61話 ミレガ・アミス
少女はゆっくりとフレンチトーストにフォークを刺す。バターがフォークに輝きを与えながらパンから溢れ出す。食パンにバター、卵、蜂蜜と単純な食材だけで作っただけだが見た目以上にフレンチトーストは幸せを運び込む。
口いっぱいに頬張った彼女は苦しそうに口を動かし、リスの様に頬を膨らませた。柔らかな頬は広がりフレンチトーストの半分が入ってしまった。
正直、そんな頬張ったら味が分からない気がするがそれ程までにお腹が減っていたのだろう。倉庫の食料でも食べれば良かったのに。
フレンチトーストを無理に頬張る少女を二人は見ながらぼーっとしてると少女はフォークを置きもごもごと喋り始めた。
「が、ばあ、にはいてて」
「飲み込んでから喋ってくれない?」
エイラは優しい表情で少女に蜂蜜レモンが入ったコップをゆっくりと少女の手前までもって行った。零れそうな蜂蜜レモンを確認した少女は口に入っているフレンチトーストを先ほどよりも早く咀嚼し飲み込んだ。
「ありがとうございます」
少女はお礼を言いぺこりと軽く頭を下げた。食料に手を出さなかった少女は喉も乾いていたのだろう一気にレモン蜂蜜を飲み干し中に入っていた一枚のレモンも吸い込まれるように口に入って行った。
「ぷはぁー生き返りました!」
少女は顔を上げ花を咲かせた。鬱陶しそうな前髪を持ち上げた少女は小さなおでこを見せニッコリと笑う。しかし、すぐに目線を下げ残り半分のフレンチトーストを見るがフォークの手が止まる。何かを迷っているのか、私たち二人に目配せをしたりフレンチトーストを見たりとフォークとは反対に目の動きが止まらない。
そんな少女を二人が見守り沈黙だけが流れていく。途中フワボウが机の上をゆっくりと歩いていくが完全に場違いな状況になっていた。
「あ、あの。えっと、あのー、えっと」
少女は今度は口周りがおぼつかないのか上手く言葉が出てこない。そんな少女を二人は未だに優しく見守り、フワボウは机の端を往復している。
「えっと、あの、ミレガ・アミスです」
少女は二人から目線を離し名前を伝えた。その時には手は膝にありフォークは皿の上に置かれている。
ミレガ、聞いたことない名字だけどどこの町から来たのだろうか。でも、服もいい物ではなさそうだしお金持ちの場所ではないのだろうな。
「アミスちゃんかー歳は?」
エイラはフレンチトーストを美味しそうに食べてもらい期限がいいのか甘い顔になっている。
「今年おそらく14になります」
「そうかーじゃあ2つ下だね」
まさか14歳とは思えなかった。どう見ても顔立ちはもう2、3歳幼い顔立ちだ。体も雲みたいに軽そうだし手足も細い。胸は、うん、私が勝ってる。
ユイラは隣で話す二人を静観し一人考えに耽っていた。
「それで、なんでユイラの倉庫の中に入り込んだの?」
「あ、申し訳ございません。流されて着いた先がここで、雨が降ってきて雨宿りできる場所を探そうと歩いていたら開いていたので」
申し訳なさそうにアミスは話始め俯いてしまった。
それより、流されたとはいったい何なのだろうか。