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54話 魔染火大会


「ベルエットが彼女の名前?」


 喧騒の中では他人の声は縁を持たずぼんやりとしか聴こえない。しかし、隣にいるガイスの声はしっかりと耳に入ってきた。


「うん。王国工房学院の主席であり、ラムネの瓶の元を作った人だよ」


 ガイスはどこか悔しそうに彼女に目を向け、話してくれた。


「物作り、魔法。どれも凄いし早い。課題は3日で武具を一つ作るものだったんだ。でも、あいつは1日と半分で透明な薄いガラス板に魔法を組み込み浮かせた」


 ガイスはその後も詳しく話してくれた。

 どうやらガラスを浮かしたのはガラスの下から空気を出し持ち上げたという事らしい。それを応用してベルエットは瓶を作り水を入れ炭酸水にしたそうだ。

 その技術を国がその場で買い、異例の速度で合格させ特待生となった。

 そんな彼女との大幅に開いた差に悔しさよりも諦めがついた生徒も多数居るそうだが、ガイスだけはまだ、心の中に悔しさを持ち続けているみたいだ。


「本当に意味がわからないのと同時に世の中には天才がいるんだと思ったんだけどさ、俺まだ工房で何も教わってないし学院の授業も受けてないからここからだと思ってるんだよ」


「まぁ、その分相手も色々学ぶだろうけどね」


「エイラ、流石に痛いからやめてくれますか?」


 ガイスも言葉で言えど気持ち的にまだ整理がついていないのだろう。物理的な攻撃をしたわけではないエイラにガイスはしっかりとダメージを受けていた。


 そんなこんなで話が進み空も暗くなり、魔染火大会が始まろうとしていた。


「皆様、お越しくださりありがとうございます」


 魔法で拡散された後は波を撃ち私達に届く。何層も重なり合ったあとは重複し少しばかりの不快感はあったが、ようやく始まる事への期待が膨れ上がり掻き消していく。


「5月22日。時刻は6時を回りました。第156回魔染火大会、司会を務めますアンド・ペルと申します。どうぞよろしくお願いします。」


 彼のぱっきりとした声は周囲を静かにさせ落ち着かせた。先程までの喧騒は止まり中央に位置するステージに周囲の目は集まり離さない。


「皆様知って通り年に2回行われるこの行事は私たちパーク王国国民にとって、とても大事な行事であります。私たちがいるこの場所はパーク王国の始まりの地とされています」


 ベルは杖を口元に置きながら目線を周囲に移し話す。皆がその言葉を聞き入り静観する。先頭に注視すると歳の高い者が多く、歴史的な行事なのだと言葉以上に実感した。


「かつて飢餓状態に陥っていたこの土地に隕石が落ち、周囲の地域にエネルギーが与えられました。干ばつが酷かったこの場所はたった数年で見違えるように変化していきました。突然の恵みの雨。作物の成長。人々の繁栄。栄養が十二分に取れ魔法師が生まれるまでになりました。それが夏が始まる最後の日なのです」


 前方から嵐のような激しい拍手が巻き起こる。両手の掌で空気を押しつぶし大きな音を鳴らす拍手は私たちの村まで届いているのではないかと思うほど大きかった。

 なかなか鳴りやまない拍手にベルは微笑み杖を使い一本白い光を空に投げた。

 その行為にどんな意味があるか私は分からなかったが皆が拍手を辞めたため私も同じように拍手を辞めた。


「そんな大切な夜に今年はとても素敵な魔法師たちがいらしてくださいました。それでは紹介いたします」


 ベルの大きな声が周囲に発せられた瞬間男たちが島を囲い一斉に演奏し始めた。

 見たことも無い楽器は私の内臓を揺らし鳥肌を立てる。先程の魔法を使った音の拡張ではない純粋な大きな音。どこまでも消えることのない透き通った爆音。

 

 そんな美しく奏でられた音に吊られるように空高々に大きな白光火が放たれた。一直線に放たれたその細い日は途中で消え爆発音と共に花開く。この地を覆う大きな白い円状の光。


「初めに紹介致します。国立魔法大学教授・アン・ボエリー」


 爆音に負けない程の大きな声をベルが出した瞬間、白く光っていた筈の花火が緑に変色し、パーク王国のトレンドマーク緑桜の形に変化を遂げた。

 その代わり用は異常な程滑らかで私は口を噤んでしまったが周囲の観客は慣れているのか、立ち上がり、大声を出し拍手を送る。

 その後も、白光火が色を変え形を変え周囲を楽しましていた。


「最後はこの方、パーク王国いや、世界を代表する魔法師エット・ペーラー」


 名前がコールされるだけで観衆は狂ったように叫び、叫び、叫んだ。喉がつぶれた者もいたかもしれない。泣いていた者もいたかもしれない。しかし、そんな観衆を彼女は一瞬で黙らせた。

 前の四人と同様に白光火が空に高々と上がり花開く。皆は色を変え形を変えていたが、エット・ペーラーだけは根本から違っていた。

 ペーラーは杖を構える素振りもなく、ただ微笑んでいる。その行為はベルも予期していなかったのか驚いた表情を見せ言葉を詰まらせていた。

 光の粒が落ちていく。おそらく観客が次に息をする頃には消えてしまうだろう。

 周囲は静まり返り小さな子がしゃくりあげた時だろうか、ペーラーが杖を振った。その瞬間、落ち始めた白い光が急激に発光し走り出した。そんな光は島の周りを包み込む。中心部が見えない程に白い粒で覆い隠され、再び起きた爆発音と共に七色に変色し弾けた。


 息をしたくても呼吸法を忘れてしまった。今なら生理現象も起きないかもしれない。それ程までに皆が一瞬身体から何かが抜け固まった。


 再び小さな子供のしゃくりあげる声が聞こえ、拍手が鳴り、歓声が空気を揺らした。




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