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どうして俺がこんなことに……いや、嬉しいんだけどさ……

はじめまして、新本(しほん) 悠彦(ゆうひこ)と申します。投稿ははじめてですが、連載小説にしてみました。

お時間がありましたら、ぜひ「転生したら推しキャラの執事になった」を読んでみてください。

俺の父親はどクズだった。

家に帰っては浴びるように酒を飲み、気に食わないことがあったら俺を殴った。

母さんは、自分が殴られるのが怖かったせいか、俺を助けてくれたことはなかった。

よく顔を殴られて痣ができていたこと、目付きが悪かったことが災いして、俺は学校では"よく喧嘩をしている不良"と思われていて、友達は愚か、教師からも見捨てられていた。

唯一の居場所は物語の世界だった。

好きだったのは、「こんな月夜に魔法をかけよう」通称「こん月」という二十世紀のロンドンを舞台にした人とモンスターの共存を描いた漫画で、その中で特に好きだったのはフローレンス・トワイア通称フローという悪役だった。

フローは無邪気な悪魔といった感じのキャラクターだったが、ときおり見せる優しさと笑顔が可愛くて好きだった。

けど、そんな彼女は主人公のドーラに敗れ、所属していたダスクというテロリスト集団のリーダーに殺されてしまう。

彼女の死はドーラに『正義とはなにか』を考えさせるものになっていて、今でもファンの間で語られている程だ。

俺はというと、フローが死んでから漫画を買えなかったが、ネットの掲示板にフローの死後の展開がすごいと、記載されていて、続きが気になって本屋で続刊を買ったのだが、続きが楽しみで帰りたくない家に帰る途中、横断歩道で信号無視したトラックに轢かれて死んだ。

というのが、父親にビール瓶で頭を殴られて思い出した前世の記憶だ。

朦朧とする意識の中、前世の記憶を考えるよりも先に、父親から逃げなくては殺されると思い、俺は自分の部屋に逃げることにした。しかし、記憶を思い出しすぎたせいか、どこが自分の部屋なのか、そもそも自分の部屋があるのかも分からなくなかった。

でも、今逃げなかったら殺されるかもしれない。

得体の知れない恐怖心が俺を襲った。

ズキズキと痛む頭を抑えながら、ドアに向かって走る。

絶対に後ろは見なかった。見たら、父親に捕まってしまうと思ったから。

父親が何か叫んでいたが気にせず部屋に逃げ込み、ドアの鍵をかけた。

しばらくの間、父親がドアを叩いていたせいで鈍い音が響いたが、五分ほどすると、諦めたのか音は止んだ。

何があったのか気になってドアに耳をつけて外の音を聞くと、俺の母親とおもわれる女性の悲鳴とガラスが割れる音がした。

何となくだけど、父親が母親に手を出したんだなと思った。

前世の父親と同じくどクズな父親は、誰かを殴ったり貶したりしていないと気がすまないらしい。

母親を助けに行きたかったが、また怪我をするのは嫌だったし、どんな母親か分からない限りは、助けたくないと思った。

結局のところ、俺もどクズだ。

それに、まずは母親救出よりも自分の怪我を優先したかったので、部屋に救急箱がないか探すことにした。

前世で父親によく怪我をさせられていたせいもあって、応急手当は得意だ。

布かガーゼがあればそれで止血しよう。

そう思い、部屋の中を漁っていると、化粧台とセットになっている大きな鏡が目に入った。

どれくらい怪我をしているのか知りたかった俺は、鏡で自分の顔をみることにした。怪我の具合によってはただ止血するだけじゃ駄目かもしれないななんて考えて鏡の前に立つと、見覚えのある顔が鏡に映った。

こん月で見た事のあるキャラクターの顔だ。

いつも何かを睨んでいるのかと疑われてもおかしくないほどのつり目、薄い唇、少し高めの鼻、色白の肌。

鏡を見ながら、俺は絶句した。

「嘘だろ……俺……ルパートになってる……」

ルパートとは、こん月に登場するフローの執事で、常に彼女のそばに寄り添っている青年だ。

ルパートはフローを愛していて、フローもルパートをとても大切にしていて、二人は持ちつ持たれつといった関係だった。

フローの死後、ルパートがどうなったかは知らない。

けど、きっとルパートのことだから復讐しようとするのは何となく目に見えている。

漫画をみる度に、ルパートそこ変われといつも思っていたが、まさか本当にルパートになるなんて思ってもみなかったし、ルパートの育った家の家庭環境がこれほどひどいとは想像していなかった。

なるほど、目付きが悪くなるのも分かる気がする。

「そういえば……漫画じゃ七歳の時に親の借金のカタに売られたところをフローの親に買われたって言ってたな……」

親に売られたのが七歳。

つまり、フローと出会ったのは七歳の時ということだ。

いつフローと出会えるかを知るためには、今の自分の年齢を知る必要がある。

けど、親に「俺っていま何歳?」なんて聞けるか?

