十一話
「よし、じゃあ打ち合わせと行こうか」
感動もそこそこに。
いい加減俺達がいなくなった事に気づく頃合いだろうし、早めにスケジュール調整を済ませておいた方が良いだろう。
ルナナも同意見なのか、下手に茶化すことなく頷いた。
「計画の概要くらいは考えてあるんだろ?」
「うん。スレイプニルタイプ、マーメイドタイプ、ドラゴンタイプの三つは準備してあるよ。言うまでも無い事だけど、陸海空、更には半獣、半人、幻想。三つの環境と三つの体+AIについてのテストにもなっているんだ」
「なるほど。確かにそいつは理に適っているな。三タイプ共原型の知名度が高く集客率が高いし、バランス制御を地上、精密機構を水、完全に新たな試みを空で行うというのも安全性と冒険を上手く組み合わせている。素晴らしいぞ」
考えたヤツはファンタジーにもある程度精通していると見た。
「でしょ。いずれケンタウロス、ケルピー、ヴィーヴルみたいに少しずつそれぞれの要素を集めていって、最終的にフォースロイド第六世代『ゲンソウ』とする計画なんだ」
そこまでする必要があるのか。
世の人々はそう思うだろう。
だが俺のようなオタクは勿論、他にも多くの人々がこの計画に賛同の意を示す事になるだろう。
例えば、遊園地。
昨今遊園地もVRや第四世代のフォースロイドを用いたサービス精神満載の不自然な動物園やサーカスに客を取られ、力のない所は次々と潰れていっている。残っているのは千葉にあるのに東京な夢の国とか恐竜やタイムマシンカーで有名な某スタジオとか全部がブロックで出来たランドくらいか。後は地元に愛されているが故に辛うじて残っているような所だろう。
極貧に喘ぐ……という程でも無いと思うが、貧乏な事に変わりはない彼らに、第六世代『ゲンソウ』を卸したらどうなるか。
客を魅せる。という点に関しては他に引けを取らないのが遊園地。きっと面白おかしく人間に夢を見せてくれるだろう。
ひょっとしたら新たなジャンルの施設が生まれる事だって十分あり得る。
この時点で商業的には成功だ。
その上で、小型の物を玩具会社に委託したり映画特撮ドラマ等々の撮影の道具としたり、某金属生命体のように銃器や超電磁砲やブレードを装着してロマン兵器へ転用する事だって、莫大な利益をもたらすだろう。なお、流石に荷電粒子砲やエネルギーシールドはまだない。
「しっかし……こりゃ折角貯めてた貯金も全部パァだな」
「貯金?」
「元々俺も第五世代は作ろうと思ってたんだ。でも草葉の資金じゃとても無理だろうから、今まで病院とかVR系の子供枠バイトでせっせと貯金を貯めておいたんだが……」
「あー、そういえば作るって言ってたね」
ま、由緒正しく強大な弓良家の主導で行われる計画に一枚噛めるんだ。今までの努力も報われてくれるだろう。
「ちなみに、どれくらい貯めてたの?」
「今の所一千万しか稼げてないな」
「それ一般人のバイトの収入的に十分すぎるよね?」
仰る通りで。
「ま、先の事はともかくとして。とりあえず今後の計画について詳しく話し合う為にも一度リアルで会いたい。流石にVRだと色々不都合もあるだろ?」
今日のVR技術も大分発展して企業の重要情報保管にも一役買っているのだが、今回の事は非常にデリケートな話だ。試作とはいえ立派なフォースロイドのテスターに未成年の俺を選ぶ辺りは完全に犯罪だ。VRの世界だとログが残るし、IFの話をしている今だって十分に危険だ。恐らく既に弓良家とある程度のパイプがあるMDOの中だからこそ俺たちは無事なのであって、そういう事情が無ければ犯罪計画コードによって俺達は永久アカBAN+通報。めでたく少年院行きになっている筈だ。
