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37話 カレー


 川以降、配送馬はいそうばは夕食まで止まらず走った。ユイラはその間昼寝をし、エイラに起こされ夕食休憩を過ごしている。こういう時のお約束なのか運転手の男性は鍋でカレーを作っている。スパイスの匂いがつんと漂ってくると自然とお腹が唸り始める。

 焚火の上にカレーが乗っかりその周りを利用客で囲う。ガイスと再起に乗客していた男性は火元に集中し調節をしている。もう一人の乗客していた女性は運転手とカレーを作っている。ユイラとエイラはお米を焚く係となっていた。


 森とは言えないが周りには大きな木がいくつかあり私たちがキャンプを始めたのはそんな場所にあった広場みたいな何もない空間だった。いくつか切り株があり、おそらくは配送馬の人たちがこの何もない場所を作ったのだろう。


 「ごはんは出来ましたか?」


 距離が少しだけ開いたカレー組から声が掛かり蓋を開け様子を伺う。白い煙がムワっと広がり中に光る粒が現れた。容器の周りにまだ気泡が浮き上がっており万全な状態ではなさそうだ。


「もう少しで、できると思います」


 エイラがカレー組に伝えユイラはもう一つの容器を開ける。こちらからもムワっとした煙が充満してきたが、中は気泡は余り出ておらずふっくらと盛り上がっていた。


「こっちは良さそうだね」

「そうだね。もうひっくり返しておこうか」


 石の間で燃え盛る火に水を注ぎ消していく。容器は黒く染まり中身がとても美味しそうには見せないがごはん独特の甘みが匂いに感じられ今すぐにでも抜け駆けして食べてしまいたかった。エイラをチラリとみると火の高さを調節し布で鼻と口を隠していた。


「もういいかな」


 エイラは先程のユイラと同じようにバケツの水をかけ火を消していく。火の光が消えていく、少しだけ寂しくなってしまうのは人間の特性なのだろうか。向こうに火が灯っているから不安はないが、なんだか心の中がぽっかりと開いた気がした。


「ユイラ持ってくよ」


 エイラは隣で立ち上がりカレーを作っている大きな火元へと歩いていった。

 私も痺れた足を無理やり動かしゆったりと歩いていく。足裏が痺れ一歩踏み出すだけでピクリと体が反応してしまう。自分の見っともない歩き方を振り返るエイラに見られるのが少し恥ずかしかった。


 カレーの匂いが強くなり先ほどから鳴るお腹が更に大きくなり始める。寝ていただけなのに燃費の悪い体だ。なんか香りがいいな。美味しそう...


「ユイラとエイラごはん器に入れといて」


 ガイスがこちらをチラリと確認し目で皿の位置を教えてくれた。紙でできた皿を見つけご飯を六等分していく。ふっくらと上手くできたご飯は強くない光でもきらきらと輝いていた。


「美味しそう....」

「先喰うなよ」

「.....」


 ガイスの言葉に反応したエイラは私からご飯を取っていきカレー作りの元に持っていった。

 ユイラは切り株に座り火を眺める。ユラユラと常時変形する火は同じ形を保たない。水の様にその場その場に合わせ動いていくみたいだった。足を伸ばしリラックスをしながら火を見ていると十分に寝たはずの体が再び睡眠を求め私の脳内を支配していく。

 鼻の中に入るカレーのスパイスで意識を保ち時間が経つのを待つ。私の元に運ばれてきたカレーは切り株に腰を下ろしてから時間が余りたっていないのだろうが、私には凄く昔の様に感じられた。



「いただきます」


 配送馬の運転手の男性がカレーに口を付け続けて乗客の者たちがスプーンで掬い口に運ぶ。

 ジャガイモやニンジンの甘みが口の中に広がり始めたところでスパイスの効いた辛みがピリリと舌を刺激する。鼻から抜けるスパイスの匂いも普通に作る時より鮮明に感じた。


「これは何か特別なカレーの作り方やスパイスを使っているのですか?」


 私は謎に美味しいカレーの真相を知りたく運転手の男性に聞いてみた。それを聞いた男性は口の中に入ったものを咀嚼し飲み込んだ。


「特別な事や物は使ってないよ。ただのカレー」

「じゃあ、どこからこの美味しさが」


 ユイラは大きめのジャガイモを半分に割り口に運んだ。

 ほろりと崩れずっしりと感じられるジャガイモはいつもよりも、やっぱり美味しく感じた。


「この雰囲気と特別感だよ。空気も良くて火の光が一番強い。余り食べない外での食事。皆で食べる食事。いろんな条件が混ざり合って一つになるといつもより美味しく感じてしまう。だからわしは毎回夜はカレーを作る」


 低く澄んだ声はパチパチと爆ぜる焚火と共に辺りに広がった。

 確かにジャガイモも人参も玉ねぎもお肉も、混ざり合うと美味しいもんな...


 ユイラはしみじみとカレーを味わい紙の皿と木のスプーンを焚火の中に放り込んだ。

 もう少ししたらまた配送馬が動き始める。その時までユイラはボーっと星を眺め口元に付いたカレーをぺろりと舐めた。








夕食がカレーでした。

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