バレンタイン
かなり久しぶり(もう一年近く)の更新です。
更新するつもりはあります。
タイトル通りバレンタインの話です。
「どうしよう……」
私、高篠美奈は今すごく悩んでる。理由は明日がバレンタインだから。
私の通っている学校は、普段はお菓子を持っていったりしてはいけないが、バレンタインデーだけは特例でチョコレートを持って行ってもいいことになってる。
だから作って持っていこうとは思う。友達も交換しようって言ってきたし。
でも、問題はそこじゃなくて……。
「圭介君のはどうしよう」
そう、圭介君のはどうしようかと悩んでる。
流石に友達と同じのはどうかとは思うし、やっぱり個人的にも違うのがいいと思うし。
友達のはカップケーキにしようとは思うけど、圭介君はどんなのがいいんだろう?
「チョコレートケーキ? それともフォンダンショコラがいいかな~?」
さっきから私はずっとそんな事を考えていて、かなり時間が経ってしまっていて、いい加減どうにかしないといけないと思い、電話を掛けた。
『はい、こちら臨床心理……じゃなかった、三住です。どちら様でしょうか?』
仕事の所為もあってか、少しいつもと違う出方をした三住先生に話しかけた。
「もしもし、高篠です」
『ああ、美奈ちゃん。どうかしたの?』
「あの、私、今悩んでる事があって……」
本当はこんなことを聞くのはおかしいんだろうけど、もうどうしたらいいのか分からなかったから三住先生に縋る事にした。
『もしかして、明日のバレンタインのチョコで悩んでる?』
「な、何で分かったんですか?」
『だって美奈ちゃんらしい悩みって考えたら、これかな~って思って』
何でこの人はこんなにも簡単に見抜くんだろうか? そんなに私って分かりやすいのかな?
「あの、それでしたら言わなくても分かるかもしれないですけど、圭介君はどんなチョコレートだったら喜んでくれるか分かりますか?」
『美奈ちゃんのだったらなんでも喜んでくれると思うけど、まあ、手作りが一番嬉しいんじゃないかな?』
「手作りでもどんなのがいいのか分からなくって……」
手作りは最初から決めてたからいいとして、何がいいのか全く分からないから困ってる。
『そうね~、圭君先生は甘い物は基本的に好きだし。て言うか甘党だし。
でも、お酒とかは苦手だからウィスキーボンボンとかは止めた方がいいかも。
まあ、少しだけ洋酒が入ってる程度なら大丈夫みたいだけどね』
「はあ、そうですか。
じゃあ、チョコレートケーキとフォンダンショコラだとどちらがいいと思いますか?」
『個人的にはフォンダンショコラが食べたいけど、私の好みじゃないもんね。
ま、電子レンジならカウンセリング室にあるからフォンダンショコラでもいいと思うよ』
「そうですか、ありがとうございます」
『いえ、いえ。役に立ったんならそれでいいし』
「明日、先生方にもカップケーキを用意させてもらいますね」
『それは楽しみね。じゃあ、また明日ね』
「はい、ありがとうございました。それでは失礼させてもらいます」
そう言ってから電話を切った。
「よし、それじゃあ作るか!」
気合を入れてから私はフォンダンショコラを作り始めた。
バレンタイン当日。
周りは朝の挨拶が飛び交っている。
「おはよう」
そう言って由美ちゃんが私の肩を軽く叩いてきた。
「おはよう」
振り向いてからそう言うと由美ちゃんはにっこりと笑った。
それから少し話しながら教室に向かった。
教室に着いてから由美ちゃんは私にチョコレートを渡してきた。
「はい、バレンタインのチョコ」
「ありがとう。私からも、はい」
そう言って私はラッピングしたカップケーキを由美ちゃんに渡した。
「あれ、それは?」
由美ちゃんが一つだけ違うラッピングのを見つけてそう言った。
「あっ、こ、これは……」
どう言えばいいのか分からずにそう言ってから口を噤んでしまった。
「もしかして本命?」
そう言われてから私は頬が熱くなるのを感じながら、俯いてから小さく頷いた。
「告るの? それともすでに彼氏がいるの?」
なんとなく声が低い由美ちゃんを少し怖いと思いながらも答えた。
「その、付き合ってる、の」
「私、美奈に彼氏がいるって聞いてない」
「ご、ごめん」
私がそう謝ると由美ちゃんはいつもの雰囲気に戻ってから頭を撫でてくれた。
「まあ、いいけど、今度紹介してよ?」
「うん」
私が頷いて顔を上げると何人かが床に手をついて暗い顔をしていた。
はてなが頭に浮かびながら見ていると、由美ちゃんは気にしなくていいと言って私の頭をまた撫でた。
他の友達にもチョコレート渡してから朝を過ごした。
お昼にはお互いに渡したチョコレートを食べながら色々話した。
そして時間はあっという間に過ぎ、放課後になった。
私は少し急ぎ足でカウンセリング室へ向かった。
でも、緊張してきてカウンセリング室の前に着いた途端に足が止まってしまった。
少しでも落ち着こうを深呼吸を繰り返し、少し落ち着いたところで意を決して扉を開けようと手を掛けた。
すると、行き成り扉が開いた。
「美奈ちゃん、そんなところに居たら寒いでしょ? 早く入りなよ」
そう言って微笑むのは圭介君だった。
