42話 ケイラ
店員の女性に案内され私たちはステーキレストランに入っていた。入ってすぐ、お腹に刺激を与える匂いが漂い食欲をそそられる。
木造建築であり天井が高く二階席まで作られ、店は縦に長かった。昼時ということもあり店内は喧騒に包まれ直ぐには食事にありつけそうになかったがサエ姉が定員と言葉を交わしどうやら予約が取れていたみたいだ。
近くの階段を上り二階に登っていく。店内にいる人たちは多くが男性であり歳もそれなりに若い人たちで、テーブルに置かれているステーキの大きさは驚く物だった。
「サエ姉、ここのステーキ食べきれる気がしない」
「ん?」
サエラは振り返りユイラを確認し軽く首を動かし周りを確認した。周りの机にはプレートいっぱいに分厚い肉の塊が乗せてあり、お供としてごはんが盛られていた。そんな体の大きな男性が器用にナイフとフォークで食事を楽しんでおり見たことも無い景色が広がっていた。
この風景も王都の一部であり、見慣れたら常識だと思えるのだろう。
「あーここら辺は家作ってたり力仕事が多いから皆たくさん食べるんだよね。大丈夫だよ小さいのもあるか」
「そうなんだ」
案内された私たちは円形の机に案内され座ると直ぐに水が手前に置かれる。ユイラは透明なグラスに入っている水を凝視し手を膝に置く。グラスが汗をかき始めてもユイラは動かずグラスを見つめていた。
「飲みたいなら飲めば?」
「でも、王都は飲み物も高いって聞いたことあるし...」
「いや、これは無料だぞ」
ガイスはメニュー表から顔を上げ自身の目の前にある水を勢いよく飲み干した。そして、机の中心にあるボトルを持ち上げなみなみと空のグラスに水を注いだ。ボトルの中で氷がかち合い音を立て、ガイスは机の中心にボトルを戻した。
「じゃあ、飲もうかな...」
ユイラは恐る恐る手を伸ばしグラスを掴む。グラスに付いた水滴がユイラに触れられ涙を流すように滑り落ち机にぽたりと模様を付けた。コクコクと変哲もない水を喉を鳴らゆっくりと体内に入れた。
「普通の水だ」
「そりゃそうだ」
ガイスは呆れたように笑うが私は王都が初めてだし、道に出たら右も左もわからなくなる。わかるのは王都にいるという感覚と前と後ろに動けることぐらいだ。
「決まった?」
サエラはメニューを閉じ私たちを見た。ガイスとエイラは既に決まっているのか直ぐに反応しサエラに注文内容を告げたがユイラは水に気を取られていた為、何も決めておらず結局エイラと同じ物を注文することにした。
「えーっと、ガイスが450グラムで私たち三人が150グラムでいい?」
三人ともコクリと頷きサエラが近くにいた先ほどとは違う店員に注文を告げた。一礼しそそくさと定員が下がっていった時、階段側から声が掛かった。
「ごめん待たせた」
声の方向に座っていた四人が一斉に振り向き存在を認識する。
青ジャケットに胸元に三つの星、綺麗に刈りあげられた赤い髪は清潔感を醸し出しており、街に立っているだけで絵になりそうな美男子が息を切らしながら近づいて来た。
私は偶に思ってしまう。エイラの血筋は本当に美男美女しかもスタイルも良い人しか現れないのではないかと。ただでさえ外見が良いのに、この家庭は性格も良いし努力家だし、欠点がないとはこのことかもしれない。
「エイラ―久しぶり会いたかったー」
いや、私の勘違いだった。この血筋にも欠点はあるのだ。
「兄さん。本当に妹離れをしろ」
「そうだよケイラ。さすがに合って直ぐにその言葉はキモイよ」
「え、あ、うん。ごめん」
容姿完璧、性格完璧、キャリアもしっかりとしている。しかし、ケイラはシスコンであり、サエラはスキンシップが過剰だ。エイラだけではなく、私やミツネに対しても。
ケイらが席に着くと、どこから見ていたか分からないが直ぐに目の前に水が置かれた。ケイラは水を置いた店員に慣れた言葉で注文をし水を飲んだ。
「ごめんね、待たせて」
軽く笑ったケイラを始めに皆で近況について話を咲かせた。王都に来た目的や、最近の植物の状況、ガイスの工房のことなど料理が出されても話は尽きず、食事の味を感じる暇が全くなく終わってしまった。