答えは否だ。

そんなこと聞いたら、「馬鹿すぎて売れない」と思われてフローに会えないかもしれない。

それは嫌だ。

この世界に来て、フローに会えないなら、死んだ方がマシだ。

どうにかして売られる方法を考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。

「ルパート……開けてちょうだい……ルパート……」

弱々しく俺の名前を呼ぶ女性の声が聞こえた。

開けるか少し悩んだが、どこか弱々しい感じからして暴力を振るわれることはないと確信したので、ドアを開けることにした。

入ってきたのは、俺の母親と思われる女性だった。

「ルパート……痛かったでしょ……守ってあげられなくてごめんね……あの人にもよく言っておいたから……」

そう言いながら、母親は傷の手当をしてくれた。

「なれてるから大丈夫だよ」

母親の弱々しさを見て、少しでも元気づけたかった俺は、今の俺が殴られるのに慣れているのか分からなかったのに、間違えて前世の時のことを言ってしまった。

もし殴られ慣れていなかったら、母親に不信感を与えてしまう。

「何言ってるの?」なんて言われたら終わりだ。

なんて考えていると、母親は悲しそうに眉を下げた。

「ルパート……そんなこと言わないで……痛いなら痛いって言ってちょうだい……」

よかった、母親が殴られているのを否定していないということは、今の俺はそれだけ殴られているということだ。

いや、何もよくないかもしれないけど、殴られなれていない子供が「なれてるから大丈夫だよ」なんて言ってみろ?絶対、怪しまれる。

だから、普段から殴られているということは、殴られるのに慣れているということだ。

母親の言葉に頷きながら、そう確信した。

「あなたにそんなこと言わせたくなかった……本当にごめんなさいね……」

「いいんだよ……俺の方こそごめんね…」

母親はまだ悲しそうな顔をしていた。が、何かを思いついたような顔をして、表情が少しだけ明るくなった。

何だこの人、情緒不安定なのか?

「お詫びに、何かほしいものを買ってあげるわ。遠慮しないで、なんでも言ってね。」

なんでもという魔法の言葉を俺は聞き逃さなかった。

けど、もしも聞き間違えだったら困るので改めて確認することにした。

「なんでも?」

「えぇ。なんでも」

よかった、聞き間違えじゃなかった。

「ものじゃなくてもいい?」

てっきり俺が玩具か菓子を要求するのかと思っていたのか、母親は不思議そうな顔をした。

「いいけど……なにが欲しいの?」

「新聞配達をやらせて欲しいんだ」

「新聞配達?いいけど、どうして?」

この質問はとっくに予測していたので、先ほど考えに考えた台詞を言う。

「うちはあんまりお金がないでしょ……?だから……俺も少しだけど貢献したいなって思って……稼いだお金の半分を食費に使ってよ」

これは建前だ。

本当は浮いた分のもう半分で欲しいものを買おうというのが目的だ。

そんな俺の考えを知らない母親は涙ぐんでいた。

「ルパート……いい子に育ったのね……お母さん嬉しいわ……」

「ありがとうお母さん……」

母親には申し訳ないが、少しだけ利用させてもらうことにした。

「それじゃあ、あとで新聞屋さんに頼んでおくわね。」

「うん、わかった」

母親が部屋を出ていったのを見て、俺は部屋の外の様子を見てから部屋を出た。幸い、父親はリビングで眠っていたので、部屋から出ても殴られることはなかった。

さて、これからどうしようか。俺はやることがなくて暇を持て余していた。

そうだ、せっかくこん月の世界に来たからには、外に出て少し街探検でもしよう。

そう思い、俺は外に出るため玄関に向かった。玄関を見つけるまで時間がかかると思ったが、リビングをでてすぐにあったので迷うことはなかった。

玄関を開けて、外の空気を吸う。

酸素が不足気味だった肺に空気が入る感覚が心地よかった。

外に出たからには、行きたいところに行こうと思ったが、やはり記憶を思い出しすぎた影響か、記憶を思い出す前の出来事の記憶が抜け落ちていて、どこに何があって、誰がどこに住んでいるのかも分からなかった。

