27話 ブカカ
私は今、幽遠の森・下層で固まっている。
ガラリとした赤い目。四足歩行で寸胴な体。足は短いが体長はユイラよりやや小さい。茶色の毛並みは逆立っており、ユイラを威嚇する。深くザラついた呼吸をするその生き物は足を折り曲げ、頭を地面に近づけい今にも踏み出そうとしていた。
絶対ブカカだよな...何でいるんだろう。とりあえず息を止めて倒れないと。
ユイラは音を立てないよう肺の中に多量の空気を入れその場に自然に倒れた。
痛い。ついてないな、顔にまで土がつくなんて最悪だ。
薄目を開けると低いガラついた息を出しながらこちらを伺っている。
早くどっかに行かないかな。早くどっかに行かないかな。
互いが動かず一分が経ち、ユイラの周りには野生のフワボウが集まりだした。
あーもうやめてほしい。糸で巻かれて巣まで送還されるとか本当に嫌なんですけど。
ユイラが倒れ二分間が経った。ブカカは先ほどとは打って変わり毛並みが落ち着き、息気遣いも平坦なものとなってきた。しかし、ユイラは...
このフワボウ絶対燃やす!!絶対灰にしてやる!殺してやる!!
フワボウはユイラの体の外側を回り徐々に糸を絡め始めた。
ブカカは獲物を失ったかのようにエイラを見るのをやめ体を反転させ歩み出そうとした時動きが止まった。ブカカの動きが止まった瞬間森全体の時計の針が止まったかのように静かになり、秒針が動き始めた時にはブカカはその場に倒れていた。
ブカカはピクリともせずその場に倒れている。
「矢が刺さってる...」
ユイラは最近買ったオイルライターで糸をあぶり自力で裂いていく。一直線にブカカの所まで走っていくと首元に綺麗に矢が刺さっていた。ユイラは矢を抜き、傷跡に鼻を近づけ匂いを嗅いだ。
ユイラはニヤリと笑った。
「死体が劣化してない」
ユイラは更にブカカを確認しようと矢を地面に刺しブカカを観察した。
「クロガバトと同じだ」
前にクロガバトを綺麗な状態で入手した時も矢が刺さり死体は劣化せず状態を維持していた。解体した時は流石に悪臭が出たが。
「でも、だれが...」
それよりも魔物を劣化せず殺せる方法があるのか?魔物は死んだらその時点で悪臭が広がる。中層の魔物は倒しても悪臭を発さないということは無いだろう。ブカカは魔物肉として食べれはする。しかし、魔物の匂いがきつくとても食べれたものでは無いはずだ。じゃあ、なんでこれ程まで匂いがしない。
ユイラは矢を抜き先ほど糸でユイラを巻き取ろうとしたフワボウを刺した。泥を握りつぶしたような感触が手に広がり悪臭が漂う。
やっぱり匂いはするな。
残り三体のフワボウも刺し殺すが同じに悪臭を発する。
いや、それよりも時間がな、どうしようこのブカカ。もしかしたら美味しいかもしれないし。あーもう嫌だけど人呼ぶか。
ユイラは門番から貰った笛を強く吹いた。
響いた笛の高音はどこにでも届きそうなほど伸びていった。
誰かが来るまでユイラは殺したフワボウの回収と食べれる植物を回収し時間を潰す。
「どうしましたか!!」
急いできたのだろう、顔見知りの門番は息が上がり腰に刀を携え今にも抜刀しそうだった。
なんか、言いずらいな....
「あの、ブカカ」
「ブカカですか!!」
名前を聞き顔を険しくし腰の刀を抜く。太陽の光を反射させる刀とても鋭く、見るだけで冷汗がでる。
「いや、あの、死んでるんですよ。綺麗な状態で....」
「え?」
門番は素っ頓狂な声を洩らし剣を落とした。手汗がべっとりと付いた刀は地面にだらしなく落ち、門番は立ち尽くした。
「回収お願いしてもいいですか?」
「あ、はい」
ワンテンポ置き門番は返事を返し刀を鞘に締まった。そそくさと小走りでブカカまで行き、拡張袋に入れていった。
読んでくださりありがとうございます。
今回から違う展開になって行きます。
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これからものんびりとですがよろしくお願いいたします。




