34話 物足りなさ
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「ベラルーカさん本当に行くのですか?」
「行くよ?」
村の少女がベラルーカの袖を軽く引っ張り地面にポツリと呟いた。その震えた声音には動揺が混じりベラルーカに伝わる。しかし、そんな少女の動揺を打ち消すようにベラルーカは笑って見せた。
「大丈夫だよ。最近燃える山を登ってきたんだから。体を冷やしてくるよ」
「気を付けてください。それと、もしもの場合は青の果実を置いて逃げてください。ベラリエラの好物ですので」
「わかったよ」
ベラルーカは腰に付けた袋を確認し少女の頭を軽く撫でた。小さな村に面した広大な海。対応の日に照らされ反射する海の底まで約3000メートル。そんなベラリエラの海の海底には幽居が存在しているみたいだ。
正直改定がどんな場所化は分からない。どのようなことが起こるかもわからない。でも、ベラリエラが眠る住処に財宝があるのなら私は取りに行きたい。
ベラルーカは震える手をもう片方の手で包み落ち着かせる。息をゆっくりと吐きだし自然な状態へと体を保つ。
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本を読むには物足りない月明かりとキャンドルランタンが本を照らし、柔らかい風に当たりながらユイラは顔をしかめていた。左手に感じる数枚しかない紙を爪ではじき苛立ちを募らせる。落ち着くためレモネードに口を付け喉を潤す。しかし、募る苛立ちには変化は見られない。
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「じゃあ、行ってくるよ」
「気を付けてください」
ベラルーカは少女の優しい言葉に何も返さず崖の淵に立った。塩気を纏った風が強く吹き
「海の精霊を我が身に力を与えたまえ」
ベラルーカの小さな囁きに反応し海の表面が騒ぎ立つ。水滴が浮かび上がりやがてベラルーカの周りを包みだした。幻想的な光景に少女はポカンと口を開けその場で立ち尽くしてしまい、瞬き一つしない。
「じゃあ、色々ありがとね」
ベラルーカは後ろを向き固まっている少女に笑いかけ背面から海に落ちていった。
「精霊よ私の生としての力を受け取り付き従え」
頭部から落ちていくベラルーカが言葉を強く発した瞬間、包んでいた水滴が煌めきだした。海面に接触する時間は10秒もない。しかし、ベラルーカにはその一瞬がスローモーションに感じ笑みが零れた。
海面と接触し水飛沫を上げベラルーカは海の中に潜っていった。
固まっていた少女はベラルーカが海面と接触する音に反応し崖の端に近寄るが、既に透明度の高い海面にベラルーカの姿は確認できなかった。
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ユイラは残っている2ページに見向きもせず強く本を閉じた。
「はぁー、二部構成じゃねーか」
物語の先には何もなく書籍の情報などしか載っていなかった。ユイラが欲しい核心的な情報には触れられておらず歯切れの悪さだけが残る。
ユイラは月を見ながら残りのレモネードを飲み干し軽く息を吐いた。
「村の図書館にないってことは王都まで行くしかないのか...気が進まないな」
ユイラは耳を覆う髪を耳にかけ何も考えず真っすぐと世闇を見る。光るものは月明かりと暖色の揺蕩うランタンの光。部屋から洩れる光はユイラの目には入らず、目の前の夜を目に焼き付ける。
15歳の年齢であり、私と同い年人たちは今年から職を探すのに躍起になるのだろう。特に王都の人は大変だ。学業に力を入れより良い仕事に就こうと日夜努力を欠かさない。私みたいなのが今、王都に行ったら場違いになるのだろう。
成人まであと三年を切った私は何をやっているのだろうか。お母さんの背中を追うだけで何もなせていない。私は将来が不安で仕方がない。魔物清掃も職としては、求められているのだろうが国の兵士のように目指す目標ではない。
私が死んだ時、何が残るのだろうか。
「はぁー、私も何か清掃と同時にやらないとなぁ....」
ユイラは屋根裏に後頭部を付け寝転がった。綺麗な円形をしている月はいつも変わらずそこにある。分厚い雲で隠れようが、掌で隠そうがある事には変わらない。夜に無くてはならないものだ。
「パンツ見えてるぞ」
その言葉にユイラはすぐさま上体を起こし近くにあったベラルーカの冒険譚〜海底幽居~を声の方向に投げ飛ばした。
「何するんだ、お前ズボンだろうが!」
「あ、ごめんガイス」
本に対しての苛立ちとこれからの不満が詰まった本がガイスに投げ飛ばされ、当たり地面に落ちた。
「本当に脳筋かよ」
ガイスは本を拾い身軽に屋根裏まで登る。微量の光でも持ち前の目の良さと身体を使い難なくユイラの隣まで登った。
「ほんとサルみたい」
「うっさい」
ガイスはユイラの頭の上に本を置き、隣に座り息を吐いた。
「あのさ、頼みがあんだけど...」
「何?」
「王都に行かねーか?」
ガイスの緊張を孕んだ声音はすぐさまユイラの頭の中で処理された。