おまけに外は寒く、厚着をしていなかった俺にとっては冷蔵庫の中にいるのかと思うほどだった。

仕方ない、上着を取りに行くついでに、母親に「新聞配達の時にどこに何があるか知りたいから、道を教えて」とでも言って道を聞こう。そう思い、俺は家の中に入ろうとした。が、家の中から父親の怒声が聞こえてきた。それに、父親は「ルパート、どこだ!!」と言って俺の名前を呼んでいた。

殴られることはわかっていたので、俺は音を立てないように玄関のドアを静かに、なるべく素早く閉めて、家から離れたい一心で外に逃げた。

しばらく走ると、家が見えなくなって、街の中に入った。

しばらく街の中を歩いていると、十数人の子供が遊んでいる庭のある建物が見えた。近づいてみるとそこは孤児院だった。

そういえば、フローは孤児院の子供と仲が良くてよく孤児院に通っていたな。

フローに会えるかもしれない。

そう思い、孤児院の庭を覗いてみた。

フローがいないか探していると、シルバーブロンドの髪の少女が見えた。

もしかしたらフローかもしれない。

柵に近づいて孤児院の庭を覗いていると、先ほどのシルバーブロンドの髪の少女がこちらに近づいてきた。

ピンクの大きな目に少し高い小鼻、雪のように白い肌、サラサラの髪。間違えない、フローだ。漫画で見た通りだ。

フローは俺に近づくと「あなたはだぁれ?」と質問した。俺の行動を疑わない辺りがフローらしい。けど、どうして覗いていたかくらいは言っておこうと思った。

「俺はルパート。えっと……その……」

言い訳の言葉は先ほど頭に浮かんでいたけど、いざフローを目の前にするとうまく喋れない。

今ならアイドルと話すことになったオタクの気持ちが分かる気がする。

そんな俺を変な目で見るわけでもなく、フローは俺の手をとって、「ゆっくりでいいよ」と言って微笑んだ。

それが余計に俺を緊張させた。

顔に熱が集まり、口がまわらない。

「え……えっと……俺は……その……」

俺が真っ赤な顔でしどろもどろになっているのが面白かったのか、一人の子供(悪ガキAとでも呼んでおこう)が俺を指さして笑った。

「おい、見ろよ!あいつ顔真っ赤だ!」

よほど面白いのか、悪ガキAは俺を指さしてケラケラ笑っている。

俺は少し恥ずかしくなった。

「ジョン、きっとルパートは人見知りなんだよ。あんまり笑わないであげて。誰にでも苦手なことはあるんだから」

そう言って、フローは俺の手の甲を撫でる。

「いきなり声をかけてごめんなさい。もしも良かったら、一緒に遊ばない?」

「うん、俺、み、みんなが何してるのか気になって……一緒に遊びたかったんだ……ありがとう……」

言葉が少しめちゃくちゃになっていて何を言っているのか自分でも分からなかったけど、フローには伝わったようで「そうなんだ。私もはじめてこの場所に来た時も、あなたみたいな感じだったの」と言って笑った。

しどろもどろになって口がまわらないフローなんて想像出来なかったから、きっと気をつかってくれているんだろうと思った。

「私はフローレンス。フローってよんで、ルパート。」

「ありがとう。」

「庭まで案内するから、ちょっと待ってて」

しばらくしてからフローが俺の近くに来た。フローの後をついて孤児院の中に入り、庭にむかった。庭の中に入ると、さきほど俺を笑った悪ガキA改めジョンが俺たちを待っていた。

