56話 4日
5月24日。私たちは王都から一日配送馬に乗り朝方村に付いた。配送馬の中は三人しかおらず、夕食のシチューを食べユイラとエイラは寝てしまっていた。
ガイスは目を瞑っているのものの意識はしっかりと持ち続け夜道を走る配送馬の揺れに身を任せていた。
来年からは村を出て一人王都の工房に入り勉強をしていく。今日、ミツネはいなかったが昔から遊んでいた友達と離れるのは少しだけ思うところがあった。別にもう会えないわけではないし、夏休みになれば村に戻る。
少しの期待と少しの寂しさが混ざり合うことは無く、調和せず両方が引っ張り合う。そんな感情にガイスは眠気を邪魔され、眠ることができないでいた。
自分が工房を卒業した時には、しっかりと職に就けるかもわからないが王都で働けたら良いなと漠然と最近は考えている。将来が見えないのは意外と怖い物だ。
そんなことを考えていたら、日が昇り一睡もできず村に付いてしまった。
「ふぁー長旅だったね」
「そうね。流石に体が痛い。クロガバトのベットに慣れたせいかもしれないけど...」
「それは分かる」
エイラはぐっと腕をまだ薄暗い空に伸ばし体を解した。すっと通り過ぎた涼やかな風はエイラの髪を靡かせ余分な水分を飛ばしていった。
「クロガバトの草は結局ラエ姉に任せたの?」
「うん。リエ姉は図書館が忙しすぎて流石に管理までは出来ないって」
「そしたらラエさんがやると言ったと?」
「うん」
現在、クロガバトの苗木をリエさんと双子のラエさんに渡し育ててもらっている。
ラエ姉は元気な性格だが若干大雑把なところもあり心配していたが、どうやら少しずつ噂が広まり利益が出ているらしい。
私の家に美味しい果物とお金が来るが正直、貰うお金が多く偶に困ってしまう。おそらくそこそこの値段で売れているのだろう。
「ユイラ今から行ってもいい?」
腰回りや肩、お尻などが痛いはずだがエイラは目を輝かし私に言ってきた。おそらくは青イチゴの本の事だろう。疲れているはずだが、ここまで好奇心を持てると言う事は相当エイラは青イチゴに固執しているのが分かる。でも...
「今日はさすがに帰らない?おそらく本なら倉庫から出て行かないだろうし」
「うぅ、まぁーそうだよね。私も多分ベットに付いたら寝ちゃいそうだし」
「俺はもう帰るわ」
ガイスは寝れなかったのか大きなあくびをし一人歩いていった。足取りがおぼつかなかったが大丈夫だろうか。手にぶら下げている綺麗な紙袋が潰れてしまわないかとても心配だ。
「じゃあ、また明日行くね」
「うん。私は帰ったら寝ちゃうよ」
二人で歩き村の中心部に入ると、既に村の中はお祭りの準備が進み屋台が王都の様に一直線だけ並んでいた。十字路に所狭しと並んでいた王都とは違い一直線にしか屋台は無いが村は村でとても暖かく人がいなくても既に心が躍っている。
「じゃあ、ユイラまた明日」
「うん。また明日」
エイラと別れ私は一人、家に向かう。4日も家に戻らない日々を送ったのはお母さんとキャンプをした時ぐらいかもしれない。
ドアノブを捻る時何故だか新鮮な気持ちになり心拍数が若干早くなる。
玄関に入った瞬間に吸った空気はどこか懐かしく、体にじんわりと広がり心拍数を日常に戻していった。
「ただいま」
小さな旅が終わりました。
ダラダラと書いてしまい、すみませんでした。