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57話


 ユイラは家に入り体の疲れが剥ぎ取られたのか足が軽くなりふらふらと廊下を抜けて行く。王都を出る前にお風呂には入ったが1日配送馬に揺られ、俵の匂いが体に付いている。人とお米を運んでいたのに早く走れる馬の馬力は凄い物がある。そんなことを考えながら歩いているユイラはお風呂に向かうはずが着いた場所はふかふかのベッドの上だった。


「おやすみ」


 沈むように体がベッドに取られていき、それと同時に意識も薄れていった。


 いろんな刺激を受けた日の睡眠は沢山の夢を見ると思っていたがそんなことも無くバターの芳醇な香りで目が覚めた。おそらく焼いているのはパンだろう。少しの甘い香りが、ドアの開いた寝室まで届いていた。


「おは、よう」


 開かない目を擦りキッチンにたどり着くと黒のエプロンを着たエイラがいた。赤い髪は疲れを見せず綺麗に垂れ下がり歩くたびに靡き後姿が色っぽく見えた。


「何で朝からエイラがいるの?」


 ユイラはエイラの隣に行きコップに水を汲む。ぐびぐびと喉を鳴らし水を勢いよく飲み干す。体に上手く澄み渡ったのかユイラの体が滑らかに動き出す。


「何でってもうお昼だよ?」

「あれ、もうそんな時間?」


 更に盛り付けられたスクランブルエッグとサラダ、皿から飛び出た食パンはおそらくミツネのお店で買った物だろう。卵を多く使っている為、生地が黄金色をしていた。


「いただきます」


 かぶりついたパンは心地よい音と共にしたの上をバターが滑っていった。鼻から抜ける動物性の匂いは小さい頃は苦手だったが今では気にはならない。それよりもバターの旨味を更に味わいたく偶に多めに入れてしまう。プチトマトの口で弾ける触感もとても気持ちが良かった。私たちの村のプチトマトは他の地域とは違い一回り小さく二三粒口に入れ食べると、とても気持ちが良かった。


「先に倉庫行ってても良かったのに」

「んー起きないから探そうと思ったんだけど、ふわふわした魔物がいたからさ」


エイラは目を細め明後日の方向を見ていた。


「ああいうの苦手だっけ?」

「んーそんなに苦手ではないけどあいつ足が6本カサカサ動くから」

「それも可愛いじゃん?」

「なんか背中がムズムズするんよ」


 そんなことを言いながらエイラは背中に手を回し掻いた。私の食事が終わるまでお茶を飲みながらまったりしているエイラは大きなあくびを手で隠し目の端に涙を貯めていた。

 流石に呑気に食べているわけにも行かないので急いで食事を終え顔を冷たい水で勢いよく洗った。


「準備できた。おまたせ」

「ん、じゃあいこー」


 流しに皿を入れ水に漬け込み、玄関に掛かっている倉庫の鍵を取り家を出る。鍵が掛かっている倉庫は今はフワボウのお気に入りの場所となっている。小さな穴から入り込み、一日二日出ないこともある程気に入っているみたいだ。


 隣の南京錠を開け倉庫の中に入って行く。建付けは最近良くしたはずだが、何故か噛み合わない音を立て、ドアが重くなっている。


「全然開かない」

「この前直してなかった?」

「そのはずなんだけど。んーーーはぁ、開かない」


 力を込めても開かずエイラと力を合わせ勢いよく引っ張るとガタンと強い音がしたのち開いた。荷物が崩れ邪魔をしていたのだと思っていたがドアレールには何も挟まっておらず、単純に建付けが悪くなっていたみたいだ。

 ユイラはため息をそこそこに、探し物をしようと顔を上げようとした時エイラが肩に手を置いた。珍しく震えているエイラの手は力強く肩を締め付け少し痛かったがエイラの一言に私は驚いてしまう。


「ねぇ、ユイラ、あの人誰」


 エイラが指を刺し、示した方に顔を向けると紫色の髪をした少女が布の上で気持ちよさそうに眠っていた。

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