「早く遊ぼうぜ」

ジョンはそう言って、俺の手を引いた。フローは少し名残惜しそうにしていたが、「行ってらっしゃい」と言ってくれた。

「行ってきます」と返すと、「新婚みたいだな」とジョンがはやし立てた。

そういう風に見られたのは嬉しいけど、フローは迷惑がっていないだろうかと思い、フローの方をみると、「ジョンったら……」と言って笑っていた。

やっぱりフローは可愛い。

そう思い、魅入っているとジョンがまたからかってきた。

どうやら、俺はおもちゃに認定されてしまったらしい。

ジョンのいじりから解放されたかったので、「サッカーでもしよう」と提案して、孤児院の子供達とサッカーをして遊んだ。

楽しい時間が過ぎるのはあっという間で、気がつくと日が暮れていた。

帰りたくないあの家に帰らないといけない。

「そろそろ帰らないと……」

「今日はありがとう、楽しかった」と言って孤児院から出ようとすると、フローに声をかけられた。

「どうしたの?」

ただでさえ無愛想な顔なので、胡散臭いかもしれないけど、少し笑みを浮かべて質問すると、フローは口ごもった。

「あの……その……」

俺の笑顔が胡散臭すぎたのか何なのかはよく分からないけど、フローはどこか気まずそうだった。

「ゆっくりで大丈夫だから……」

そう言うと、フローは何かを決心したような顔で俺の方をみた。

「ルパートの家って……その……あんまり洋服を買ったり出来ないの……?」

いきなりの質問に俺はなんのことかと思ったが、すぐにどうしてそんな質問をされたのか理解した。

きっと、真冬なのに薄着でいたからだ。

まぁ、借金のカタに自分の子供を売るような家だ。

きっと、普通の家よりは金がないに違いない。

俺はそう解釈し、フローに「うん。そうだよ」と答えた。

俺が恥ずかしげもなくあっさり答えたせいか、フローは少し驚いた顔をした。

「そうだったんだ……こんなこと聞いてごめんね……こんなに寒いのに薄着だったから……」

フローは申し訳なさそうに「ごめんね……」とまた謝った。

「謝らないでいいよ……」

「気にしないで。本当のことだし、それに、借金のカタに子供を売るような親だから。」とは言えなかった。親と言ってしまえば、あの優しい母親のことも否定してしまうことになる。それに、まだ売られてもいないのに、「子供を売るような親だから」と売られてもいないのにそう言ってしまえば、フローに変な奴と思われてしまうのは確定していた。それだけは避けたかった。

だけど、どうしても、「気にしないでいいよ」の次の言葉が見つからない。

そんな時、フローが何かを思いついたような顔をして、俺に「手、だして」と言った。

言われた通りに手を出すと、手のひらにブリキ製と思われるハート型の小さな缶が置かれた。

缶の蓋には天使の絵が描かれていて、真ん中にはオルゴールのネジがあった。

漫画で見たことがある。

確か、フローが肌身離さず持っていたお菓子の入った缶だ。

「それ、あげる。質屋に持っていけば、そこそこの値段で売れると思うよ」

「……は?」

待て、今、「質屋」って言わなかったか。俺より頭二つ分くらい背の低い女の子の…しかも、フローの口から「質屋」なんて単語が出てきたぞ。

思わず素っ頓狂な声をだしてしまったが、フローはお構い無しに続けた。

「私のパパは、貿易商人でね、外国からの輸入品をお店に売ったりしてるの。それで、その缶は、私が五歳の時に、外国から輸入してくれた物なの。中身のお菓子はずっと前に食べちゃったけど、でも、缶自体は綺麗だから、いい値段で売れると思うよ…貰ってくれないかな?」

そう言ったフローからは、貧乏人を蔑む、れむとかの嫌な感情は感じられなかった。

でも、これは貰えない。

俺には、「五歳の時」という言葉が引っかかったし、何より、この缶はフローの宝物なのを知っているからだ。

実は、フローは、サキュバスと人間のハーフで、魅力の魔眼というサキュバスやインキュバスにしか使うことのできない魔眼を使うことが出来る。

魅了の魔眼とは、目を合わせた相手のことを操ることのできる魔眼で、犯罪に使われてしまうことが多いのため、厄介視されることの多い魔眼だ。

フローの父親は、フローの母親がサキュバスだと知った途端に母親を殺して、何の罪もない使用人にその罪をなすりつけるが、フローのことは人間の血が強く、容姿端麗なため政略結婚などで利用したかったからか、殺さず、可愛がっていたが、それはフローが六歳になるまでの話だ。

フローが六歳になって魔眼を開眼してから、フローの父親は、フローに冷たく当たり、教育だと言って虐待するようになった。

この世界が原作通りに進んでいるのなら、フローは今、父親に虐待されている。

フローが俺に渡した缶は、フローが父親に虐待される前に貰ったものだ。

フローの父親がどクズで性悪なのは知ってる。

けど、そんなどクズでも一応フローの父親だし、俺が言えたことじゃないけど、親との思い出は大切にしてほしかった。

「ごめん……これは貰えないし……売りたくもない」

「なんで……?」

「フロー……これを渡す時……少しだけ悲しそうな顔をしてたから……この缶、大事なものなんだろ?」

「……ううん……違うよ。」

フローは困ったように笑った。

「それはね、私のお父さんが私にくれたものなの……」

知ってる。

「けど……お父さんは……私のこと……嫌いなのかな…ずっと前から、私のこと、殴ったり鞭で打ったりするんだよね……」

知ってる。

なのに、どうして俺は何もできないんだろう。

何もできないことが悔しかった。

「前はね……その缶……お気に入りだったの。ネジを回すとオルゴールがなって……ちゃららちゃららちゃらららんって音が流れて……すごく好きだった……でも……お父さんが私に酷いことするようになってから……だんだん嫌になっちゃって……その缶を見る度に優しかった頃のお父さんを思い出しちゃうから……だから……その缶がルパートの役にたつなら……売ってお金にして……あったかい洋服を買ってほしいなって……」

