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油断
「油断したのです」
「・・・」
油断とは、どういうことだろう?言葉が出なかった。上司の方の依頼人の言葉は、とうとつすぎて、私にはとてもじゃないが反応できなかった。まるで豪快なロングシュートを放たれて1歩も動けないまま自陣のネットを揺らされたゴールキーパーのように。
「あ、あのう。油断したとは?」
「局地戦で、民主主義国連合が、油断してしまった
のです」
「局地戦?」
また始まったのか!
戦争の話かよ?
「局地戦で油断したのです。それで一気に敵国が
優位になってしまいました」
「すみませんが、お伺いさせて下さい。改めて
仕事を依頼されに来たのか、それとも世間話を
しに来たのか、どっちなんですか?
私は、全く興味がないんですよ。
言いましたよね?覇権だの戦争だの
そんなことを考えるゆとりさえないんです」
「実は、これは世間話ではないのです。あなたに
ご理解していただきたくて。その、つまり、
あなたに依頼したい内容に直接関係する
話なのです」