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106話 小旅④


 門番を眠らした2人は幽遠の森へと踏み込んだ。門番に許可を取らず侵入することは違法であり、侵入が発覚すると罰金が課せられることになる。だが、2人は気にせず幽遠の森へと消えていった。


 幽遠の森は危険と隣り合わせである。もちろん場所にもよるが、一歩間違えれば飲み込まれてしまう危険性を孕んでいる。だから、免許が必要であるが、今私の目の前にいる少女は免許を持っていない。


「それで、ここからどうするつもりなの」


 森に入って5分が経過した時、私の周りは知らない景色になっていた。


「この場所は行きに通ったの?」


 先頭を歩くベルエットは自信があるのか、全く周りに目を向けず軽快に森の奥に入っって行く。


「行きに通ったかは覚えてない」


 その言葉に私はひどく不安になった。

 魔法をうまく使いこなせるベルエットだが此処は幽遠の森である。

 幽遠の森が恐れられるのは未知な場所であり、多くのものが飲み込まれたからである。


 幽遠の森に接する国々が開拓を求めていた。

 開拓することによる権力の誇示。他国への牽制。力の独占。領地拡大。新技術への好奇心。他にも様々なるが、他国よりも早く技術や領土を獲得し世界を自国を収めたい。そのために幽遠の森は重要な位置につけていたが、現実はそう簡単なものではなかった。

 幽遠の森の犠牲者は数えられないほど生まれた。しかし、研究や開拓は犠牲者の数に合わず、時間だけが経ち国家間で幽遠の森を分割する条約が生まれた。


 そんな各国が手を出すのを躊躇った未開の地を彼女はスラスラと進んでいく。


「ユイラは幽遠の森をどう思う?」


「どう思うって?」


「んー難しいな。なんて言うんだろうか、感覚的にこの場所に来たら気持ちが落ち着くとか、澄んだ気持ちになるとか、そんな感じでこの場所が好きかどうか」


 感覚的にこの場所が好きかどうか。

 私が感じる好きな場所はまずは家だ。お風呂に入ってる時も、少し暑くて寝心地が悪いのも好きだ。夜風が部屋のなかを透き通る感じも、はちみつれもんごグイッと一気に飲み干すのも好きな感覚にあたるのかもしれない。そして、幽遠の森は昔お母さんと歩いたからどこか懐かしみがあり、好きだ。


「私は、ここに来るとお母さんを思い出して好きだよ。でも、同時にハラハラして心が落ち着かない時もあるかな」


「そうだよね。なんか落ち着く時もあれば、ハラハラする時もあるよね」


「どうしたの?」


「ハラハラする時も…」

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