新しい居場所
外見を買った私はまず訪ねるといいと言われた寮に訪れた
「ここが今日から住む寮かぁ」
私は自分の元々住んでいた家を引き払って、新しく補助を受けさせてくれるという寮についた。
外観は古い感じだが、中は意外と綺麗な感じだ。
さすがに前の家だと色々とトラブルが起きるのが目に見えるため、戻ろうという気は起きなかった。
「あら? あなた新入りさん?」
奥の部屋からくるみ色のふわふわした感じの女の人に話しかけられた。
「あ、はい。ここで援助が受けれると聞いたんですけれど……」
「あら! あらあらあら! 随分と可愛い子じゃない!」
初対面なのに顔をベタベタと触られる。
(なに? この人……)
「あの、やめてください」
顔に当てられていた手をおしのけて乱れた髪の毛を整える。
(せっかく綺麗な見た目なんだから綺麗でいたいじゃない。この人、何してるんだか……)
内心新品の体を汚されたくない思いが勝り、ツンケンした態度をとる。
「ごめんなさいね〜でもその見た目はなかなか大当たりを引いたわね! ささっ! こっち来て」
案内された場所は空き部屋だった。殺風景で、少し埃っぽい……
「何分ここ数年は新入りさんが来なかったからね……ごめんね、こんな部屋しかなくて……まぁ新入りさん来ない方がいいんだけどね……」
それもそうだ。
だって新入りが入るということは、容姿を買ったということになるのだから。
と、言うことはこの人も容姿を買ったのだろうか?
また随分と高そうな容姿をマジマジと見る。
「ねぇ? あなた! その容姿かなり高そうだけどいくらしたの?」
心の声が聞こえたかと思うぐらいベストタイミングだった。
「三百五十万ですけど……」
「ええーー!! たっか! よく買ったわね!」
そう言われ、無性に腹が立つ。
自分を変えたくて買ったものにイチャモンをつけられる義理はない。
好きなものを侮辱されるのと同じ感じがした。
私はまた、つんっとした態度をとり、部屋に荷物を置く。
オシャレには興味があったが、なにぶん容姿が悪かったので、普段はジャージにジーンズしか持っていなかったので荷物は少なかった。
私が部屋に荷物を広げていると、先程の女の人が急に大声を上げた。
「えー!!! 荷物そんだけ!? 勿体ない! せっかくの容姿よ!? 楽しまなくっちゃ!」
そう言うと、私の手を取りショッピングに行くことになった。
私も内心オシャレな服を買いたいし、メイクもしてみたかったので言われるがままついて行った。
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「じゃじゃーん! こんなのどうよ♪」
女の人のファッションショーが始まる。私は自分の服が見たいのにずっと付き合わされている時間が続いてそろそろ飽きてきていた。
「あの、そろそろ私の服……」
「あ!そうだった! ごめんね! あなたに似合うのはそうねぇ……これとかどうかしら?」
青い刺繍の入ったノースリーブのワンピース。
後ろに青いリボンが着いており、よっぽど容姿に自信が無いと着られないようなフリフリの服だった。
「き……てみたいですけど……私に似合うかな……」
「なーに言ってるの! 今は美少女でしょ!? 着なきゃ損よ! ほら! 更衣室へゴー!」
押し切られるようにして更衣室に入り、ワンピースを手渡される。
大きい鏡の前で立ちつくす。
目の前の私は美しい私。
このワンピースを着る権利がある。美しい体。
大丈夫。大丈夫。
……ふと、私は過去を思い出してしまった。
『おいデブ。そんな服きても可愛くなんねーよ。身の丈を知ったらどうなの?』
『あら? モップが歩いてるのかと思っちゃった(笑) ごめんね? そんなフリフリの服より……雑巾貼り付けてた方が似合うんじゃないの?』
『あぁ、お前か。そんなもの持ったって宝の持ち腐れだろ? どうせ着ないのに買うなんて勿体ないだろ。服が可愛そう』
はー……はー……はー……
大丈夫。今の私は美しい。
シャッ
ワンピースを来てカーテンを開ける。視線が一気に集まった。
うっっ……
吐きそうになるのを必死にこらえる。だが、いつもと違う視線が送られているのに気がついた。
(ねぇ、あの子可愛くない?)
(いいなぁ可愛い子はなんでも似合うね)
(つい二度見しちゃった)
……私が……かわいい??
試着室の鏡を振り返る。
さっきまでそこでみじめにうずくまっていた太っているブス(私)はいなかった。
私は可愛い……?
店員さんが来て、声をかけてきた。
「あら! ご試着お疲れ様です! とても良くお似合いですよ! スタイルいいからなんでも着こなせちゃいますね」
………違う。周りの反応が全然違う。
昔の私なら店員さんなんて来てくれなかったし、カーテン開けた瞬間悪口が聞こえてきた。
違う。私は前の私とは違う。
少しずつでいい。自信を持って歩こう。
だって、私は今……可愛いんだから。
「これください」
「ありがとうございます! 来ていかれますか?」
「お願いします」
タグを切ってもらい、このまま来ていくことにした。
視線が怖くない。みんな私の事綺麗な花を見る目で見てる。
なんて素敵なの! こんなに気持ちがいいなんて知らなかった。
「お買い物は終わった?」
私は女の人と来ていることをすっかり忘れていた。
「あ、はい。ありがとうございます。待っててくれて」
私一人だと寮まで帰り道が分からないので純粋にいてくれてよかったと思った。
「そっか! 新しい体でめいいっぱい楽しんでね!」
そう言うと、私のカバンを持ってくれた。
「あ! あの! 私、さおりって言います! あなたの名前はなんて言うんですか?」
女の人は振り返り、弾けるような笑顔を向けた。
「私は美紗!みんなからは美紗ねぇって呼ばれてるよ! 改めてよろしくね!」
寮への帰り。美紗ねぇとの絆が少し深まった。
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