苦学生 飲食店かけもちアルバイターF
「どちらさんですか?」
F「スミマセン シゴト オネガイ キマシタ」
実は、良く覚えている。外国人の依頼人は、Fしかいない。私は、FおよびFの仲間たちの様々な書類上の代行手続きをこなした。そんな時期があった。Fは、貧しい私の暮らしの中では、きわめて上得意の依頼者だった。飲食店アルバイトを何軒かこなしながら大学に留学している身にしては、支払いがかなり良かったのである。依頼料に関しては、優等生だった。首席を与えてやっても良い。細かく言えば、相場の2倍の諸経費を支払い続けてくれたのである。
大した依頼ではなかった。ホテルの予約、役所の提出書類、コンサート、旅行の交通チケット、学校の宿題、緊急連絡先電話応対、不動産会社での賃貸物件交渉など、探偵業ではなく、ありとあらゆる雑用の代行、代理交渉の依頼だった。
正直に、お伝えしよう。私は、そもそも探偵ではない。サブとして、つまり副業として探偵まがいの尾行、調査をもぐりなどで、依頼されれば行いはしますが、基本は、つまりメインの仕事、主は、何でも屋として様々な雑用を代行することでした。
事務所は探偵事務所では登録されていない。しかし、Fからの依頼には時に、数名の人物の尾行を頼まれたことはある。ここでは具体的な事務所名は伏せさせていただきたい。私のことは、80%雑用、20%尾行を行う自称思い込み探偵だと認識しておいていただきたい。そんな私の裏家業をどこからともなく聞きつけて、ある日玄関の前に立っていたのがFだった。
「ナンデモ ダイコウ ヤ サン デスカ?」
当時のFの話し言葉は、聞くに耐え難いほど、めちゃくちゃだった。発音を聞いているだけで、めまいか吐き気がしそうなくらい理解不能な言葉使いだった。おそらく、突然この国へ、何の練習もせずに本国からやって来たかのような話ぶりだった。私は金に困っていた。この民主主義国で、人生を失っていた。社会は私を切り捨てた。同盟国も私を迫害した。生活苦から被害妄想がつのり、この外国からやって来たおかしな言葉遣いの留学生からできるだけ諸経費をしぼりとってやろうと思いついたのである。お互いが、お互いを必要としている。
まさに 〈WINーWIN〉の関係だった・・・
コイツは オレを必要としている・・・
オレは コイツを必要としている・・・