「し、失礼します」
そう言ってから私はカウンセリング室に入っていった。
先に談話スペースに向かった圭介君を追いかけて私も談話スペースに行った。
「美奈ちゃんはコーヒーでいい?」
「あっ、うん。それで……」
そう返事はしたもののチョコレートをいつ渡そうか悩み続けていた。
すると、カーテンが開く音が二つ聞こえた。
「あら、美奈ちゃんいらっしゃい」
「私たち、少し用事があるから席を外すわね」
そう言って三住先生と早瀬先生はカウンセリング室を出ていった。
そして二人っきりになってしまい、心拍数が余計に上がってきた。
「美奈ちゃん、どうかした?」
何も分かっていない圭介君がそう尋ねてきた。
でも、いいタイミングなのかもしれないと思って私はチョコレートを取り出した。
「あの、これ……」
私は頬が熱くなっているのを感じながら、おずおずとチョコレートを手渡した。
「えっ、俺に? いいの?」
圭介君が少し驚いたような声で聞いてきて、私はコクコクと頷いた。
「ありがとう」
そう言ってふんわり笑う圭介君に思わず見惚れてしまった。
「開けてもいい?」
そう尋ねられて私は頷いたけど、内心ではちゃんと口に合うか心配で、気が気じゃなかった。
そんな事に全く気付いていない圭介君は嬉しそうにラッピングを解いていった。
「わあ! 凄いね。手作り?」
「うん、取り敢えず、フォンダンショコラなんだけど。口に合えばいいんだけど……」
そう言ってから、私はカウンセリング室にあるお皿を出して、フォンダンショコラを電子レンジで温め始めた。
本当にこのカウンセリング室って色々置いてるなぁ。
そんな事を考えている間に温め終わり、圭介君の前にある机にコトリという音を立てて置いた。
「どうぞ」
私がそう言うと圭介君は嬉しそうに「いただきます」と言ってから、フォンダンショコラにフォークを入れた。
すると、とろりと中からチョコレートが溢れてきた。
それを少し掬うように生地に付けてから口に運ぶ様子を私はじっと見ていた。
「ん~、すっごく美味しい!」
破顔一笑という言葉ぴったりだと思った。
そのくらい幸せそうな笑顔で上機嫌で食べる圭介君を見て、私も笑顔が零れた。
私は圭介君の横に座ってから、色々話した。
「三住先生に聞いたんだけど、お酒苦手って本当?」
「あ~、本当はそれほど苦手はないけど、嗜み程度にしか飲まないかな。
まあ、あの二人と比べたら全然飲まない方だろうけど」
「あの二人って三住先生と早瀬先生?」
圭介君は私の言葉に大きく頷いた。そして私は思い浮かべてみた。
そしたら、簡単に思い浮かべられた。
「一回外にあの二人と飲みに行ったことがあるけど、凄かったよ。
なんせ、お店の人がうちの酒が飲み干されるって小声で零したほどだし」
「そ、そんなに?」
「うん、その時にあの二人にあんまり飲んでないって言われて、あんまり飲まないんでって言ったから、苦手だと思われるようになったみたいだけどね」
「そ、そっか」
そのお店が可哀相だと思った。
「まあ、あれ以来、あの二人の前ではあんまり飲まなくなったかな」
「えっと、つまり、あの二人は所謂、酒豪?」
「酒豪なんてものじゃないよ。あの二人はお酒でできてるって言っても過言じゃないし」
「酷い事言うわね~」
そう言って圭介君の後ろになっていたのは早瀬先生だった。
「うわ! ビックリした~」
圭介君は仰け反ってから大声でそう言った。
「あら、そんなに驚かなくてもいいじゃない」
「み、三住先生……」
私が呟くように言うと、にっこりと笑顔を返された。
「でも、本当に酷いわよね~。誰が酒でできてるっていうのよ」
「そうよ。それに美奈ちゃんに言うなんて酷いわ~」
「そういう事、言うのならお酒を控えてください」
圭介君は気圧されながらも、必死で言葉を紡いだが、一睨みされてから直ぐに押し黙った。
私は少しでも話しの方向を変えようと三住先生と早瀬先生にカップケーキを差し出した。
「あの、良かったらどうぞ」
「あら、ありがとう~」
二人はそう言ってから私をギュッと抱きしめてきた。
「そう言えば、二人はさっきまでどこに行ってたんですか?」
そう圭介君が尋ねると二人は私から離れた。
「まあ、言ったら、お姫様に恋をした可哀相な少年たちを慰めに行ってたのよ」
「ああ、うん、何となく分かりました。すみませんでした」
私は分からなかったけど、圭介君は分かったみたいで謝っていた。
「美奈ちゃんは分からなくても大丈夫だから。まあ、私たちのお仕事みたいなものだし」
「はあ、そうですか」
私は結局、曖昧な返事を返す事しかできなかった。
それからは三住先生と早瀬先生も談話スペースの椅子に座り、私があげたカップケーキを食べていた。
美味しいと言ってくれたから取り敢えず、バレンタインはいい日だったんだろう。
こうしてバレンタインは幕を下ろした。
私が書いている話の中ではかなり甘めの話なので、読み返すだけで私が胸焼けするので次話投稿に時間が掛かっております。
それでも更新するつもりはあります。
気長に待ってくださるとありがたいです。
次も一年近く空いてしまったらすみません……。