……公安にも唾を付けられている辺り、MDOの運営も中々に波乱万丈な運営だと思う。
「その方が良いだろうね。どうする? 君が僕の家に来るかい?」
「馬鹿言うな。空中都市の土を踏むつもりはねーよ」
直接見た時こそ畏怖に震えはしたものの、未だ俺にとって空中都市は忌地だ。今後の人生で自ら向かうつもりは一切ない。
けれどそれは俺の早とちりだったようで、ルナナは既に地上で居を構えているんだとか。考えてみれば当たり前だよな。監視は無いだろうとはいえ、万が一があるのだから。いきなり地上に降りてテスターとコンタクトするより遥かに安全だ。
「それじゃ適当なカフェで良いか。三日くれればウチの諜報部も集められるし、下手にお互いの拠地を教えるよりマシだろ」
ルナナもそうだが、俺だってそこそこの立場ってもんがある。病院には大分お世話になっているし、散々言いふらしたが草葉の秘密だってある程度は守らなきゃいけない情報だ。おいそれと互いの家に行けるような立場じゃない。
「それもそうだね。問題は隠れ家をどこにするか、だよね」
「だよなぁ……でも何処にするにしても完全にリスクを排除する事は出来んだろ」
付け加えれば、限りなくゼロに近いと言われると必ず起きそうな気がする。なんなら言われなくてもそう認識してしまうだけで起きてしまう気がする。こう、フラグ的に。
ふむ、気にする意味は無いな。
「プレイ・ア・ゴー。都道府県バージョンと行こう」
「フェルドナントの古銃? よく知ってるね、あんな古い……ああ、君にとってはそうでもないのか」
フェルドナントの古銃。二十年前に放映されたヴァンパイアハンターとヴァンパイアの許されない恋を描いた傑作アニメ。プレイ・ア・ゴーはヴァンパイアハンターたちの合言葉兼言葉遊びのような物で、定められたテーマに従って同じ言葉を同時に言う事によってヴァンパイアの子飼いを弾く……まあ、それを逆手に取られてヴァンパイアハンターの拠点が一つ壊滅したんだがな。というか、ルナナにとっても生前のアニメだろうが。
ただ言葉遊びとしてはわりと面白いのでたまにシュバルツの旦那と遊んでいる。
「ルールは簡単。公平を期すために互いの都道府県、次に市町村を言うだけ」
「了解。二か所の間くらいに拠点を用意するよ」
ノリが良くてよろしい。
「じゃあ行くぞ……血を弾け、血を下せ、血を正常な流れに戻せ」
「そこも真似するんだね」
「当然。フェル銃好きならな。それより行くぞ。ドライ、ツヴァイ、アイン……」
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「まさか同じクラスだったとはな」
所(と時間)変わって喫茶『ラインハルト』。中二心擽る名前に似合わずオシャレな喫茶店で、ホーリスタル大学附属高校のすぐ近くにある。が、今時の子供は家に帰ってすぐVR、もしくはスポーツ、稀に恋愛と寄り道をしている時間が無い。だから学生は二人、なんか二十世紀のカップルみたく初々しいのにラブラブなどこかで見た事あるようなリア充と、見ようによっては二世紀前のチンピラに早変わりする俺。
そして目の前の美少年。ルナナこと弓良光のみだ。
「僕もだよ。昨日はごめんね、ほんの遊び心だったんだ」
ほんっと美少年だなぁ、コイツ。真珠のように麗しい艶の白目、黒瞳はオニキスを称えようか。スッと通った鼻に薄っすら桜色の唇。なだらかな顎は雪山を連想させ、肌の色なんてロシア人もビックリな白さだ。心なしか艶美な雰囲気さえある。