フローの言葉に嘘はなかった。

ただ、フローは、「ずっと前から、私のこと殴ったり鞭で打ったりするんだよね」と言った時、少し口ごもっていて、どこか気まずそうだった。

俺の中では「俺に居場所を与えてくれたキャラクターだから守りたい。」ではなく、「フローレンスという一人の人を大切にしたい。このか弱い存在を守りたい。もっと心を開いてほしい」という欲が出てきていた。

はじめて会った時も、どもってろくなことが言えなかった俺に、あんなに優しくしてしくた子が不幸なことが疑問だった。

どうしてフローがこんなに酷い仕打ちを受けているんだ。罰を受けるべきなのはフローの父親なのに。

俺は強硬手段に出ることにした。

「フロー……本当は……お父さんが冷たく当たる原因を知ってるんじゃないのか?言いたくないけど……その原因はフローにあるとか」

人は怒ると限りなく本音に近いことをいうし、中には感情を抑えきれず、そのまま本音を言う人間もいる。

もしもフローが後者なら、俺に本音を吐いてくれるかもしれない。

俺はそう計算して、フローを問い詰め、逆鱗に触れるようなことを言った。

フローは俯き、肩をわなわなと震わせはじめた。

これはどうやら、かなりご立腹のようだ。フローの小さな口から、どんな罵詈雑言が飛び出てくるんだろうか。

前世といい今世といい、怒鳴られることには慣れているつもりだったが、相手がフローとなれば話は別だ。

けど、俺は本音を聞きたいんだ。

ここで「ごめんなさい」とか「悪かった」なんて言って謝ったら、本音を言ってもらえない。それだけは嫌だ。

「何かが起こる時には、そこに必ず原因がある。だから……何かあったのかと思って……」

更に追い討ちをかけるように畳み掛けると、フローはぽそりと何かを呟いた。

俺は聞き取れなくて、「え?」と聞き返した。

「……もうここに来ないで。私とも、もう会わないで」

まて、今、フローはなんて言った?

「え……」

「聞こえなかったの?もう、私と関わらないで」

「でも……」

「うるさい!お父さんみたいなこと言わないでよ!」

どうしてそこであのどクズな父親のことが出てくるのか疑問に思った。

すると、俺の疑問に答えるように前世でみた”こん月”のワンシーンが頭の中に浮かんできた。それは、フローが父親に「原因はお前にあるんだぞ!」と言われて、顔をぶたれているシーンだった。

どうしてフローが顔をぶたれているかまでは思いだせなかったが、「原因」という言葉はNGワードだったようだ。

しかし、ここで「お父さんにも言われたんだよな……ごめん」なんて言ったら、怪しまれる。

どうすれば許してもらえるのか考え、頭をフル回転させていると、フローが俺に近づいてきた。

距離はどんどん詰められていって、フローは俺に抱きついてきた。

「……は?」

突然の事で思考回路がショートして、「神様ありがとう。」なんて思って、いるかいないかも分からない神に感謝していた。

すると、またしても前世での記憶が蘇ってきた。それは、同級生達の会話だった。

『なぁ、こん月のフローレンス・トワイアって悪役、性格悪くね?だってさ、自分が男に抱きついて、油断させた隙に魅了の魔眼つかって、相手に言うこと聞かせるんだから…』

そうだ、フローは自分よりも背が高い奴との身長差をうめるために、相手に抱きついて、相手が自分を見た瞬間に顔をあげて、魅了の魔眼を発動させるんだ。

もしや、俺はこれから、魅了の魔眼を使われて、孤児院に来させないようにされるのか?それは嫌だ。俺はフローを守るんだ。これから仲良くなりたいんだ。なんて考えてた頃には、時すでに遅しで、フローは魅了の魔眼を発動させていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

次回は、フローのお父さんが出てきます!

ではまた

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読ませていただきました!! 凄く構成もしっかりしていて ヒロインの表現の仕方も 上手いです!! [一言] 頑張って下さい!!
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