ゆっくりと
澄んだ森の中の小さな村で葬式が執り行われた。
参加人数はおよそ40人。村の人が多く集まり、死者を見送った。
亡くなったのは三軒隣のエイラの父親だった。
村の隣の森には魔物が沢山生息しており、国の兵士が逃した魔物と戦い命を落としてしまったらしい。
その魔物はのちに兵士により始末されたが、深い傷を負ったエイラの父親は息をっ引き取った。
父親が亡くなった時、エイラは珍しく悲しそうな顔をしたが、会食の時にはいつもと同じような赤い綺麗な瞳を宿し、食事を楽しんでいた。
小さな村の一人が与える影響は大きい。村の主食となるお米を作っていた父親の仕事をこれから女性二人で担うのは難しかもしれない。
「まぁ、村の貯蓄もあるし、仕事の手伝いもしてたから多分大丈夫だよ」
今日は私の家でお泊りする為、エイラは夜まで隣にいる。
屋根の上に小さな机を取り付け満月の光の下、私たちはお茶を飲んでいる。お茶のお供に、エイラのお父さんが作ったお米を粘り気が出るまでこね、お餅にし甘味を付け食べていた。
「何かあったら言ってね。私も手伝うから」
「ありがと。でも、ユイラも大変でしょ?」
彼女の赤く長い髪は月光により幻想的に見え小さな暖かな風が無くとも、温かみを感じる。いつも凛々しい彼女はたまには弱くなってもいいと思うが、彼女はそれを隠すことも強さにしてしまう。
「私はそうでもないよ。両親いないから仕事も少ないしね〜」
「それでも、家のことやったりしてるじゃない。」
「まぁ、もう慣れちゃった」
私の両親は去年無くなってしまった。エイラの父親と同じように魔物の残党に殺されてしまったらしい。
両親は兵士たちが倒した魔物を掃除したり、使えそうな素材を採取したりする仕事だった。
魔物は死体のまま放置しておくと異臭を発し、風に乗って村に漂ってくる。それ以外にも他の魔物を呼び寄せる可能性がある為、燃やしたり、利用する。
食材としては未だに美味しい物はないのだとか。
「明日、魔物清掃の日?」
「そう。私は森の奥までは行けないけどね」
村の近くにある幽遠の森にはランクがある。
一番下、まだ坂にもなっていない場所は下層地区。一般市民でも簡単に倒せる、いわば虫のような魔物が存在するエリアだ。たまに毒を持った魔物もいるが、下級魔術師にも治せるほどの弱毒さだ。
父はこんなの治さないで置けばいいと言っていたが、翌日高熱を出していた。魔物といえど侮れない。
「でも、なんか最近色々試してるみたいじゃん。夜中でも灯り付いてるし」
夜に作業をしている事を知っている彼女はいったいいつ寝てるのだろうか。
今日も朝から大変なはずなのに、夜まで起きていたのだろうか。
「最近、魔物掃除で手に入れたクロガバトの羽を使って色々試してたの」
「あの、コウモリみたいなやつ?」
「そう。まぁ、大きさは別物だけどね」
クロガバト。下級魔物であり、倒すだけなら私でも頑張ればできる魔物だ。普段は30センチほどしかないが飛来する時や威嚇するときなどに折りたたまれた羽を大きく広げる。その時の体長はおおよそ2メートルにもなる。
先日、魔物清掃をしていた時、矢が刺さり死んだクロガバトを多く見つけ燃やさず持ち帰った。
普段は魔法などで排除されるため、ズタボロになったり焦げた物しか残らないが、今回は矢で死んでいたので大部分は残っていた。
「何をそんなにやってるの?」
「まぁ、もうすぐわかるから待ってて」
「わかった待ってる」
エイラは優しく微笑みお餅を一つ口に運び噛みしめた。
私も皿にのっているお餅を一つ摘み口に放り込んだ。
村で重宝されている蜂蜜が口の中でジュワッと広がり舌の上に滑らかに広がる。都会である、王都にも偶に売りに出すが、驚くほどの利益が出るのだとか。
私がこの村にいて良かったと感じる瞬間でもある。
そこから1時間エイラとお餅を食べながら、たわいもない話をしつつ、輝く月を見た。
「もう寝ようか」
「そうだね」
エイラは頭の後ろで一つ結びにしていた髪を解き窓から中に入っていった。
私はもう一度月を眺め、エイラと同じように窓から屋根裏に体を滑り込ませる。
鼻につく匂いを我慢しながら、折り畳みの階段を降り二階に着く。エイラは既に一階に行ったのか電気が付き水が流れる音がした。
私も、一階に行きコップ一杯の水を飲む。
