12話 追ってくるもの
「アイラさんーいるのはわかっているのですよ」
「魔物も出るので早く出てきてください」
どこからか男性二人の声が聞こえてくる。状況を考えればこの彼女を追っているのだろう。
でも、お金を持っているようには見えないし、服装とかも有名な人にも見えない。家族が追っているとしても、男性二人の言葉は他人行儀な言葉遣いだしな。
「あ、あのごめんなさい!」
ユイラが呑気なことを考えていると女性は立ち上がり後方に走り去っていった。服は泥まみれになり、足には擦り傷を作っていた。それでも立ち上がり彼女は走った。
「ちょっと待って!」
あ、遅かった。
ユイラの後方に走っていった彼女は重い音と共に一瞬にして姿を消した。いくら幽遠の森とはいえ下層地域で姿を一瞬にして消すことは無い。霧に隠れてしまっても少しは見えるはずだ。だが、彼女は消えた。
「うぅ...いたた」
「あの大丈夫ですか?」
ユイラは振り向き少しだけ後方に歩くと彼女は地面の中にすっぽりと埋まっていた。何かを諦めたのか彼女の目から光は消えていた。
「助けてもらっていいですか?」
「あ、はい」
彼女が埋まってしまった原因はアガアリだ。アガアリは大きさは三センチほどで集団行動をする虫みたいな魔物だ。特徴として大きな穴を掘り獲物を捕まえる、知能犯だ。しかし、人間がこの穴に引っかかる事はない。理由は単純、穴の周りに赤い点線を作るのでしっかり見ていれば埋まることは無い。
見ていれば...
幽遠の森に入る人なんかは特に警戒心が強いので尚の事引っ掛からない。そして、引っ掛かってしまったら、アガアリの集団が....
「ねぇ、なんか赤いのが来た、ねぇ!なんかキモイのが来た!」
アガアリは赤い団子を三つ繋げたような魔物であり普通に気持ちが悪い。ケタケタと歩く様子も不気味の度合いを高くする。
ユイラは手を貸し彼女を引っ張り出す。ミツネと同じぐらいの身長だが彼女はとても軽かった。彼女はアガアリを気にしながら手を付き踏ん張り抜け出した。それと同時に足音が近づいてくる。
「逃げなくても良いんですか?」
彼女は下を向きブツブツと何かを言っている。足音は更に大きくなりこちらに近づいていることが分かる。先ほどのように彼女を呼ぶ声が聞こえない。
「やっぱり逃げる。ここの抜け出し方教えてください!」
彼女はユイラに懇願し、上目づかいをする。元がいい彼女に当てられユイラは手をゆっくりと差し伸べた。
まぁ、地位の高そうな人ではなさそうだし別に安易に助けても問題はないか。
「じゃあ、こっち」
エイラは自信が来た道に向かい走り出した。その後ろを彼女も懸命に追う。探している相手も気が付いたのか再び声を上げ始めた。
「ねぇ、その頭に付いている白の羽頂戴」
「これ?」
彼女は頭の右側に付いている白色の羽を取った。彼女から貰った白色の羽はクリップが付いており髪留めに加工されていた。まだあまり毛羽立っていないことから使用してからあまり時間が経っていないとわかる。走ってきた影響か、少しだけ泥が付いていたが。
「これは誰かからの贈り物?」
走りながら後ろにいる彼女に声を掛ける。息を切らしながら走る彼女には答えるのが難しいかも知れないが彼女は唾を一度飲み答えた。
「最近、町の子に、貰ったの」
町の子が追っ手の協力者だとは思わない。恐らく甘い言葉でも掛けられたのだろう。この羽の対をなす黒い羽は罪人が付ける羽だ。共鳴羽からとれる羽は黒と白、二つの羽が一つの羽として生えている。その羽の特徴としては片方の羽がもう片方の羽の居場所を察知し示してくれるという物だ。罪人たちは番号が書かれた羽を収容所で持たされ行動する。見つけたい人物を早急に見つけられるという事らしい。
恐らく追っては黒の羽を掌の上に乗せ羽の向きを確認し、辿っているのだろう。でも、この人が持っているのは白の羽。罪人が持つものでは無い。相手は黒。罪人の持つ方だが外に出ていることはあり得ない。この羽を使える人、国の人しかも地位が高い。
なんか、嫌な気がしてきた...
ユイラは走りながら振り向き彼女の確認すると必死に走り、顔が崩れていた。
言い訳だけしっかりと考えておこう。
「もうすぐ霧を抜けるから、前が開けたら右に行って穴に入るからね」
「わかった」
ひんやりと肌を包むように冷たい風が吹いてくる。向かい風のその風に耐えながら霧を抜け、二人はすぐに右に曲がっていった。