界のことをどれだけ知っているのだろうか。沢山の知識を蓄え、たくましく、偶にドジをするお母さんは深層で何を見たのだろうか。森の中心には何があるのだろうか。
私はもうすぐ届きそうな光を見つけ手を伸ばした。
ーー
「ユイラやっぱり青イチゴをしっかりと育てるには土と栄養が必要だったんだ」
「なんのこと?」
蜂蜜とバターを塗りたくった少し重い朝ごはんを食べているとエイラがいきなり叫びながら玄関を抜けてきた。
後ろから小走りで追うアミスは息を切らしており朝から大変なのだろ。
エイラは大人っぽいが子供っぽい。好奇心の高さならミツネを超えるかも知れない。そして、行動力は私と同じぐらいだろう。
「昨日考えたんだよ、何が必要かって」
「それで、土と栄養?」
「そう!昨日寝る前にアミスと話してて思ったの。青イチゴは成功事例が少ない。何が必要か倉庫の本には書いてあるかもしれないけど、おそらく私の考えで合ってる気がする」
エイラは身振り手振りで状況を説明し、朝から活気あふれるオーラを纏っている。エイラの発言から推測するに既に倉庫の散策はしなくていいのだろう。私もおおよその段取りは着いたのだが少しだけ本を見て見たい気持ちもあった。しかし、この後のエイラの言葉を考えるとそのような時間もないのだろう。
「ユイラ青イチゴ作るよ、手伝って!」
予想していった言葉を炭酸水で飲み込みパンの粉が付いた手を皿の上ではたく。まだ指先に何かが残っている気がしたが考える暇もなく、家を出て三人でユイラの家を目指した。