41話 サエラ
「ねぇ、ガイス王都はいつもこんなに賑わってるの?」
ユイラは目を丸くし首を振る。バネがついた人形のように振られた首は簡単には止まらず、ふらふらと左右に揺れる。
「今日は休日だからな昼前でも混んでるんだ。平日はもう少し人通りが少なくなる」
それでも王都は私達がいるソーユ村とは比にならなかった。
街が常に喧騒に包まれ時計の針が私の住む村よりも早く時を刻み波のように繰り返す。
人の歩くスピード、建物の高さ、店の装飾、人々の服装、顔つき、雰囲気、全てのモノが私の目を惹きつける。
私の横を通る若い女の人は歳が変わらないくらいのはずだが、何故か私より数段大人に見えそれに反応した私の背骨が自然に伸びた。
あの人と私は何が違うのだろうか。服の着こなしなのか、立居振る舞いなのか、それとも全く違う根底にあるものなのか。私にはその違いが分からなかった。
お母さんは1人で王都に来て何をしたのだろう。この景色を見て何を感じたのだろうか。意外とこんなものかと鼻にかけそうな気もする。
「取り敢えず、エイラが待ち合わせているお店はどこだ?」
「んーと、門を出て右を向いたらステーキの看板がー」
「ぎゃ!!」
エイラがガイスに待ち合わせの説明をしていると突然ユイラが小高い悲鳴を上げた。ガイスとエイラはその小さな悲鳴にいち早く反応し振り向くとユイラに手を回し抱き着いている女性がいた。赤い髪にユイラと同じぐらいのショートカット。身長はエイラとあまり変わらずユイラの頭一つ分高いぐらい。
そんな女性はユイラの肩におでこを当て逃げないよう手を回していた。
「姉さん何してるの」
「あら、エイラ早かったね」
エイラに姉さんと呼ばれる女性はユイラの肩に顎を乗せエイラを見る。赤い髪がユイラの耳をくすぐり唇を噛み我慢していると、エイラの姉が耳元で囁いた。
「一か月ぶりだね会いたかったよー」
甘いその声に耳が震えドキリとしてしまう。お腹に回された手も優しく包みなんだか安心してしまう。
「もう、いいでしょ。兄さんはどこ」
エイラの声に反応したのかユイラに回された手はゆっくりと離れていきエイラの頬を触った。
「元気してた?ごめんね家のこと任せて」
「別に大丈夫。お母さんも野菜育てるの楽しそうだし」
「お久しぶりです。サエラざん」
「おーガイス。王国工房学院受かったんだって?おめでと」
「ありがとうございます」
サエラはガイスの頭をポンと叩き優しく笑った。ガイスも自然に笑顔が表に現れ笑顔を返す。
サエラさんが来ている服は紺色のロングスカートに長袖のカッターシャツ。その上にベストと整った服装をしており、その服の意味は容易に分かった。
「サエ姉、昇進したの?」
国兵は緑のズボンやスカートに緑のベストを着ていることが多いが職位が高くなるとベストの色が変わっていく。緑の次が青。次に赤、黒と別れている。
「まぁ、まだ星1だから地位は高くないよ。ケイラなんか既に星3。次の昇進試験合格したら赤べストになるからな。私にはまだ長そう」
「それでも、女性が二年で青ベストなんて凄いんじゃない?」
「それなりかな。気が付いてくれるなんてユイラは優しいねー」
サエラはユイラの頭に手を乗せ綺麗な黒髪をぐしゃりと撫でまわした。少し力が強いのはサエラの嬉しさと、照れ隠しも含まれていた気がした。
「それで、兄さんは?」
「あーもうすぐ来ると思うよ。てことで、先にお店に入ってようか」
「お店?」
「ケイラがステーキおごってくれるんだって」
サエラは三人を誘導するように動き出し、前に出たところで指を刺した。
指の先にある看板は先程エイラが言った待ち合わせ場所であり、看板には鉄板の上に乗った肉の塊が描かれている。
「さぁ、行くよ」