凄いなぁ、羨ましいなぁ……
「……てる? アポル! こら!」
「ハッ。すまん美少年」
「そのセリフで何を考えていたのか分かるよ。僕に見惚れるのは良いけど、話を聞かないのはナンセンスだね」
新種の男の娘だな。自分の可愛さを自覚し、武器に使ってやがる。まあボーイッシュな女の子なのかもしれんが、正味な話どっちでもいい。しかし、どこかで見たような気もするが……
「悪い悪い……で、なんの話だっけ?」
「他のMDOプレイヤーと会ったらアポルと僕は間違えられるかもしれないねって話」
「あぁ、そだな」
俺の外見は、まあ荒んだ少年時代だったからか、眼はキツイわ唇はへの字だわ無精髭は生えてるわ……いや、最後のはズボラなだけだけど。
そしてそれは、ルナナのアバターとよく似ていた。
ドラゴンアポスルが弓良光と同じ、中性的なアバターのように。
「実際、さっき間違われたしな」
そう言って例のカップルを見やる。
すぐ隣の席で身を寄せ合う男女。一人は大人しそうな黄縁メガネの少年。一人は活発そうなラフレイヤーの少女。姿形は(微妙に)違えど、密着状態と言って良い二人の間に漂う桃色の空間を見間違える筈は無い。
トカゲとシャナ。
最近リアルでも付き合う事になったとは聞いていたが、まさか二人まで同じ高校だったなんてな……それ、なんてラノベ? だな。
「ほんと、よく人前でああもイチャ付けるよね。嫉妬は無いけど呆れは一山二山と数えきれないよ」
「まったくだ。でもまあ、目の保養にはなる。若々しい二人が健全に愛し合う姿は純粋に綺麗だ。あやからせてもらおうじゃあないの。ありがたや~、ありがたや~」
「アポルってたまにお爺ちゃんみたいな事言うよね」
「お前も良く知る事件の心労で中身がちょっとだけな。それよりいい加減話に入ろう」
軽い雑談も良いが、楽しいだけが人生じゃない。和菓子に抹茶、寿司にガリ、ケーキにオレンジジュース、読書に勉強……苦いは甘いに、メリハリをつけてくれる。
苦みの無い生活なんてクド過ぎて自殺したくなる。甘さの無い人生はもっと嫌だが。
「とりあえず概要書は読んだが、はっきり言おう。よく分からん」
「ほんっとごめん。ウチの技術者連中腕は良いんだけど、頭の中が子供っぽいというか……」
「説明が苦手。もしくは要約が苦手なタイプか?」
「そう、それ」
往々にして技術畑の人間はそういう傾向にある。読んだ瞬間そう思ったが、まあ仕方ない。得てしてロマンとは分かりにくいものだ。
「なら俺のやる事だけ教えてくれ。この店は俺の一族が店長だから無駄に防諜高いし、秘密の話や機密資料及び機材くらい持ち込めるぞ」
「君は本当にミステリアスだね? この机も妙に重いし、地下都市の武器庫テーブルに良く似てるんだけど。そうそう、このあたりのボタンを押すと……」
「あ、バカっ、やめ……」
ガシャッ。
ガチャガチャガチャ。
「……」
「……」
「シャナ……」
「ラガルト……」
あまりの沈黙がラブラブカップルのたわごとを拾う。お前らはリアルでもプレイヤーネームで呼び合ってるのか……
あえて何処と言わない五大都市産のテーブルを元に戻す事で仕切り直しとし、話を続ける。
「……とりあえず、今日は顔合わせって事で特に何もしなくていいよ。明日またドラゴンタイプの試作品を持ってくるし、大雑把なスケジュールの載った計画書やこっちの拠点の地図なんかもその時一緒に渡すよ……それと」
向かいの美少年(美少女かもしれん)が胸ポケットから一枚の黒い……あれは、ソフトか?
