53話
ガイスが言うには今日が早く日が落ちる最後の日らしい。
明日からは待てど待てども日はすぐに落ちていかない。そんな日からを夏の始まりとし、今までよりも1、2時間日の光を浴びるのが長く熱くなる。カラッとした昼に蒸し暑い夜。冬の時期に待ち焦がれた夏が来る。
まぁ、実際には梅雨があるからそのあとになるんだけど、夏本番は一週間で満足してしまいそう。
「うわー凄い人だね」
目の前に広がる世界は悪く言えば気持ち悪かった。エイラもつぶやきから口が塞がらないのかポカンと口を開け口内を乾かしていた。
人の流れに乗り込み流されたどり着いた場所は大きな泉に島が出来ており周りに何隻か船が止まっていた。それを囲うように人が溢れ、ざわめきが周りに壁を作る。
私たちがいる所では泉はちっぽけで目を細めないと人がいるのかもわからなかった。
「てか、王都ってこんなヘンテコな場所もあるんだね」
エイラがガイスに尋ねたことは私も聞こうと思っていた。
流れに任せて一時間とにかく歩き、歩き、歩いた。買ったはずのラムネが汗になり流れ、道のりに並ぶ屋台で再びラムネを買った。周りの人も話しながらご飯を食べ、薄暗くなり暖色のランタンに照らされながら歩いた。そして、会場に付いた。
会場のつくりは泉を囲うよう坂が広がり後ろの方まで、泉の島が見えていた。
もし、人がいなかったら急な坂を滑り泉の中に飛び込む遊びが流行りそうだ。
「ここだけだよ、こんなに窪んでるのは。昔、隕石がここに落ちたんだと。そんで、雨が降り埋まる事の無かった隕石が島になったんだって。周りの坂は落ちた衝撃だとよ」
「それ、本当?」
「さぁ、真実はわからない。でも建国記念日とかには儀式が行われるんだと。まぁ、一般の人は参加すること以前に周りを囲われ見ることもできないけどな」
「「へぇー」」
三人は流れが止まった場所に腰を下ろし始まるのを待った。坂になる場所は舗装されているが綺麗な石で作られているためお尻が直ぐに痛くなりそうだった。
涼し風が辺りを流れているかもしれないが、周りの人に吸収され冷たいラムネが体内に広がる事でしか熱さを凌ぐことができなかった。
ユイラは襟を前後に伸ばしTシャツをはためかせ、少しでも新鮮な空気を取り込もうとするがすぐさまエイラに手を抑えられる。
「ユイラ!」
「なに?」
エイラは堅めの声を発し顔をカーっと赤くし、ユイラの手首をぎゅっと握り動かせなくする。隣のガイスは興味がなさそうに棒付きアイスを大きな口で食べていた。
「そんなことしないの」
「いや、中にもう一枚着てるし」
「それでも!」
エイラに握られた手は強い力により鎖骨にコツっと当てられた。もう新鮮な風が通る道が少ないと思うとじわじわと体内が熱を帯び始める。
私の体を冷やす物は本当にラムネだけとなった。
ガイスの話ではあと少しで始まるみたいだが特にやる事もなく私は周りをぐるりと見渡した。そうそう見る事がない人の数に目が奪われたのが大きな理由だ。
周囲を見渡した時、私の目は引き付けられるようにある場所に目が行った。
「あの綺麗な銀髪..」
私がいる場所からうんと前。そんな遠くにいる場所でも彼女を見つけることができた。彼女の口の動きから何を言っているかは分からないが、小さな口を細かく動かし何かを言っているようだった。
「どうしたの?」
「あの子、道ですれ違ったの。銀髪が凄く綺麗な子」
ユイラは視線を目的の場所に送りエイラに伝える。エイラはその存在に気付いたのか綺麗と一言いいラムネに口を付ける。
しかし、エイラの反応とは違い隣にいたガイスは、重苦しい言葉をポツリと漏らした。
「なんでいる..エット・ベルエット」
ガイスの声は熱い温度に包まれ手前で落ちた。