大きな とまどい
「すみません、やっぱり、ちょっと待って
もらっても良いですか?」
依頼人(男):
「どうしました?」
私は、いったん席を外した。そしてデスクに
名刺ケースを取りに行った。
「これなんですよ。どうぞ」
私は2人の依頼人に安物の名刺を渡した・・・
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【何でも雑用引き受けます】
(依頼内容)
例:書類作成 清掃代行 日曜大工 など
【犯罪以外 応相談】
[会社名]◯◯雑用代行事務所
(氏名) ◯◯ ◯◯
(TEL)ーーーーーー
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依頼人(女):
「この名刺が、どうかしましたか?」
依頼人(男):
「あなたの仕事は、存じあげているつもりです」
「いえいえ。名刺をよく見て下さい。
今、そちらの話を詳しく聞いて、やっぱり
僕には無理だと思うんですよ」
依頼人(女):
「無理とは?」
「よく読んで下さい。僕の仕事は主に、雑用ですよ
ザ・ツ・ヨ・ウ! 正直、すみません!
実は・・・昔は、探偵まがいのフリして
宣伝してた時期もあったんです。
嘘をついてた時期がありました。
ただ、仕事の8割は雑用なんです。アルバイトと
変わりはありません。探偵まがいの尾行を
引き受けたことはありましたが、それは2割
程度です」
依頼人(女):
「それで?」
「いやいや、それで?じゃなくて。
分かるでしょ?」
依頼人(女):
「ぜんぜん分かりません」
「つまり、僕は、元警察官でもなんでもないん
です。探偵でもありませんし、犯罪者を逮捕
した経験なんてないんですよ?
手錠をかけたことなど全くない、雑用バイト業で
時々、探偵ごっこしてただけの無能なんです。
国家反逆罪?何ですかそれ?
かなり危険なにおいがするんですよ。無理です」
依頼人(男):
「どうされましたか?先ほどまで、乗り気だった
じゃありませんか?不安になりましたか?
敵国が一方的に犯罪者扱いしてるだけです。
そもそも、われわれ民主主義連合側の国民です。
敵国の反逆罪を適用される筋合いはないのです。
彼らは、むしろわれわれの英雄なんです。
難しい仕事を最前線でしています。その仕事が
敵国にとって相当なダメージになっているの
です。だから彼らが狙われているのです」
「それは、そうなんだろうと思います。どんな
仕事か知りませんが、敵国に人質交換を要求
されるほどの活躍をしているんでしょう・・・」
依頼人(男):
「おっしゃるとおりです」
「活躍しているからこそ、彼らの中の1人を
捕まえてはいけないんじゃないですか?
敵国に差し出しては、もっとまずいんじゃないん
ですか?」
依頼人(女):
「おっしゃるとおりです・・・」
依頼人(男):
「たしかに・・・」
どうやら風向きが、ようやく変わり始めたように
思えた。
これは、ひょっとしてこのまま逃げ
きれるかもしれない。
申し訳ないが、私にはやはり荷が重いのだ。
依頼人たちも、大切な仲間を敵国に引き渡したく
ないはずだろう?
このまま、話が流れて欲しかった・・・
(帰ってもらったら 少し 昼寝でもするか)
・・・
・・・
・・・
(無言?)
バツの悪い空気が流れている
私は 依頼人たちの返事を待った・・・