「AI専用の高性能ソフトだよ。もう運営の許可は取り付けたから、帰ったらVR機にそれを挿してMDOにログインして。そうすれば五、六時間で彼女のAIをそれに入れられるから」
渡されたカードをしげしげと見つめる。そうか、これがイフィルニの、脳と心か。
この世界の、リアルの。
「そりゃ……大切だな。帰る時は騎士団派遣してもらうか」
「……何を?」
「護衛みたいなもんだ。気にすんな」
脳裏に浮かんだ中世風パワードスーツ部隊にテーブル下で連絡を取っておく。幻想計画については既に草葉一族各員へ連絡済みな為、大いなる権力の私的利用が可能な訳だ。
「気になるけど、まあいいよ。一度VR機にセットしたら調整するまで二、三日かかるからMDOでは会えないけど、こっちのPCと連動して話せるようにになってるから安心して。よければこの喫茶店にPCを持ってくるけど、どうする?」
「頼む。三日も会えないなんて拷問に等しいぞ」
イフィルニのおかげでMDOのイン率が99.9%になったくらいだからな。泣きはしないが、ドラゴン語で叫ぶ事はあるかもしれん……ああぁ、中一の頃の寝ぼけと中三の修学旅行最終日の黒歴史がががが。
「落ち着くんだアポル。これ以上頭をぶつと本当の意味でテーブルが暴発するよ。やめて!」
「お、っっと……ルナナにはこんなトラウマ、無いのか?」
「何が言いたいのかさっぱりだよ。僕はボッチだったから」
俺もボッチなんだが、こういう事に友達の有無なんて関係なくないか?
「むぅ、まあいい。というか取り乱した。すまん」
「トラウマって突然蘇る物だからね。別に気にしてないよ」
そう言ってもらえると助かる。
……っておい!
「貴様ら!」
「「いたっ!?」」
人が話をしている横でなんつー事をしてんだ!
「良いか、ここは健全な喫茶店だ! そういうふしだらな行為は人のいない所でやれ! 直訳すると俺がイフィルニとしばらくイチャ付けなくなるのに、自分たちだけキスとかしてんじゃねぇ! ってなるんだがその辺どう思うよコラ」
「何処にも問題なんてありませんよ」
「私も!」
謎のキメ顔やめろ。このリアルヒューマンカップルめ、見せつけやがって……
「撃ちますかな?」
ジャキッ。
店のマスターが猟銃を構える。
いきなりのヴァイオレンスに夫婦の体が固まり、仲良く身を寄せ合って震える腕で互いを抱き締めた。
突然の事態にルナナの動きも止まる。
そして俺は……
「構わん、撃て」
「待っびゃ!?」
「ひゃぁ!?」
盛大なゴーサインと共に響いた銃口から、異色の液体が夫婦と椅子に迸る……そう。
コーヒーが。
「アポルーーー!? なに、なに、今の何!? ちょっと、え、えええええぇぇ!?」
珍しい事にあのルナナが取り乱している。その瞳は夫婦、俺、マスターを交互に見やり、ほんわり開いた口からは可愛らしいヴァンパイアバイトが覗いている。
「落ち着け、ルナナ。ただのコーヒー弾だ」
「謎百割!」
疑問十倍増し、か。まあ気持ちは分かる。
何せ喫茶店の渋い隠れイケメンジジイマスターが猟銃を手に持ち、リア充をコーヒー塗れにする。中々ある事じゃない。
「しかし待て、よく見て、考えるんだ。この喫茶店の、従業員を」
「アポル? 何を意味の分からない誤魔化し、を……」
彼(もしくは彼女)は見た。そして理解。同時に、何かを悟ったように眼を閉じ……
「ねぇ、もしかしてそのコーヒー……」
「ルナナ様のご想像通りでございます」
そう。ルナナが見た物。いや者。それは……まあ、開けっぴろげに言えばコーヒーを淹れては捨て、淹れては捨てを繰り返すひよこマーク付き従業員。いわゆる新人だ。
「彼女はつい五日ほど前に入った新しいスタッフなのですが、生憎と腕の方が大変不味く、さりとて失敗作のコーヒーを捨てるのも勿体ない。なのでこうして非殺傷弾へ改造したのです」
「不味いだけにな」
「……お後がよろしいようで」
気まずそうにフォローされる所含めてウチの流儀だ。別に俺がスベった訳では断然無い。無いったらない。無い……よな? ルナナどころかトカゲとシャナまで塩度高めの眼で見てるけど、違うよね、マスター……
マスターは優しい眼でこちらを見ていた。あ、アカン。これはダメなヤツ……
「打鉄様の事はお気になさらず。良い意味でユニークな方なので、我ら一族既に慣れております。ついでに言えば、この姿が可愛いと子女に人気でしてな。イジメ甲斐があると。我ら男衆も、こんなKY……空気の読めない人間にはなるまいと自らを律する見本としております」
「……アポル、ネバギブ」
ガァ。気遣、われた……良いもん良いもん、俺なんてどうせ寒い寒い愚者だもんね!
