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13話 大樹の泉


 二人は全力で走り霧を抜ける。抜けた先をすぐに曲がり、大樹が見える。


「あの大きな木の、穴が空いてる、場所に入りますから!」

「わかった」


 息を切らしながら何とか彼女に説明し、足の回転を頑張って上げていく。霧の中を走ってきたおかげであまり喉は痛くはないが太腿やふくらはぎは既に悲鳴を上げている。

 明日は筋肉痛確定だ。階段を登るのも、起き上がるのもやだな。なんで、沢山走った後は腹筋も痛くなるのかな...


 頭の中で文句を垂れ流し、大樹まで後数メートルる。ユイラは力強く地面を蹴り大樹の穴に飛びながら潜り込んだ。それに見習い、彼女も大樹の中に潜り込む。


「え、何ここ...」


 彼女の目に映る景色は映るもの全てが初めてだった。

 大樹の中は真ん中の大きな泉を囲うように石の足場ができていた。光が届かず薄暗いが、何故だかしっかりと目に入る物はわかる。小さな光りが飛び交い、周りを柔らかく照らす。眩しくも暗くもない、丁度いい塩梅。蝋燭を一本たてゆっくりと眠るような感覚に似ていた。


「ここは何?」

「大樹の泉。まぁ、地面から水が出てるわけではないけどね」


 ユイラは彼女から貰った白い羽を泉の水に長いこと付け彼女の質問に答えた。

 大樹の泉。私が見つけたのは二年前12歳の頃だったか。魔物から逃げる際に見つけた場所。ボタルの小さな光が大樹の泉の唯一の光だ。その小さな光がいくつも輝き落ち着く場所へと変えている。


 ボタルは魔物ではなく虫であり綺麗な水がある場所でしか繁殖をしないとされている。そのことから大樹の泉にある水は新鮮であり飲み水としても使えていた。泉を囲う石畳など、まるで人工的に作られた様に見えるが、この場所を知っている者や図書館での記述は見つからなかった。


 まぁ、村の図書館ではあるが。

 この場所に何度か訪れても人と出くわすことは無く、誰かがいた痕跡もなかった。門番の物にも森の中で休息を取れるところは存在するかと聞いたが存在しないと言っていた。


「綺麗...」


 彼女は手を器のように重ね掌の中にボタルを囲っていく。金髪の髪がボタルの光に反射し先ほどより色味を増していく。少し痩せ気味だがスタイルが良く顔も整っている彼女はとても可憐な存在に変化しているみたいだった。ある意味崩れた髪も今の彼女を見せる要素になっているのかも知れない。


 しかし、ずっとこの場所にいるわけにもいかない。トーエーウ(共鳴羽)はたっぷりと水につけ無効化したが自分の行える清掃時間があと1時間もない。この場所から帰るのにいつもなら30分ほどで帰れるが何が起こるか予想できないうえ、彼女は既に疲れ今からペースを上げることは難しいかも知れない。そうなると、もう少し時間が経ったらここを出なくてはならない。


「あ、あの!助けてくれてありがとうございます」


 彼女は金髪の髪を垂れさがるように頭を下げこちらにお礼を伝えた。

 恐らく彼女の方が年は上だが何故か敬われている。


「いえ、私は大したことしてないです」

「そんなことないです!こんな綺麗な場所を知っていたし森の中も慣れてるようで。仕事か何かですか?」

「そうです。魔物清掃をしています」


 何か引っかかったのだろうか彼女はこちらを少し怪しい目で、足から頭で見回した。その瞳はたまにすれ違う大人たちの清掃者と同じであり、次にいう言葉も予想できる。


「「子供ですか?」」


 彼女はぎょっとし何故か頭をへこへこと何度も下げる。

 失礼だと思うなら言わなければいいのに。まぁ、子供ではあるから良いんだけど。


「そうですよ」

「あの何歳ですか...」

「今年15歳になります」


 彼女は更に驚き何故か近くまで来て頭をなでる。彼女の胸の位置に自身の顔が行くので、目の前の二つを思いっ切り叩きたくなる。質の良くない髪が頬を撫でくすぐったい。そして、彼女から匂う独特な匂いはなんだろうか。ある程度森に居たら魔物の死骸の匂いが体に付着するが、その匂いに紛れ独特な匂いがした。


「私はアイラ。アイラ・ポーリエス」


 彼女は私の頭から手を離し微笑んだ。

 ボタルが放つ小さな光。その光が反射し輝く泉。閉鎖的空間だが心は開放的になる不思議な空間。全てが互いに作用しアイラを魅惑的に演出した。

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