19話 凛々しい目
「叩いた事も謝って、婚約を申し込まれてから何回もあったの。街の中も一緒に歩いたんだけどね.....どうも世間は私のことを嫌いみたい」
彼女は自傷気味に笑い、唇を軽く噛んだ。
世間が認めない。貴族の人たちは王族と繋がれば、大きな力となるだろう。ましてや時期国王となれば必死娘を送り込む。だけど、選ばれたのはどこの馬の骨かもわからない小さな村の娘だった。ソーメル村は、別に小さくはないが王都の人たちからしたら小さい町なのだろう。
努力を重ね生まれながらにして自身を研摩してきた人たちから見たら、アイラの所作や髪、肌、手、小さなことまでも気に障るところが沢山あるのだろう。貴族の娘は指先まで美しく保ちながら成長しているからこそ、大変さが骨身に染みているのだろう。それに比べ端的な生活をしてきたであろう人に愚痴を言いたくなるのもわかるかもしれない。
まぁ、私も普通に生きているだけだけど。
「それで怖くて逃げて来てしまったの。私は貴族の人達みたいに自信もないし力もないから」
それで森の中で彷徨っていたのか。なんか少し惚気が混じっていた気がしたが、気にしなくていいだろう。
日が落ちいつの間に月が昇り始めてきた。クッキーも体に吸収され腹の中が空っぽになっている。この時ばかりは自分の体重が軽くなったのだと錯覚する。
「取り敢えず、ご飯にしましょう。アイラさんは無事なことを手紙に書いて二階の窓付近にいる梟に渡しといてください。紙とペンはそこの棚です」
ユイラは前にフワボウがいた場所を指さす。ハチの巣のようにいくつもの穴が開いた棚には10個ほどの丸くまとまった糸が置いてあった。あれからフワボウは大体一日一個糸の塊を作っている。それにしてもフワボウは排泄をしない....いや考えるのは止めよう。
再びフワボウはユイラの背中をコソコソと登って行き頭の上で六本の足を畳んだ。
「わかった。ありがとね」
「いえいえ」
アイラは椅子を引き棚に向かった。
ユイラは反対にキッチンの方に行き夜ご飯の準備をする。今日の夜ご飯は前々から決めていた料理だ。
「確か、ニンニク?を刻んで...」
最近来た販売にがオススメしていた料理を作ろうと早速ユイラは火元にマッチで火を付けた。比較的安価で変えたニンニクはまだ触ったことは無く、下が丸まり先がとがっている不思議な形をしていた。
今回来たのは南の販売人であり、ニンニクと大量のオリーブオイルを買った。オリーブオイルはまだ少し家に残っていたがどうやら今回の料理に沢山使うらしい。
ユイラは刻んだニンニクを炒めアイラさんのことを考える。
アイラさんは容姿と体系は素はすごくいい。正直エイラと並ぶほどだと思っている。どちらかというとエイラのお姉さんに近いかな。でも、自分に自信がなくて体の手入れをしない。どちらかというと、どうやったら綺麗になるかわからないか...
髪に使う洗泡石に付いても髪を綺麗にすること以外に、状態を保つということは知らないのだろう。
手に関しても、ハンドクリームなどはソーメル町ではあるはずだ。いや、ソーメル町だからこそ良いハンドクリームはあるはずだがアイラさんは気にもしてなかったのだろう。
でも、私が何とかできそうなのはそのぐらいだ。正直言葉遣いや所作に関してはわからない。もし、アイラさんが覚悟を決めれるように成れば、後はなるようになるしかない。
ニンニクが黄金色に変化してきたところでユイラは大量のオリーブオイルを入れた。
「なんか、ニンニクっていい匂いのような変な匂いのような....てか作り方あってるかな」
朝方買っておいた魚介類を保管箱から出し、オリーブオイルがひかれた鍋に入れていく。青々とした匂いが次第に抜けて行き、魚介とニンニクの香りがする。
「あ、鷹の爪だっけ入れ忘れてた」
正直これはどんなやつなのかは知らない。確か、種を抜いて頭の所の胎座を取って使うって言ってたっけ。んーめんどくさいからそのまま切って入れちゃえ。あとウインナーも入れよう。
ユイラは他にもトマトなど野菜類も少し入れ発火石を二つ抜き弱火で煮込んだ。
数分後手紙を書き終えたのかアイラが二階から降りてきた。
ゆっくりと降りてきたアイラの目には何か覚悟を決めた凛々しさが宿っていた。森から逃げるときもそんな目をしていた気がする。
カーラ様を叩いた時も意外と意思のこもった目をしていたのかも知れない。
私はそっちの目の方が好きだが。
ユイラは発火石を水につけ鍋にふたをし、机の上に集めの木の板を置いた。




