46話
短いです。
真っすぐ曲がり角のない細い道。暖色の灯りが点々とあるが数メートル先は鮮明には映らない。濃霧が周囲を隠しているわけではない。光が差さない道が視線を隠しているわけではない。でも、何故か数秒歩いたら届く距離が見ることが出来ない。
ザクザクと音を立てながらランタンの灯りを頼りに歩き出す。喧騒も風の音すら聞こえない。聞こえるのは自分が唾を飲む音と地面を擦る音だけが私の耳に届く。
どれだけ歩いただろうか。未だに本屋が見つかることが無い。まぁ、ここに来てから人すら見てないんだけど、サエ姉は私になんでこんなことを教えたのだろうか。それよりも、さっきまでいた国兵はどこ行ったのだろうか。杖は今私が持ってるし、どっか行くことは無いだろうけど、本当に人の気配が感じられないな。
周りを囲っているのは家なのかお店なのか定かではない。一つ言えるのはただの壁ではない。窓が付いていたり扉が付いてたりしている。しかし、窓の奥は真っ暗闇で何も見えないどころか、私が反射し移り込む。扉は装飾がなされておらず、銀色のドアノブができものの様に引っ付いていた。そんな扉が私の左右に連なり閉塞感を与える。
私は帰れるのだろうか。足の震えをこらえながら先の見えない道を歩いていく。ランタンが揺らめき私の影が揺れるだけで自信の体が揺れているのかと錯覚してしまう。ザクリとなる足裏の小石たちも不穏な音を奏で私を心配させている。
多くの者がこんな時、杖を持っているのだから魔法を使うのだろうが私は魔法が使えない。小さな火を起こすことも微細な光を出すことも叶わない。私が今頼れるものは絶え間なく動き続ける心臓と点々と光るランプ、足裏に感じる小さな小石の道だけだった。私が死んでいないことを証明している物だけが信じれる。
もう、何歩歩いたのだろうか。行き先が見えないだけで、どっと重い物が体にのしかかる。小石を踏む感覚にも慣れ歩き続けた。
「なんか、灯りが多くなったような気がする」
小道に入ってからおおよそ15歩間隔にランタンがあったが今はもう10歩から8歩くらいの短い距離になっていた。ユイラは何かがあると思い足の回転を速めた。息が乱れるが喉元に張り付いた唾を飲みこみ足を緩めない。
何がある。本屋があるのか。何か他の何か別の、私が見たことも無い世界が。
ユイラは急いだ歩みを止め立ち止まる。何か特別なものがあったわけではない。今まで私の左右を塞いでいた扉が目の前に現れ私を止めただけ。灰色の扉。銀色のドアノブ。私の歩ける道はもう、後ろしか無くなった。
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「お母さん怖いよー」
私は暗い森の中、お母さんと手を繋ぎ泣きじゃくった。深い森の中、どこから来たかもわからなくなった。そんな中、お母さんは握る手を緩め苦笑いをしながら杖先で小さな光を灯した。