表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/108

15話 見返りですかね


「はぁー暖かくなってもお風呂の暖かさは不思議と気持ちいい」


 気の抜けるような声を出しながらユイラはお湯に浸かる。アイラは布で体を洗い湯船のお湯で取れた垢を流した。スタイルはエイラのように細く綺麗であり露出の多い服を着たら右に出る者は少ないだろう。

 胸は...アイラの方が勝ちだな。まぁ、エイラ小さいわけでは無いが。

 人の身体に対し頭の中で呟きユイラは下を向く。自身の身体と相手の身体の不公平さに呆れを通り越し、嫌気がさしてきた。


「ぶはー!....何するのエイラちゃん!!」

「ごめんなさい、わざとじゃないの」

「いやいや、なら何でまだこっちに手を向けてるの?」


 ユイラは手を筒状にし湯船のお湯を取り込み圧力をかけた。再びアイラの顔にかかり彼女の綺麗な顔が崩れる。人は外見で得をする。アイラは顔が良いが何故か手や髪など顔以外で人に見られる所を疎かにする。顔が良くも質の良くない髪は、外見を悪く見せてしまう。手を綺麗に保たなくては、触れ合う時に相手に違和感を持たれてしまう。体質によって、違いはあると思うが彼女はもっと、自分を磨くべきだ。


 ユイラは息を止める湯船に鼻先まで親に顔をつけアイラを見続けた。


「ん?どうしたの」

「目の前にある緑色の石、髪を洗う洗泡石(せんわせき)だから使って、良いですよ....」


 洗泡石(せんわせき)。殆どの洗泡石は丸い形をしており用途によって色が異なる。緑色は髪。青色は顔。赤色がその他となっている。消耗品だが、値段は高くなく普通の家庭なら何処にでもある。アイラも勿論その事は知っており、青と赤の洗泡石を使っていたが緑は使わなかった。値段として、緑が一番高価になるが多くの者は気にしないだろう。


「私はいいの。別に拘ってるわけじゃないから」

「そうですか...」


 彼女がいいと言うなら何度も勧めるのも失礼になるだろう。何か関係があるのかも知れないが、特に詮索をしたいとも思わない。

 彼女について知りたいのは何で幽遠の森に逃げてきたのかという事だけだ。

 まぁ、上から目線かも知れないが助けたのだから聞いたら教えてくれるのだろう。


 ユイラは口に含んだ空気を湯船の中に唇を震わし出した。お湯を纏った空気の粒は口元に広がり、すぐに破れていく。お湯に浸かった時の習慣みたいな者だ。


 アイラは体を洗い終えゆっくりと肢体を湯船の中に滑り込ませる。細く綺麗な足がお湯の中にするりと入るのは何故だか艶かしさを感じてしまう。

 ユイラはアイラが湯船に浸かる仕草を視界に捉え頬が赤くなる。

 これは、熱い水のせい、熱い水のせい。

 何度も頭の中で言い訳を唱え、自分を誤魔化す。


「ねぇ、ユイラちゃんは何で私を助けたの?」

「何で、ですか....」


 なんで、助けた。特に何か理由があったわけでもない。見返りを求めて助けたのなら、私は何を望むのだろう。

 本当に何で助けたのだろうか。


「見返りを求めるためですかね」


 ユイラは目の前にいるアイラに適当に答え目を逸らした。アイラは気まずそうに湯船の中で手を揉む。染色を仕事としている彼女の手は荒れ痛々しい。爪の間にも様々な色を使った染色を影響で黒く染まっていた。


「先に出ますね。外に布を置いとくのでそれで体を拭いてください。服は友達のを置いて置きます」 

「わざわざありがとう」


 アイラはにっこりと笑いかけ浴槽に足を伸ばした。

 ユイラは浴室を抜け近くにある布を掴む。浴槽の木の匂いが鼻から抜けていき、洗泡石の匂いが布から香る。最近までお風呂を出ると体に伝わる冷たさが心地よかったが、その効力も次第に弱まってきた。丈が長いTシャツに体を通し、廊下を歩いていく。


 エイラに見つかったら、ズボンを履けって言われるんだろうな。でも、何故か直ぐには履けない。これはお父さんの影響なのだろうか。


 歩くたびに太腿が露出がそんな服装に関係なくユイラは歩いていく。すると、突然背中にくすぐったく、何かが上ってくる感覚がする。その感覚はこの一週間何度も起きており慣れてしまった。背中を上り首に差し掛かり頭の上で止まる。くすぐったい感覚の正体はフワボウの六本の足が動く感触だった。

 フワボウはユイラの頭に乗っかり足を内側に畳むとそこから動かなくなった。他人から見たらユイラが頭に大福を乗っけている変な子供に見られてしまう。


 ユイラは台所の下、隠し扉のような床の貯蔵庫を開ける。三瓶あるレモン蜂蜜から一つ取り出しゆっくりと上下逆に回し机に置く。レモン蜂蜜が瓶の中で循環している間にユイラはコップの中に氷を入れ時計回りにゆっくりとフォークで回していく。時折瓶を回し宝石のように輝くレモネードにうっとりと顔をほころばせ、口の中で味を想像した。

 透明なガラスのコップが冷え表面に汗をかき始めたころ、浴槽からアイラが出る音が聞こえユイラは流しに氷を捨てた。棚から炭酸粉と床下からっ水を取り出した。ついでにミツネから貰ったクッキーを皿の上に乗せておく。


「アイラさん服着たらこっちにきてください」

「はーい」


 お風呂に入り少しは気持ちが落ち着いたのか先ほどよりもアイラの声に明るさが滲み出ていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