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2話 クッション


 ユイラの髪はいつも綺麗だ。

 ショートカットの黒髪はいつもサラサラとして、撫でると指の間に髪がスルスルと抜けていく。

 可愛い寝顔も昔と変わらず健在だ。

 人差し指で頬を突くと、ユイラが唸るが、起きはしなかった。


「ん?なんだろう」 


 ユイラの頭の下、白の分厚い布があった。いや、布が分厚わいけではないか。

 ユイラの顔の横に手を置いてみると、ゆっくりと布に手が包み込まれていった。


「なにこれ...」


 つい口からぽろっと言葉が漏れ急いで出て塞ぐ。草のようなチクチクとした感覚はなく、動物特有の匂いも感じない。この家にある薄汚れた布とは思えないほどの手触り。昨夜借りた羊の毛の枕と雲泥の差だ。

 何を作ったんだこの子は。

 何かいい夢でも見ているのか、口角を上げ小さくうなるユイラの頭は枕にすっぽりと嵌っている。

 エイラが周りを見渡すとユイラの足元にも、同じようなクッションが3つあった。


「ユイラ起きて」


 耳元で優しく囁き、肩を揺らす。微かにいい匂いが漂い落ち着く。自分の家の匂いより、人の家の匂いの方が落ち着くとは変な話だが、生まれた時から一緒にいるユイラの匂いは私を暖かく包んでくれる。


「何?どうかしたの...」


 パッとしない瞼を擦ると困惑な顔を浮かべたエイラが立っていた。

 大きなあくびをし酸素を体内に取り入れるとぼやけた目が次第に鮮明に世界を映し出す。


「こっちが聞きたいよ、このふわふわのクッションは何!!」

「ふっふっふ、ついにできたのです。早速行くよ、ミツネの家に!」

「え?」


 エイラはポカンと口を開けユイラを見ているが、本人は嬉しそうに籠に入ったクッションを持ち上げ上着を羽織、家を出る準備をする。

 桶に入った水で洗顔を軽く洗顔をしたユイラは早々と玄関を抜けて行った。

 その後を追うようにエイラも急いで隣に並び、ユイラに尋ねた。


「結局それは何なの?」

「この前さ掃除のときにクロガバト手に入れたの。上体の良いやつね。それを解体したら綿出てきたから、土と混ぜて、魔力を吸って育つ魔吸い草(ますいそう)の種をその混合土に植えてみたの。そしたらできた」

「へ、へぇ~」


 正直ユイラが何を言っているかがわからない。てか、なんで綿と土を混ぜた。しかも、魔吸い草なんて高価な物をこんな、できるかもわからない物に使うなんて。まず、ユイラが魔吸い草の用途を知らないのかもしれない。

 

「ユイラ、魔吸い草の用途知ってる?」


 おずおずとエイラはユイラに尋ねてみると、今登っている太陽にも負けない、はつらつとした笑顔で答えた。


「知らない、ただ効果は知ってたよ?」


 今日のエイラは朝から沢山質問するな。よほどこのクッションに興味を示してくれたんだね。なかなか嬉しい。

 でも、魔吸い草の用途か。倉庫で見つけた時にお母さんの字で、「魔力を吸って育つ」としか書いてなかったからな。一般的に何に使われているかはわからない。


「ユイラ、それ医療で使うんだよ」

「なんか、治るの?」


 医療で使うと言われても、この村でそんな話は聞いたことがない。もし、重い病気に掛かったとしても、ここから王都まで大体2日間かかってしまう。ただでさえ、移動に大変なのに、病気を抱えていたら死んでしまう。


「魔人の呪いを解く時にそれを使うんだよ。遺跡とか、魔人の住処に入ろうとして、魔力術まりょくじゅつに掛かった時、それを使って治すみたい。体の一部を少し切ってその種を入れ発芽させ抜き取ると治るって使い方」

「なるほど、確かに便利だね」

「うん、便利なの!でも、あまり見つからないから冒険者が何人も死んだわけ」

「へぇ~」


 メルトおばさん、あなたに似てユイラが抜けている性格になってます。

 エイラは空を見上げ、どこかで見ているかも知れない、ユイラの母に言葉を送った。


「まぁまぁ、高価な物なのはわかったけど、私たちにはこれは凄く素敵な物になるんだから良いじゃない」


 羊や牛などを沢山飼っている、隣のココラ町でも、これ程柔らかいクッションはないはずだ。しかも、これは自分を包み込むように変化するから癖になりそう。


「確かにそうだね。でも、なんでミツネの家に行くの?」


 ミツネはエイラと私の幼馴染。透き通った水色の髪をしており、長さは肩ぐらいまである。優しそうな目はお母さん譲りで多くの者から好かれる人気者。

 まぁ、小さな村だからいざこざとかは、あまりないのだけど。

 そんなミツネの家に赤ちゃんがもうじき生まれるのです。そんな可愛い赤ちゃんをこのクッションで守ってあげたい!そんな理由で一生懸命作ったのです。


「赤ちゃんにこれを渡しに行くからだよ」

「あ~なるほど」


 エイラも優しそうな笑みを浮かべ私の頭を軽く叩いた。

 この人は私のことをいつまで子供だと思っているのだろうか。歳は変わらないのに、なんか負けてる気がする。まぁ、嫌じゃないけど。

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