月下の光に照らされる場所
拙い文章ですが、お付き合い頂き、且つ、気に入って頂けると幸いです。
霊とか妖怪とか不可思議な者、物、諸々登場予定なので、ホラーとか霊とか妖怪とか、血とか苦手な方はご遠慮ください。
プロローグ
せめて、解放してやりたい。
このまま、ここで朽ち果てる運命ならば。
いっそ、君の業の全てをこの身に背負い解き放ってやりたい。大切な私の……。
久方ぶりに私の瞳に映った君の顔は随分と大人びて見える。
幼い頃から知っている筈なのに、こうして君は私のすぐ目の前にいるというのにひどく遠い存在にも思える。
共に過ごすことも、その柔らかな髪を撫でてやることもなかったね。
君は、
私を知らない。
けれど、
私はこんなにも…。
顔をみせはじめた陽光に、白銀の髪が煌めいては柔らかく揺れる。
その足下、目に痛いほどの新緑の中に1人の少女が眠っている。
草に埋もれる様に眠る彼女の呼吸は浅く、ひどく苦し気だ。
一見女の様に腰まである綺麗な白銀の髪が風にサラサラと揺れる。その持ち主である男は少女の傍らに腰を下ろした。
「あやめ」
白く形のよい指が少女の頬に触れた。
その刹那、少女の呼吸がふわりと軽くなり苦痛に歪んでいた表情が和らいだ。蒼白だった顔にうっすらと血色がよみがえる。
その肩に男の白く細い腕がまわされ少女を抱き寄せ、まるで壊れ物を扱うように優しい動作で男は少女を抱き上げた。
美しく可憐な容姿と裏腹に男は軽々と少女を抱いたまま近くの木立を目指して歩き、慎重に地面に降ろすとまだ青い紅葉の幹へ凭れかけさせた。
風がゆるりと吹き少女の前髪を揺らした。
ただ、遠くから眺めるばかりだったその姿が今は2歩と離れぬ距離に在る。
在るのに、今をおいて2度とこの少女に会うことも触れることも男には叶わないことだった。
その別れを惜しむ男は、ただじっと少女を見つめていたが優しい声で言った。
「もう、苦しまなくていいんだよ」
君の業も、一族の罪も。
全てを…。
あの世まで私が背負って行くから。
たとえ、
君が私を知らなくても。
だから、
強く、強く生きるんだ。
そして、
出来ることなら幸せに。
君の心を満たす誰かをみつけて。
少女の髪を優しく撫でると男はその額にそっと口付けた。
「全てを…忘れて」