43話 予定変更
食事を終えステーキレストランを抜けた時には先ほどより街の歩調が落ち着きこれから先の時間はゆったりと暖かく流れて行きそうだった。
ユイラは落ち着いた街が自分の体に流れる時間にあって来たのか先ほどよりも落ち着いて街の景色を見る。いつもなら昼食を食べた後に眠気の波がやってくるが見慣れない街に体が強張り瞼が落ちてくることは無かった。その他にも先ほど食べた大きなお肉も影響しているかもしれない。
「じゃあ、俺たちは仕事に戻るな。資料届けてくれてありがとうエイラ」
「どういたしまして」
ケイラはエイラの頭に一度ポンと手を置き名残惜しそうにゆっくりと手を離した。サエラはユイラに後ろから抱きつき方に顎を乗せる。
「ユイラもまた今度ね。夏の休みには帰るから」
「そう。なら、蜂蜜レモン頑張って残しとくよ」
「絶対飲むから残しといて!」
急に大きな声を出すので鼓膜が強く震えピリリと頭が走る。周りの音が途切れたが次第に感覚が戻り喧騒が聞こえ始めた。
「あ、サエ姉。ここから近い本屋さん知らない?」
「本屋?」
サエラは首を傾げ頭の中で地図を広げた。目を動かしながら目的の場所を見つけ、ユイラを見た。
「右に進んで行ったら美容院があるからそれを左に曲がる。そんで、直線に行けばわかるよ。細い道だしそんなにお店もないから」
サエラは簡素に告げケイラの後ろを追った。たまに振り返るときの笑顔は悪いものを何も知らない子供のように明るく純粋な笑みだった。
「それじゃ、兄さん姉さんまた今度」
「うん、寂しけどまた長期休みの時行くから」
「野菜食べさせてね」
ケイラは名残惜しそうに、サエラは優しい目を向けエイラの頭をポンと、優しく叩いた。そんな兄や姉の手をうざったそうに振り払うが表情は満更でもなく少しの寂しさと照れ隠しが含まれていた。
二人は人混みに混ざり姿が隠れ始め次第に見えなくなっていった。
「次はガイスの予定だけど、目星とかあるの?」
「決めてないけど、出店とか見ようかと」
「あ、あのさちょっといいかな」
ユイラは二人の会話が丁度途切れた場所を狙い声を挟み顔を下を向け申し訳なさそうに二人に声を掛けた。
「私本屋行ってくるよ」
「先行くってこと?」
「いや、時間も勿体ないしエイラとガイスはミツネのプレゼント選んでて」
エイラは少し寂しそうな顔をするが直ぐに表情を変え言葉を返した。
「じゃあ、今13時だから15時にはまたここに集合しよ」
「うん、ありがとう」
「そんじゃあ、15時に集合ってことで」
予定変更は簡単に決まりエイラとガイスは先程サエラさんたちが歩いていった左側に。ユイラは一人右側に足を向け歩き出した。
ユイラは一人道の端、出ている屋台の後ろを通り周りを見ながら考えていた。王都の人間は歩くスピードも身長も高いのだと。踵を上げ歩きにくい靴も上手に歩き軽やかに歩く。スーツの男の人はその二倍の速さで歩いていく。
私が感じた時間の速さは人の動きの速さの影響かも知れない。王都の人間は急いでやる事が沢山あるのだろう。私はのんびりとした村でいいや。
屋台が並ぶ後ろを通る人は少なくすれ違う人間も二桁に達していなかった。しかし、そんな隠れた場所にも光るものがある。
ユイラはそんな光るものに目を惹かれ注視してしまう。まだ距離は遠い。それでもその神々しさに目を離せないでいる。腰までとどいた銀色の細い髪。そんな綺麗な髪からひょこりと現れる少し大きな耳。画家が理想を込めた綺麗な顔立ちは、一度目を向けたらそう簡単には離せそうになかった。薄汚れた丈の長いTシャツも目の前の人物が着ることでオシャレという単語に変換できてしまいそうだ。
私と同い年なのだろうか。まだ、顔に幼さが残り女性としてのスタイルも余り出てはいない。歩き方もお淑やかではなくトボトボと自信なさげに歩いているし。
ユイラは銀髪の少女の横を通り抜け振り返ろうと思ったが、余り見てしまうのも失礼だと感じ首を硬直させ目の前の道に足を向け歩きだした。
王都にはまだ見慣れないものや知らない単語が溢れていた。同じ国であり通ずることも沢山あるが、土地が変わるだけでこんなにも状況が変化するなんて知らなかった。私は余り小説を読む方ではないが世間で小説が人気な理由がわかるし、お母さんが嘘の物語を想像するのも少しわかった気がする。知らない場所での緊張と不安と楽しみと興奮は楽しい物なんだ。
ユイラはステップを踏むように軽やかに固い地面を鳴らしテンポよく歩き本屋を目指した。