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11話 「私は」


 私は私が思っているほど私に対して評価が高くない。記憶力に関しても他人と比べると圧倒的に数をこなさなければならなかった。もうすぐ17歳になる。でも、未だに文字が読めても書くことに関してはどこかで躓いてしまう。文字を書くという事はこの町では必須ではない。会話ができ文字が読めれば困ることは無い。偶に読めて書くことができないことを馬鹿にされるが、そんなことはもう慣れた。

 それでも、偶に私のことを評価してくれる人もいる。親とか友達とか。心が通っている人は私を評価してくれる。

 そんな小さな世界で生きていくはずだったのに私は今、逃げている。この深さが分からない幽遠の森という強大な世界に。


「アイラさんどこですかー」

「どこ行ったのですか、危ないですよー」


 聞きなれた兵士の声がすぐそこまで迫っている。逃げても逃げてもこちらの居場所を知っているかのように彼らは追ってくる。

 どこまで来たのだろうか。次第に霧が濃くなってきている気もする。勢いよく走ってきたのはいいが、幽遠の森に入るつもりは無かった。私は運も持っていなかったみたいだ。さっさと兵士に助けを求めようかしら。自分の嫌な事より先に命を守った方がいい。死んでしまったら何もできなくなってしまう。

 でも、頭の中で分かっていても足は逃げる方へと踏み出す。いつかは捕まると分かっていても足は逃げる方向へと向け動いていく。

 霧が濃くなり視界が悪くなるががむしゃらに走った。時にツタに頬を撫でられ痒くなる頬を掻きながら。根に足を奪われ転倒しそうになろうと必死に足を前に出した。その時、何か固い物に当たりしりもちを付いてしまう。


「「いた!」」


 前から聞こえた声と同じ声を出してしまう。いや、同時に出してしまった。一瞬立ち眩みが効き、何が起きたのかわからなかった。しかし、すぐに頭に痛みが走り固い物が頭にぶつかったとわかる。


「いたたた...」


 瞑った目を開け前を見ると黒髪ショートカットの女の子が目の前でおでこを抑え蹲っていた。直ぐに立ち上がり女の子に近づくと、次は顎に衝撃が走った。


「「いだ!」」


 再び同じように声を出しその場で蹲る。今度は私は顎に、少女は後頭部を打ったみたいだ。


「だ、大丈夫?」

「大丈夫です....」


ーー


 エイラとミツネとのお泊りから一週間私は幽遠の森に仕事に来ていた。今までは月に二回ほどの仕事依頼だったが既に今月二回目の仕事依頼だった。どうやら魔物が沢山発生し倒したらしい。倒した兵士が回収すればいいと思うが、どうやら皆死体処理はしたくないらしい。グロテスクかつ臭い。中には働きに対し給料が安いという人もいるらしい。まぁ、恐らく王都の人間だろうけど。私はあまり気にしないので高給に感じる。所謂天職と言うやつか。

 そんなこんなで肉片が散らばった魔物、ジュレ状になった魔物を掃除していく。


「なんか、霧が濃くなってきたような...」


 元々今日は雨が降っており視界があまりよくはない。幽遠の森は生き物のように状態が変化していく。下層地域にいるのでさほど心配する必要はないが、足場は丁寧に確認し進んでいくと決めていた。


「クロガバトにフワボウ、アガアリ、ジュライム、確かに多いなー」


 何体もの魔物が混ざり合いながら死んでいる。焼かれたり、切り裂かれたり、爆破されたり。死因は様々だがどれも原型を止めてはいなかった。識別できるのは匂いと小さな体の破片からだった。

 どうせ殺すなら綺麗に殺してほしい。素材になるかも知れないのに。

 ブツブツと文句を言いながら清掃をしながら霧の中を歩いている。霧は更に深く濃くなり引き返そうとした時、頭に鈍器で殴られたような重い衝撃が走る。


「「いた!」」


 痛みに耐えられず膝から崩れ落ちる。おでこがジンジンと痛み、頭を下げてしまう。上を向くことができずおでこを摩る。徐々に痛みが引いて来たので、頭を上げると次は後頭部に衝撃が走る。


「「いだ!」」


 再び頭を上げれ無くなり、後頭部を摩る。

 もう、なに。魔物から声の出る魔物にでも襲われているのかな。まぁ、そんな魔物がいたらペットにしたいけど。

 今度はゆっくりと頭を上げると目の前には綺麗な金髪をした綺麗な女性がいた。


「だ、大丈夫?」

「大丈夫です...」


 彼女は顎を摩りながらこちらを優しい目で見つめている。目は少し垂れ柔らかい。鼻と口の位置も整っているが、髪の毛の質や髪型、服などがみすぼらしい。よく確認してみると手や爪なども綺麗では無かった。どこかの村や町の人なのだろう。仕事で荒れているようだ。

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