まだ寝る気はないので歯を磨かずに先に二階に戻った。二つある部屋の片方に入り小さなランタンにマッチで火を灯す。
小さな灯りだが、暗い部屋には大きな存在感を出していた。
「蝋燭もあと少ししかないから買い足さないとな」
一人暮らしを始めもう一年も経つが生活面では考えないと行動できていない。歳も13歳とまだ、成人まで五年あるが他の子たちはしっかりしてるからな。エイラとかまさにそうだし。
ランタンを枕元のサイドテーブルに持っていき、固いベットの中に入る。
「この硬さがあと少しで...」
草を詰め込んだ枕に頭を置き薄い布団の中に入る。
もうじき冬が来る。毎年寒さをしのぐため、薪ストーブを付け寝ている。しかし、効率の悪さとコストの高さは大きな問題だ。
薪を割るのもめんどくさいし、早く作らないとな。コエラさんの赤ちゃん、もう生まれるしね。
「ユイラもう寝たの?」
ギシリと音を立て扉が開いた。
エイラに話しかけられたが目をつむり寝たふりをする。
「もう、ランタン消さないで寝ないの」
布団の擦れる音が聞こえ私の上にエイラの手が通過しランタンの火を消した。
私に掛かっている布団を少しだけ引っ張り同じ布団の中に入る。
「おやすみなさい」
エイラの優し気な声に反応しそうになるが、ぐっと我慢をしやり過ごす。
何分たっただろうか、目を開けても暗い世界が広がる中で私はボーっと天井を見上げていた。外からは小さな虫の音や時々魔物の鳴き声が聞こえた。
「エイラもう寝た?」
小さく声を掛け、エイラの反応を伺うがエイラからは小さな寝息しか聞こえてこなかった。
世闇に慣れた目を使いゆっくり布団から抜け出す。ゆっくりと立ち上がりサイドテーブルのランタンを持ち上げる。振り向いた先にはエイラが子供のような顔で熟睡をしていた。
この時だけは私の方がお姉さんみたいだな。
長い髪がベッドの上で乱れて、暗い中でも綺麗に見えた。
忍び足で扉の方まで行きゆっくりと部屋を出た。ドアを閉めランタンの光を頼りに階段を下りていく。
まだ、冬は来てはいないが、夜は流石に少し冷え込んだ。
一階に降り、食事をする机の椅子に掛かっている灰色の薄い上着を羽織家を出た。
エイラの家からコエラさん一家が住む家まで大体3分程。エイラの家まではおおよそ2分で着く。村の土地は人のわりに面積が大きい。ユイラの家は右に農物を育てる場所、左に物を作る場所がある。
村全体が自然に覆われているので、無駄な光が入ることは殆どない。夜に動く者も少なく、頼りになるのは強く光る月明かりだけだ。
「できてるといいな」
私は最近ある農作物を作っていた。
先日の仕事、魔物清掃の時に入手したクロガバトを使い、綿の葉をつくっていた。
まず、状態の良い、クロガバトの体と羽をハサミで切り落とした。緑の液体がハサミに付き異臭を放つが、我慢をし綺麗に切り落としていく。
胴体は使わないのでこれ以上触らずに、あとで焼却をした。
固くもあり柔らかい羽の中にある綿をピンセットでゆっくりと取り出していく。左右合わせ羽の綿は掌しか取れなかった。
地味な作業を一日一体。合計6回行ったところで、異臭が屋根裏に染みついてしまった。
「あ、できてる!!」
畑の一部、小さな場所に周りとは明らかに異なる白い草をはやした植物が5本なっていた。
クロガバトから取り出した綿を土と混ぜ、魔力を吸い成長していく草の種を入れた。発芽したのが3日前であり、成長スピードは速いのかもしれない。
「あとは、成功するかどうか...」
一枚の葉を取り、持参したハサミで葉の先にゆっくりと刃を入れる。サックとした音が鳴り、切れた葉の先が下にゆっくりと雪のように落ちていった。
しゃがみ、落ちた物を拾い上げ感触を確かめる。
ふわっと繊細な糸が塊となっており綿になっていた。
「うん!これなら大丈夫そう」
残りの葉を摘み籠に入れていく。まだ、確認はできていないが、摘んだ葉がまた生えてくることも考え、茎は残し葉だけを摘む。
大きな籠を抱えて一階の部屋の大きなランタンに火を灯す。
「火の魔法私も使えたらいいんだけどな」
マッチで火を起こすのにもお金がかかってしまう。お母さんは火の魔法を使えたが、私は使えない。毎回マッチを擦り火を灯すしかない。
「さぁ、夜が明ける前にやりますか!」
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