依頼人 2
それから2、3日後だったと思う。午前中に玄関のブザーが鳴った。
「どちら様ですか?」
「仕事の依頼に来ました」
その人物も灰色のコートに、黒の手提げカバンを持って立っていた。ただ、前回の依頼人とは別の人物だった。
「どうぞお入り下さい」
「ありがとうございます」
一目見て、私は驚いた。今回は、前回の依頼人よりも、かなり若い女性だったのである。私よりも確実にかなり年下の女性だった。その依頼人にも、前回同様、イスに腰かけてもらった。
「ご依頼内容は、何でしょうか?」
私はインスタントコーヒーを用意して、来客が話始めるのを待った。
「実は、先日、私の上司がここへ来たと思います」
どうやら彼女は、前回の依頼人の部下らしい。私は、前回の男性の依頼人から、全く依頼内容を聞いていないことを伝えた。
「ええ。それは存じ上げています。私は、
上司に頼まれて、あなたに依頼しに来ました」
「そうですか。で、その依頼内容は何ですか?
場合によってはお断りさせていただいてます」
私は、前回、依頼人の世間話にうんざりしていたので、次に誰が代わりにやって来ても依頼の引き受けを断わろうと思っていた。だが、私は、そんな自分との約束を忘れてしまっていた。目の前に座っている依頼人が、あまりに私好みの雰囲気をした女性だったからである。話を聞くだけ聞いてみよう。まさか覇権だの、戦争だの言い出すまい。
「あなたは、今、世界で起きている覇権戦争をどの
ようにお考えですか?」
「えっ・・・覇権戦争ですか?」
「はい。そうです」
この依頼人も、そのまさかだった。前回の依頼人と同様、全く同じ持論を私の前で繰り広げたのである。私は、2杯目のインスタントコーヒーを用意することにした。そのさなか、この女性の依頼人にもそろそろお引き取り願わねばと思った。2杯目のインスタントコーヒーを私が飲み終わったら、この女性にも帰ってもらおうと心に決めた。
「前回の方のお話と全く同じですね。
私は、興味がないんです。覇権争いとか、
戦争とかに関心がないんです。ただ、民主主義は
絶対に大事ですよ。だから私たちの暮らしてい
る民主主義連合が、勝って当たり前なんだと
思っています。負けちゃダメなんですよ」
「今、局地戦で敵国が優勢だと知っていますか?」
どうしたんだろう?彼女は、前回の依頼人と同じことを質問して来た。たしか、この前の男の依頼人も
やたら敵国が優勢になりつつあると強調していた。
何なんだろう、この人たちは。もう限界だ。堅苦しい話は、私には疲れた。
「いいえ。そんな話は知りませんよ。ニュースにも
出てないです。そうなんですか?」
「ええ」
「ところで、依頼はどうですか?こちらの時間も
あまりありませんでして。この後、用事が」
「あっ、すみません。話に夢中になってしまい
ごめんなさい。上司から頼まれた依頼内容を
お伝えしても良いでしょうか?」
「じゃあ・・・お願いします」




