6話 葵鳥
「てか、フワボウに気を取られてる時間ない」
一匹ポツンと独立で動くフワボウに目が行き目的を忘れていた。魔物清掃で貰えるお給料は歩合制だ。しっかりと働かないと雀の涙程度しかお給料を貰えない。ある程度自給自足をしているがお金は無いと、普通に不便だ。
ユイラは手早く腐った魔物や死んだ魔物を袋に詰めていく。原型をとどめていない魔物の死骸もある為何かに使えそうとは思えない。
一時間ほど掃除を真剣に行い、満足いくお給料は貰えそうだ。拡張袋をリュックの中にしまい代わりに青の粉末を出す。一度近くの土を摘み軽く手前に投げる。土埃が左に飛んでいった。
「風上は東か」
幽遠の森は常々変化する。下層部。私が今いる場所ではそんなに大きな変化はない。あるとしても風の吹く向きが変化したり、急な雨など小さな変化しか起きない。変化の度合いは森の深さによって変わる。中層では急に地面に穴が開き人が落ちたという噂もある。子供が森に入らないようにする為の優しい嘘かもしれないが、本当にありそうで正直怖い。
私は風向きに体を向け、袋から少量の青色の粉を上に振るった。
青い粉は空中で煌めき、空中で漂う。物理法則を無視した粉は不規則的に小さな鳥に変化した。その鳥は綺麗な羽毛を携えてる訳ではなく、小さな粒が鳥をかたどっていた。
「本当に葵鳥になるなんて」
魔養鳥。近くにある魔力を吸い取り姿を現す。青い鳥ソーエリは命令が下るまで頭上で旋回している。
「え~っと。あむどありろりりーらぽら」
ユイラは目の前で飛んでいるソーリエに目的の物を伝える命令をするが一向に飛んでいくそぶりを見せない。
呪文間違えたかな。ていうか、エアリエ語を使わなくてもいいんじゃないかな。
「ソーリエ、良好草の場所を教えて」
私の声に反応したのか、ソーリエは先ほどよりも早く旋回をした。円を描くように回るソーリエからは青い粉が舞、気の隙間から入る日の光に反射し幻のように、景色を作った。
場所が分かったのかソーリエは先ほど私が来た場所に向かい飛んでいった。ユイラは時おり木の根に足を引っ掻け躓きそうになるが、しっかりと視界にソーリエを抑え追いつくために走った。
ソーリエが再び旋回を始めたのはユイラが入ってきた門から五分くらい進んだところだった。
「ここ通ったのにな、まぁいっか」
ユイラは旋回しているソーリエの下で先ほど入っていた袋を再び開いた。
「ありがと」
一声かけるとソーリエの形が崩れていき雪が落ちていくように袋の中に柔らかく入って行った。
よし、あと30分くらいか。穴掘り開始だな。
ユイラは近くにある木の棒を一本持ちソーリエが旋回していた場所を掘り始める。時間が無い為ユイラはとにかく手を動かした。
そんなに深くにあるわけじゃないから、あと少し。
持っていた木の棒が丁度土に埋まった時、ユイラが探していた物が現れた。
「あった!良好草の種。これでガユラおばさんが治る」
ユイラは地中に埋まった三センチほどの大きな種を丁寧に取り出し、持ってきた布で包んだ。時間も既に5分前と丁度良く、テンポよく門まで歩いていった。
「ご苦労様です。何か大きな変化などはありましたか?」
「特にはなかったです。これお願いします」
「お預かりいたします」
受付の人に拡散袋を渡ししばし待つ。受付の人と後ろの人が中を確認したり重さを測っていた。
「合計で金貨1枚銀貨5枚銅貨5枚ですね」
「ありがとうございます」
魔物清掃はお金になる。リスクと匂い、環境さえ我慢すればだが。
換金してもらい、笛と袋を返し門を後にした。
「また、魔物が溜まり次第連絡致します」
「はい、お願いします」
森を出て再び村に戻るために足を動かす。正直、往復するのも結構なエネルギーを使う。行きはパンの匂いで辛さを誤魔化せたが今回は違う。魔物の死骸の匂いが体に染みつき臭い。ふくらはぎも既に疲労が蓄積しており、歩くだけでも一苦労だ。30分で歩くことができた道を45分かけ戻り家に着いた。
「ユイラ!」
ドアノブに手をかけたところで、私は後ろから声を掛けられた。その声色だけで誰か識別ができる。
「どうしたのエイラ」
息を切らしたエイラは髪が乱雑に乱れており、全力で走ってきたことが分かった。
「ガユラおばさんが、さっき息を引き取った」
「そう」
別に驚きはしない。人間には寿命があるし、死がある。生きる中に死があるだけ。心臓の鼓動も特に上がることは無かった。
「今、ちょっと臭いからお風呂入ったら直ぐに向かう。わざわざありがとうね、エイラ」
ドアノブを捻り、家の中に入って行く。中からは音は聞こえず、淡々とリュックをいつもの場所に置き、棚から一枚タオルを取り出した。
人は死ぬ。特に驚きもしない。私の母も父もユイラの父も生を終えた。驚きはしない。でも...
「寂しいな」