105 小旅③
配送馬で一日は野宿をしなくてはいけない。どれだけ道や馬の状態が良くても朝から夜まで走らなくてはならない。それなのに、なぜ幽遠の森を抜けるだけで4時間なのだろうか。
「ありえない」
「ありえないって言われても」
呆れながらベルエットはコップに残ったレモン蜂蜜を飲み切った。
「まぁ、いいじゃん。いけばわかるよ」
太陽が地上から一番高くなった時間に2人の準備が終わり玄関で靴に足を通していた。森を抜けるためサンダルではなくスニーカーを履き、羽の大きな蝶々を靴の上で結んだ。
正直私はベルエットのことをレベルの高い魔法使いだとは思っているが、ここから王都まで4時間という破格の時間で行けるとは思っていない。いくら魔法が使えたとしても、幽遠の森を縮小することはできないし、転送魔法も設備が必要になってくる。身体強化魔法を使用し走り続けても4時間では森を抜け王都にたどり着くことはできないはずだ。
「では、王都に向けて出発」
少しいつもよりも高い声で歩き出したベルエットの後ろに遅れながらついて行くことになった。出足が一歩遅れたのは何か忘れているような違和感を取り除かず、扉を閉め鍵をかけてしまったからだ。
何か重要なことを忘れている。
私たちはこれから王都に向かう。配送馬を使わずに歩いていく。時間は幽遠の森を歩き約4時間ほど。
思い出せぬまま歩いていたユイラだが、幽遠の森までの道は何回も歩いているため、考え込んでも体に道順は染み付いている。そう、何回も幽遠の森を清掃しているからだ..
「あ、思い出した」
「何を?」
忘れ物をしたのかと勘違いしたベルエットが足を止め後ろを歩くユイラに目線を向ける。
「門番がいるんだ」
「だから?」
「ベルエットはまず入れないし、4時間の時間なんておそらく怪しまれることになる。私、まだ成人していないんだし」
幽遠の森に入るには国の許可がいる。もちろん、密かに入れる場所はあるが、私たちがいる場所から門番に確認されず入れる場所はない。この辺は一面木で覆われ隙間がない。入れるように開通させた門番のとこしかないのだ。魔法で道を開けても門番にはバレてしまう。
「そんなの簡単じゃん」
「え?」
「眠らせればその隙に入れるでしょ?」
私はたまにベルエットが怖くなる。相手は門番だ。あくまでも国に仕える者である。万が一眠らせることが知られた場合、懲罰になってしまう。また、門番も上司に眠っているところを見つかれば怒られてしまうだろう。でも、彼女にはそのような行動への躊躇はない。




