Zという名の男
「助けた覚えはないです。人違いですね。
指揮官のZ?こう見えても僕は一般の方の依頼しか
受けません。敵国の軍人とか全く接点がない
です。すみませんが、あなた方は、そのZという
名の人物の勘違いに踊らされてるんですよ」
依頼人(女):
「あなたは過去にZと接点があるはずなんです。
仕事の依頼などでZがあなたと関わった記憶は
ありませんか?思い出して下さい」
「こう見えても食べて行くのでさえ苦しい人生
だったんですよ。社会に出ても就職に失敗
しましてね。小さな依頼を受けながら人生とは
呼べない人生を送って来ました。ですから
もしかしたら、そのZの依頼を過去に引き受けて
いたかも知れません。だけど、思い出せない
ですよ。突然、指揮官Zと言われても」
依頼人(男):
「これが、われわれが入手しているZの写真です。
ご覧になって下さい。この顔の人物に見覚えは
ないですか?昔のことなら、もっと若いはずです
ので、難しいかも知れませんが。こんな顔の
人物に関わったことはありませんか?」
「Fさん?」
依頼人(男):
「Fさん?Fという名を語っていましたか?この
男がZです」
「なんとなく、Fさんに似ているかなと。
気のせいですかね?Zですか?」
依頼人(女):
「もちろんZが名を変えて活動していた可能性が
あります。この人物は、あなたと、いつ関わり
ましたか?」
「う〜ん。どうだろうな。留学生だったかな?
短期滞在者だったか?かなり昔ですよ。
あっ、そうだ。飲食店をかけ持ちして働いて
いるとか言ってましたかね。苦学生だったと
思います。そんな感じがしました」
依頼人(男):
「それで、あなたはこの男の依頼を引き受けて
貸しを作ったというわけですな。どんな依頼
でしたか?」
「貸しを作る?僕は依頼を引き受けて料金を
もらうだけです。貸し借りはないですよ。
依頼ですか?そうですね、ちょっと思い出せない
くらいの野暮用だった気がします。少し時間を
もらえますか?すぐには思い出せないです」
依頼人(男):
「そうですか。ですが、ZがFと名乗りあなたに
仕事を依頼したことが判明して安心しました。
どうやらあなたで間違いないようですから」
依頼人(女):
「あなたがZに与えた恩が、今あなたを重要な
舞台に引き上げようとしています」
「恩?僕はZに恩など与えていませんよ。何か
おかしいと思いませんか?そもそもFがZの
偽名であり同一人物だということも証明できない
じゃないですか?Fに似ているかなと思っただけ
で、それがZだということにはならないんじゃ
ないですか?偽名を使うのは連中の常套手段で
しょうけどね。なぜ僕なんですか?他の人に
交渉人になってもらえませんか?迷惑ですよ」
依頼人(男):
「敵国上級指揮官Zからの要求なんです。
あなたに捕虜を解放する為の交渉人となる
ことが条件だと通知が来ています。そして
仕事があります。その後、あなたは敵国から
準国民待遇として敵国の国籍を与えられます」
「断ります!冗談じゃない。
いらないですよ。準国民待遇の国籍?
他の人に代行してもらって下さい!」
依頼人(女):
「3万人の市民の命がかかっているんです。
そして、敵国があなたに突きつけた仕事は
新たに、別の人間の命に関わっています」
「どういうことですか?」
依頼人(男):
「3万人を救う代わりにある人物をヤツらに
引き渡すのがあなたの仕事です。敵国が提示した
交換条件なんです。あなたはその人物を連行して
Zに引き渡すのが仕事なんです」
「・・・」