1.小説家になろうにおける二次創作
(2023/03/30)
2ヶ月後に「ラブノベ」もサ終と聞いて追記。
なろうグループの構造について整理すると、
投稿サイト→「小説家になろう」のみ
検索サイト→
ケータイ向け「小説を読む」「ラブノベ」「NOS」
パソコン向け「小説を読もう」「にじファン」
という分類になる。
(R-18部門に関しても以前は「検索専門サイトです」という表現を使用)
厳密なことを言うならば「にじファンで投稿していた」というのは間違いであり、本稿の文中でも結構面倒な表現を使っているかと思う。
ただ「小説を読もうに掲載されている」「にじファンに掲載されていた」という表現ならば、おかしいものではない。
◆1 NOS誕生
◆2 小説家になろう大規模リニューアル
◆3 にじファン誕生
◆4 小説家になろう拡大の陰で
◆5 にじファン/NOSから極めて重要なお知らせ
現在では(ごく一部を除き)禁止されていることだが、かつては小説家になろうにも二次創作を投稿できた。
特に最初期のなろうは既存の個人サイトになろうの投稿フォーマットを提供、提携した多数の「協賛サイト」を通じて作品とユーザを集めるという性質が強かった。その中で最大の存在だったのが老舗のコナン二次サイトであった「コナン小説リング」であり、2ヶ月くらいの投稿はコナン二次が大半を占めた。
その後「リング」は2006年に閉鎖されたが、入れ替わりで小説紹介サイト「名探偵コナンノベルズ」が開設される。
現存するもので説明するならば「ラブノベ」に似た扱いということになるのだろうか。こちらはなろう外の運営者と提携し、小説家になろう内に投稿された作品の中から、名探偵コナンの二次小説を専門的に抽出して紹介する機能を持ったサイトである。2009年9月までの間なろうの主要な関連サイトとして扱われ、トップページに堂々とその名前が載っていた。
小説家になろうとして用いていた呼称としてはFF。
二次創作というものはなろう全体の小説総数からすると決して多数派ではなく(後述のNOS成立時で概ね3000作/3万作ほど)、ランキング(旧)からも除外されていたので決して目立つ存在では無かったが、古くからしっかりと存在していたのである。
◆1 NOS誕生
そしてそうした二次創作達にも日の目を見る機会がやってくる。2008年10月10日、二次創作専門ケータイ小説サイト「NOS」の誕生だ。
にじファンができる以前に小説を読もう!のトップページを開いた場合、小説家になろうグループの紹介として以下のようなバナーを目にしたことがあるかもしれない。
―――――――――
N 二次創作を
O 大いに盛り上げる
S 小説のサイト
―――――――――
(公式ブログ及びNOSでは「二次創作世界を おおいに盛り上げる 小説のサイト」という表記も見られる)
小説家になろう公式ブログ2008年10月5日の記事によれば「埋もれがちな二次創作作品がピックアップされればという思いで作られたサイト」とのことである。明らかに当時の大人気作であった「涼宮ハルヒ」シリーズに因んだ命名であり、このあたりは個人サイトらしい。
あくまでケータイ向けのサイトではあるが、小説家になろうの投稿作品から二次創作のみを表示し、原作名による分類や二次創作専用のランキング(旧)が稼働し始めるなど、利便性は大きく向上した。
NOS開設以前のなろう二次は、「ノベルズ」を通じたコナン専門のサイトととでも言うような雰囲気が強かったものの、以後はその他の原作も注目を集めるようになっていく。
◆2 小説家になろう大規模リニューアル
これは一次創作二次創作を問わないが、小説家になろう発展の最大の契機となったのが、2009年9月30日の大規模リニューアルである。
しおり、レビュー、ブックマーク、お気に入りユーザなど、現在へと続くシステム面がおおむね完成し、他サイトとは比べ物にならない高機能に人が集まっていく。それまでの利用者の呼称であった「作者」は「ユーザ」に改められ、読み専も含めた利用者数が激増していくこととなる。
それからしばらくは一次創作と二次創作が小説を読もう!内で混在していた時期である。
総合ポイントの高い順でみると、劣等生やら雷帝やら黒い剣やらの懐かしい面々の中、5位くらいに某型月二次がしれっと入り込んでいたりした感じだ。
二次創作は2009年9月頃だと概ね6000作存在していたが、翌年8月には14000作と飛躍的な伸びを見せていく。
少し話は変わるが基本的に一次創作は、タイトルに目次にタグという限られた情報で読者を引き込まなければならない性質を持つだろう。
特に当時は日間週間やジャンル別といった今見慣れたランキングも稼働しておらず、目につきやすい総合ポイント上位には自動的に人が集まるものの、投稿の初動、あるいはある程度続けて書いたとしても読者を得る手段が乏しかった。
一方で二次創作は作品名検索が効き、最初から一定数存在している原作既読者を通じて短期的に安定的にポイントを稼ぎ出すという点で長けており、総合ポイントで最上位層にこそ及ばないものの、上位100位200位といったポイント帯に入ってくるのは比較的容易だった面があったと思う。
一次創作には苦しく、なろう内で最も二次創作の存在感が大きかった時代であったと言えるのではないか。
◆3 にじファン誕生
