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65話


 お風呂場は木の匂いと新しく花の匂いが追加された。エイラが王都に行った際に薔薇(バラ)の香りがする洗泡石(せんわせき)を買い、現在風呂場の香りを支配しようとしている。強い香りが体に付き香りに酔ってしまうと思っていたがエイラの話によると体に残る匂いはほのかに香るだけらしい。おそらくエイラも店員に聞いたのだろう。


「ほんとアミスは髪長いね」


 エイラはバスチェアに座るアミスの後ろで彼女の髪を洗う。前髪を後ろに持ち上げ小さなおでこが泡で覆われる。髪も肌も綺麗な色をしており土仕事をしていたとは思えなかった。たった二歳しか変わらないアミスはとても幼く見え自立しているように見えないが一人海の中彷徨い、村に来た。泳げるのかは分からないがここまで一人で来たアミスはとても凄いことをしてるという実感はあるのだろうか・。

 私ならお母さんの後ろを歩いてないと怖くて足を前に出せない。


 ユイラは浴槽に口を付け小さな気泡を沢山作る。隣では二人の笑い声が聞こえお風呂場に響き渡る。薔薇の香りと木の匂いは反発せず互いが尊敬し邪魔をしない。

 人の体温よりも高めなお湯で体を包み、幸せに浸る。隣から飛んできた小さな泡がユイラの目の前で弾け香りが広がったと思ったら次々と泡が降り注いできた。


「何やってるの?」


 隣にいる二人はけらけらと笑いながら指でオッケイマークを作っている。そんな指からはシャボン玉が次々と作られ、あるものは上昇しあるものは下降した。シャボン玉はエイラの方が大きくアミスの方は小さい。たった二歳の月日が経過するだけで子供のシャボン玉はその大きさや品質を変えてしまう。


「この洗泡石凄い泡立つしシャボン玉も消えにくいの」


 エイラは楽しそうにシャボン玉を作り続ける。いつもは凛々しいはずのエイラもこういったところはまだまだ私よりも子供だ。アミスに合わせるという事ではなくエイラはこういった楽しい事が好きなのだ。花火もシャボン玉も。


「シャボン玉を作ることを想定して少し強めの香りを付けたのかな」


 シャボン玉が次々に割れ香りを強めていく。土のにおいなどしない、純粋な薔薇の香り。今まであまり花を嗅ぐことはしなかったが、これからは少し気にしてみようかな。


 日が傾き始めお風呂場に力強い日差しが射しこむ。体が火照り日の暑さまで浴びると、流石に意識が遠くなろうとする。二人は未だに遊んでおり、体温は高くなってはいないだろう。


「熱くなってきたから先に出るね」

「はーい」


 お湯から体を離しお風呂場を抜けて行く。お風呂場の少し分厚い扉を開け外に出ると薔薇の強い香りが無くなり微かに体に心地よい匂いが残っていた。

 髪は乱雑に体は丁寧に拭いていく。毛羽立っていないバスタオルは体を優しく包みとても気持ちが良い。お湯に包まれる暖かさと違う暖かさを感じる。


 だぼっとした大きめのTシャツに袖を通し短パンを履く。短パンも余裕がある物を履き風通しを良くしていた。余裕のある服を着ると鏡に映る自分がいつもより小さく、幼く見えた。都会の人たちはこのような服も上手に着こなし日々楽しみを増やしていくのだろう。


 ユイラは水分がまだ残る髪を後ろに持っていきでこを出す。

 先程まで蜂蜜レモンが入っていたコップに氷と炭酸粉、水を注ぎかき混ぜ一気に飲んだ。

 口から入った冷たい炭酸水は喉を刺激し、鎖骨付近で分裂していく。胸のあたりにひんやりとした何かが染み込み体を軽くした。

 ユイラはお風呂から出て最近良く思う事がある。 


「夏が始まるな」


 ポツリと漏れた声はユイラの体の温度に合わせて吐き出された。お風呂から上がり寒さが体を包まない。そんな冬とは違い、暑くも寒くもなくでも少し暑いこの季節は夏の始まりを告げているようだった。


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