14話 アイラ・ポーリエス
有難い事に、1日100pv超えました。ありがとうございます。
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今後ともまったりとですが、よろしくお願いいたします。
「アイラ・ポーリエス」
彼女の名前を聞いて一番最初に思ったことは、『ソーメル町』の人間なのではないかと言うことだ。
ソーメル町王都に隣接する二つの町の一つ。ソーメル町の有名なものと言えば染色だ。そして、ポーリエスという名字が多い。
服、寝具、カーテンなど布を扱う物を染めその人の生活を彩る。そういったデザイン、染色の上手さなどで定評のあるソーメル町。今や王都に店を構えるほどの人気であり、ソーメル町で染色された服はパーティーなど公の場でも着られている。
そんな町の人が何故幽遠の森に逃げ込んだのだろうか。お金に困って逃げてきたとは考えられないし、何か罪になる事を犯したわけでもなさそうだ。
じゃあ、何故この人は逃げてきた...
「アイラさん本当に早く出てきてくださいお願いします!」
「本当にお願いします!」
先ほどから追ってきていた二人の声に焦りが混じり始めてきた。おそらくトーエーウが出す信号が消え居場所が特定できなくなったからだろう。
「50メートルくらい先か」
ユイラはポツリと言葉を洩らしトーエーウの白い羽に炭で「私は大丈夫」と書き、大樹の泉の入り口に歩いていく。入り口から顔を出し外を確認すると、まだ少し先には霧があり視界は良好とは言えなかった。
ユイラはリュックから青い粉が入った袋を取り出す。
「それは?」
先ほどまで泉の水を飲んでいたアイラがユイラの隣まで並び袋を見ている。
「ソーリエです」
「え...」
「ソーリエ知りませんか?」
アイラさんなんで震えているのだろう。魔力を吸い現れるが人間に危害を加えるどころか助けとなる存在だ。別に怖がるものでもない気がする。
「あ、えっと、それ高価な物なのでは....」
「そ、そうなのですか...」
物置に普通に置いてあったんだけど。てか、お母さん本当に何やってるの。てか、お父さんお給料高かったのかな。お宝眠ってたりしないかな。
「偶に私たちの町でも染色材料を探すために使う人いるけど、その人達は王都の上流階級の人たち用に作る時だけ...」
「そうなんですか...まぁ。今はいいです」
ユイラは袋から手のひらに青いソーリエの粉を出し上に振るった。
青い粉は地上に落ちる事なく上空で鳥の形に変化をし旋回する。
「ソーリエ、この羽を直線50メートル先に落としてきて!」
ユイラは言葉と同時に白い羽を上に投げた。軽い羽はソーリエが飛ぶ位置まで届く事が無かったが、ソーリエは急降下を開始し、曲芸のように派手に羽を取り飛び立っていった。
「じゃあ、ソーリエが行ったので行きますよ」
ユイラは穴から飛び降り再び走り出す。その行動に反応しアイラも飛び降りた。
霧と反対方向は視界が開けており、少し離れたユイラもしっかりと目で追えている。
何も知らない子に面倒くさい事を押し付けてることに少しだけ申し訳なさがあるが、今は彼女の小さな背中を必死で追った。
雨が降った後なのだろうか。地面の泥は多量に水分を含み跳ねた泥が衣服に纏わりつく。ユイラは幽遠の森に行く際は汚れてもいい服を着ており今回は黒の繋ぎを着ている。アイラは意図した結果ではないが染料を使い生計を立てる職業をしているだけあって服は地味なものだった。そんな二人は服に気を遣うことなく濡れた地面を駆けていく。
後方からソーリエが追いかけてきたことを確認し、ユイラは足を緩めた。羽に書いていることを信用はしないと思うが、考え足が止まるだろう。
これを外したら、捕まるのだが流石にアイラさんがもう走れそうにない。
先ほど走った時より息切れが早く、足が重そうだった。門まであと歩いて20分程。早めに大樹の泉を出たことが功を奏した。
ユイラはリュックの中から水筒を取り出し、アイラに差し出す。
膝に手を置かず、できるだけ上体を起こし歩く彼女はゆっくりと息を整えていた。
「ありがとうございます」
アイラは両手で水筒を受け取り喉を鳴らした。勢いよく水を飲むかと思っていたが、柔らかい唇を水筒にゆっくりと付け、余裕を持ちながら口に水を含み飲み込んでいた。外見は正直に言えば品がないが、歩き方や仕草には少しだけ品がある。家柄が良いのか悪いのかわからない。
そういえばなんで私はアイラさんを助けているんだろうか。
たまたま森で頭をぶつけ合って、いつの間にか一緒に逃げて今に至る。ただの成り行きで始まったが、少しだけ楽しい気持ちと暖かい気がして悪い気はしなかった。
走ることをやめ歩きに変えてからはスムーズに距離を稼ぐことができた。走る方が早いのは確かだが、早歩きをすることで安定したペースで進むことができ疲れも少しづつ取れていくだろう。
おおよそ時間通りに私が入ってきた三番門に付き、門番さんがこちらに気付いた。
「お疲れ様です。そちらの方は?」
後ろから付いてきたアイラさんを訝しみ門番はユイラに問いかけた。
「森の中で出会いました。どうやら間違えて入ったみたいで」
「そうですか...」
詮索をされようがあまり関係はないが、できる事なら穏便に済ませたい。
ユイラは門番が次に口を開く前に下層魔法笛と拡張袋を台の上に置く。門番も察したのか拡張袋を受け取り後ろへと下がっていった。
「今回は銀貨5枚と銅貨8枚です。」
「ありがとうございます。」
「いえ、またお願いいたします。」
逃げることに時間の多くを使ったが中々にいい報酬だった。塊で回収できたのが大きいのかも知れない。まぁ、材料になるような状態の良い物は無かったが。
パーク国は銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚と価値が定められている。金貨の上の位は金貨100枚と同等の価値があるので庶民があまり使わないものである。
ただ清掃に来ただけで、こんな変なことになるとは思わなかった。
とりあえずお風呂に入って匂いと汗を落としたい...
太陽の位置がまだ空の高くに上るころ、少しずつ熱くなる季節に浸りながら二人は歩いた。ユイラには何の変哲もない帰り道。アイラには新しく来る新鮮な場所。二人は森の中とは違いのんびりとした足取りで道を歩いた。