そうした状況が1年近く続いた中、NOSのパソコン版として2010年8月11日に誕生したのが、二次創作検索サイト「にじファン」である。
にじファンは上述した名探偵コナンノベルズやラブノベとは少し異なる。小説家になろうに投稿された作品から、二次創作だけを抽出して表示するという機能自体は同様であるが、この段階(完全な移行完了は20日)で二次創作が小説を読もう!の検索やランキング等で表示されることは無くなったのである。
一次創作と二次創作を完全に分離させた、というわけだ。
その後に起こった大きな出来事としては、ほぼほぼ現在の形に近いランキングの設置が挙げられるだろう。
この年の12月には「小説家になろうの『今』を知ることができる」システムとして、日間週間月間四半期のランキングが、さらに翌月にはジャンル別ランキングが稼働し始める。
にじファンでも2011年3月10日にランキングが稼働することとなり、日本最大級の二次創作サイトとして活況を呈していくことになるのであった。
◆4 小説家になろう拡大の陰で
当時の小説家になろうのユーザ数を見てみよう。
飛躍的な伸びを示し始めていた時期と言える。現在のなろうと比べれば小規模とはいえ、それこそリニューアル時のユーザ数以上の規模が毎年毎年増えていくという状況が続いていたのである。
多くの作品が投稿され、多くのユーザが閲覧する。そのサイクル自体は歓迎すべきものではあるのだが、良かったことばかりではない。
特に象徴的なのは2011年だろう。ほぼ現在の方式に近いランキングが始まってユーザ達の耳目を集めるようになり、当時累計1位の地位にあった劣等生を始めとして、数々の作品で書籍化が決まっていった頃だ。
4月27日 「盗作対応への強化」として、削除権限を拡大する利用規約の改定(現利用規約第20条4-5項の追加)
7月29日 歌詞の無断転載に関するお知らせがあり、8月5日にガイドラインを公開
10月3日 複数アカウント対策としてフリーメール登録拒否を設定
12月12日 マイページ内記述の監視強化のお知らせがあり、翌日ガイドラインを公開
目立つことができれば自分の本を出すことができるかもしれない、作家になれるかもしれない、という夢が現実味を帯びてきており、中には外法に手を出す者達が出てくるのも宜なるかな。あまりに激しいユーザ数の増加とともに、多くの問題が噴出してきていた時期だったのだ。
そうした事情が念頭にあったということもあり、現在のハーメルン利用規約の禁止事項には「活動報告を利用したチャット」だとか、良識的なユーザでは一見首を傾げそうな内容までかなり直截的に盛り込まれている。
こうした問題はもちろんにじファン側でも同様だ。書籍化などという実利は見えなくても、目立ちたい、ちやほやされたいという気持ちは、ある程度誰しもが持っているものと思う。
だが二次創作というものは本来、権利的に非常に危うい性質を孕んでいる。
にじファン運営と権利者の間で何か大きな問題が起きたという話は聞かないものの、後の言葉を借りれば「台詞や文章を原作から多数引用した作品」や「実在人物を題材とした作品」といった「今後にじファンの運営継続の上で重大な問題になる」要素が静かに積み上がっていったのだろう。
◆5 にじファン/NOSから極めて重要なお知らせ
にじファンの発展は2012年3月にピークへと達した。
小説家になろうにおける二次創作は、2008年10月のNOS開設時には1割程度に過ぎなかったのが、2010年8月のにじファン開設時には17.8%に伸び、翌2011年8月には22.0%、そして2012年3月には23.3%と、その占める割合を伸ばし続けてきた。
(にじファン運営開始~規制までの平均28.7%)
実数としては概ね3万8000作である。だがそれにも終わりが訪れる。
2012年3月15日、にじファンは「極めて重要なお知らせ」として、「二次創作物作成を明確に禁止している著作権者様」13社の二次創作約1万作を公開停止とし、4月8日までの削除を要求したのである。
作品数で見ると影響が大きかったものとしては、なろうの初期から存在し作品数の非常に多かった「名探偵コナン」、にじファンの時期まで二次人気の高かった「魔法先生ネギま!」、かつて累計1位に至る作品を出した「ガンダム」などが挙げられるだろう。
とはいえこの時はまだ動揺が少なかったとすら言える。コナンは多いには多い(にじファン最多、2600作超)もののポイント的にはほぼ空気であり、ガンダムで突出した人気だった作品も早々に削除を行った。
避難所として「Over The Rainbow」が新たに開設されたりもしたが、ほぼほぼ既存の小説投稿サイトに散っていき、それで終息といった具合である。
にじファンの中では諦めもあり、不安に駆られる人もいはしたものの、大勢で見れば「ほかの作品はまぁ大丈夫だろう」とばかりに、それ以降も利用と投稿が続けられていく。1万作が消滅してなお、その後の4か月間で4000作品が投稿されていったのだ。
5月には某型月二次に関する騒動やら、原作「仮面ライダー」投稿の是非に関する騒動やら、それなりの出来事はあったものの、利用者大多数には関係も薄く、時折問題は抱えつつもまだにじファンは続いていくのだろうと思われた。
だがまぁ、そんなことはなく。
2012年7月4日、にじファンのサービス終了が告知される。