28話 門番
ブカカを拡張袋に締まった門番と三番門まで一緒に変えることになった。
時間的にも都合が良かったので護衛を無料で雇えお得感が満載だ。
「あのー聞いてもいいですか?」
「いいですよ」
「なんでー」
前を歩く門番が前に気を付けながら聞いてきた。スーツ姿の彼は凹凸が多くある地面を物ともせず歩いていく。革の靴なのに流石に国の兵士は鍛えている。などど感心していると話が終わってしまっていた。
「あ、あのもう一度言って貰ってもいいですか....聞き逃してしまって」
「あ、はい」
門番は一度止まり振り向いたが、先ほどの話を始めて話すように言葉を出し始めた。
「何でユイラさんは魔物清掃なんて仕事にしたのですか?歳も若く様々なこともできるのに、他の可能性は探さないのですか?」
魔物清掃が不人気な職だからだろうか。彼はバカにはしてないが、他の選択肢を取らない理由がわからないとも聞こえた。確かに魔物清掃は浮浪者が生活の為に身体と精神を削りながらやる事もある。中には匂いに慣れた者や鼻が利かなくなった者もいるが、手っ取り早く稼ぐことが出来るので、頑張って生きていきたいという者がやる。
幽遠の森に入るだけで多少のリスクを背負うのに、更にリスクを増やすことをなぜやるのだと言いたいのだろう。
「私は母が魔物清掃、父は冒険家をしていました。結婚してからは父も魔物清掃の仕事をしていたそうですが。その影響ですかね」
理由は知らないがお母さんは魔物清掃者として名をはせていたらしい。上層部より深い深層部まで行ったこともあると言っていた。まぁ、迷ってたまたまついたらしいが。
私はそんな母の仕事を小さい頃に見せてもらっていたからだろうか。幽遠の森が好きだし、魔物清掃も苦になることは無かった。
「あとは、幽遠の森が好きなのでついでにお金稼ぎでもと、思いまして。」
どうせ入るのならお金稼ぎでもと思っていたが、無駄な規約が付いてきてしまい少し想定とは違っていたが、公に入れるのなら仕方なく受け入れるしかない。
「ユイラさんのお母さんって名前はなんて言うの?」
「メルト・ラーリエ」
「え....」
門番は足を止めこちらに高速で振り向いた。ユイラはポカンと口を開け流れ星より早かったなっと心の中で思っていた。
革靴の靴先がこちらに向く。左の先から右の先、そして左足が前に踏み出された。アガアリがコトコト歩くように門番は足を動かしユイラに近づく。
「本当にメルト・ラーリエなの?!」
スマートな顔が近づくが正直暑苦しい。
ユイラは苦笑いをしながら一歩下がり頷いた。
「あ、はい。そうです」
「まじかー会いに行っていいい?」
今、仕事中ではないのかこの人。だいぶ口調が崩れている。それより...
「お母さんは去年亡くなりました。もうすぐ命日なので、会いに行くことはできますけど」
門番は一度下がり、素に戻った顔を向け平坦な声を洩らした。
「それは、無神経だった」
「いえいえ、人が死ぬことはしょうがないと思っているので」
「そうか、なんか大人な発言だな」
「そうですか?でも、そうかもですね」
ユイラは門番の側方を通り抜け歩いていく。
そうか、もうすぐ命日なのか。
一歩一歩足を向け足裏に感じる土の感触を意識する。別に何か嫌なことを考えないようにするわけではない。ただ、自分が歩けていることを確かめたかった。
爺にも会いに行こうかな。
「行かないのですか?」
「あぁ、今行く」
後方で足を止めた門番に振り向きゼンマイを回すと微小の揺れから次第に動き始めユイラの前に出た。
「命日教えてくれないか?」
「5月30日です。丁度その日はソーユ村の蜂蜜祭なのでついでに楽しんで行ってください。もちろんお金を持って」
ユイラはニヤリと悪い顔を浮かべ門番に笑いかけた。
その表情に当てられ門番の顔も次第に崩れていった。
「あぁ、妻と子を連れて行かせてもらうよ」
まだ若いのに妻子持ちとは驚いた。まぁ、どう見ても悪そうな人には見えないしな。お給料も幽遠の森の仕事ならそこそこ貰えそうだし。やりましたよ、オウカさん良き客ゲットです。
そのまま二人は幽遠の森をゆったりと歩きながら三番門を目指した。




