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23話 唯一無二


「ユイラー終わったよー」


 私が昼寝をしているとしたから声が聞こえた。どうやらミツネの作業が終わったみたいだ。

 朝ほどではないが起き上がりたくないとベッドに張り付く体を剥がし部屋を出る。下がる瞼を擦りつつ階段を下りていく。ギシリと階段がひずみ音を立てる。少しシンナーの匂いが漂うが、普通の人には気遣いはしないだろう。リビングに入り匂いを嗅ぐとその匂いは更に強くなった。しかし、中に誰も居なかったが、使ったであろう色爪いろづめと少し高めの洗泡石せんわせきが机に置かれていた。


「それではどうぞ」


 ユイラがリビングに入りいつもの椅子に座ると、ミツネが扉の隙間から顔を出し合図をする。期待と少しのワクワクが混じり合い、口角が自然と吊り上がる。

 一度ミツネが扉を閉じ、数秒後再び扉が開いた。なんてことない空間に少しの隙間が空くだけで風が吹く。勢いよく吹く風は偶に目の前を攪乱させる。


「どうかな...?」


 よそよそしく体の前で手を握るアイラは恥ずかしそうに目線を下げていた。

 美しく輝く金色の髪は綺麗に靡くことは無かったが、今のアイラの髪はカーテンが風に吹かれ美しくはためくように揺れていた。一本一本繊細に動く髪は全てが意思を持っているかのように動き彼女を照らす。

 前で合わせている手の爪は綺麗なピンク色になっている。ピンクと言っても濃いピンクだったり明るいピンクではない。肌色に近い透明度のあるピンク。不自然な感じはなく生まれた時から付いていた色合いだった。


「綺麗.....」


 口からぽろっと零れ落ちた言葉は自身の声帯を揺らしたのかもわからないほど、簡単に零れ落ちた。服そうはラフな格好からタイトな黒いズボンに余裕のあるTシャツを纏っていた。


「ありがとう」


 恥ずかしそうに笑うアイラは吹く風に温かみを与え、控えめに笑った。


「凄いでしょ」


 自慢げに話すミツネはミツネの隣に座り道具を片付け始める。さぞ楽しかったのだろう、鼻歌を歌いながらニコニコとしている。

 その目は次は君だよと言われているみたいで少し怖かったが。


「でも、ちゃんとハンドクリームは塗ってよね。直ぐに綺麗になるわけじゃないから」

「うん。気を付ける」


 それでもやはり手の荒れはすぐには治らないのか。所々痛々しく切れているところもあった。

 人は時に変化を遂げる。カメレオンのように鋭く変化をする時や、同じ物に擬態する時の紛れる変化、そして唯一無二への変化。

 でも、なんでここまで変わったのだろうか。服の変化...髪、爪


「顔と姿勢だよ」


 ミツネはユイラの疑問を読み解くかのように隣で囁いた。

 顔と姿勢?


「アイラさん、顔も良いしスタイルも凄く良いんだけど顔の硬さと姿勢の悪さが目立ってたからさ、それをほぐしたのと直したの。口角を上げと明るく見えるし、姿勢を正すとよりスタイルが良く見える」


 ミツネの言うことは自然に見えてとても凄いものだった。本当に魔法のように人を変えてしまう。

 それにしても垢ぬけたというか、逆に王子様が大変そうだな。


「ありがとミツネ、明日もお願いできる?」

「ん?私がやらなくてもアイラさんに教えたから大丈夫」

「そっか」


 それなら話が早い。夜には返事が梟から返事が来るだろう。それまではのんびりと過ごすだけだ。

 ユイラがアイラを見ている時、急に二階が騒がしくなる。何度も二階の窓が叩かれ音を立てる。ミツネとアイラがびくりとし肩を上げ上を見上げる。


「ちょっと行ってくる。」


 ユイラは部屋を抜け階段を上る。

 ギシリ立つ音がさっきより軽くなった気がする。さすが国で働く人は行動が早いというか仕事が早いというか少しぐらいサボっても良いのに。なんでこんなに急ぐかな...

 二階の廊下に付いている窓に梟小屋がある。エイラの家にいる梟と違ってうちにいる梟は手紙しか配達は行わないが。窓を開けると勢いよく、茶色の毛をした梟が赤い梟小屋に入って行く。嘴にちょこんと付けた手紙を受け取り優しく梟を撫でる。小っちゃく鳴く梟はいつも可愛く撫でていたい。

 まぁ、そんな時間もないのだが。


 緑の手紙には封蝋に王族のマークが記されており、しっかりと王族から来たことが分かった。

 さてさて、待ち合わせ場所はどこかな。


 昼にアイラさんを探しに来た国の男性に私はあることを告げた。


「さっきのは嘘で今アイラさんは家にいます」


 男性の耳元で鳥のさえずりよりも小さな声で話した。


「明日には綺麗になって、そちらに送り届けるので夜にでも手紙で集合場所を教えてください」っと。


 男性は小さな声で確認すると言い、去っていった。無理に連れ戻さなくてもいいと言われたのだろうか、案外簡単に引き下がるのは変化と思ったが優しい顔をしたので気にはしなかった。


 そんな国の人たちから来た手紙に記されていたのは意外な場所だった。


『午後13時、ソーメル村とココラ町の間にある小さな森。彼女に思い出を訪ねれば案内してもらえる。』


 他人行儀な文章が来ると思ったが意外と簡素であり堅苦しいものでは無かった。

 少し歩くことにはなるが、そこまで心配する距離ではない。それよりも、手伝いとして貰った花はどこに...


 ユイラは丁寧に封筒を持ち掌の上で振った。封筒の中から擦れる音が聞こえ、摩擦が消えた時ゆっくりと掌に花が落ち始める。ユラユラと緑の花弁を携えた平たい花。王都にしかない緑の桜がゆっくりとユイラの肌に触れた。


「注文通り加工もしてあるなんて、さすが....仕事が早い」


 昼間に出した注文通りの品が届きユイラは嬉しそうに自身の机の引き出しに締まった。

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