「アポルが沈むのはたまにあるけど、拗ねるのって初めてだよね?」
「そうだね。それだけこのお爺さんに気を許してるって事なんだろうね」
「二人共知らないんだ……ふふふ」
俺は拗ねました。後はジジイとマセガキ二人と人の過去を思い出して笑う邪悪な奴とで楽しく会話でもすれば良いんだ。ぐすん。コンチキショー! はぁ……俺って何度繰り返せば空気読むの上手くなるんだろ……そういう本を読むつもりは毛頭ないが……ハァァァ、ァァ……
「そういえばお爺さんはアポル……打鉄君と知り合いなんですか?」
「私の事はマスターとお呼び下さい。打鉄様の事もプレイヤーネームで構いません。そちらの方が喜ばれるでしょう。私は打鉄様とは遠い孫に当たりますな」
「……待って。今のセリフだと、遠縁とはいえマスターがアポルの孫っていう風に聞こえたんだけど?」
「その通りでございますな」
「ええええええ!? アポルってお爺ちゃんだったの!?」
「実際に会うまで想像していた姿と今、一致しました」
「こんなに年齢差のある孫とお爺さんだなんて……どれだけ複雑怪奇なんだい? 君の一族」
そんな事聞かれても答えませんよーっだ。俺は拗ねて自己嫌悪してるんだからねっ。
「我が一族は二割が刹那主義で二割が熟練主義ですからな。法律下限で結婚する事もあれば40、50になってから籍を入れる者もおります。その積み重ねのせいで、このような珍妙な関係が存在するのですよ。最も、世代で言えばの話ですが」
「へぇぇ……アポルって凄く歴史のある家の人だったんだね」
「良家という訳ではございませんし、二百年にも満たないのですから、どうか今後も今までと同じようにお付き合いしてあげていただければ幸いでございます」
「勿論です。僕たちはアポルの愛弟子ですから!」
「左様でございますか……打鉄様もご立派な弟子を持ててさぞ鼻がお高い事でしょう」
「うんうん、それは僕も同じに思うよ。僕は訳あってしばらく彼から離れてたけど、再会する前は結構刺々しかったから。見違えたよ、アポルは」
「はい。これもロマンですな」
「「えへへ……」」
「……それで、だけど」
「はい、なんでしょう?」
「なんでコーヒーを弾丸なんかにしたのかな? 非殺傷というだけならゴムやソルト、ちょっと高いけどエレキショックがあるよね?」
「リサイクルでございます」
「あ、はい」
「少々、不親切でしたか。我々草葉の血を引く一族はユニークな無駄アイテムを製作する専門の者が存在します。丁度あの子のコーヒーの処分代が辛くなってきた所にこの喫茶店を何やら秘密基地にするおつもりと聞きましたので、かねてより依頼されていた新非殺傷武器の一つの形としてコーヒーを使えないかと提案したところ、帰ってきたのが先ほどの弾丸だったのでございます」
「そ、そうなんだ……コーヒーである事に、意味はあるのかな?」
「上品なペイント弾といったところでしょうか。他の意味はありませんな」
「あ、そう。それともう一つ、このテーブルは……」
「喫茶店たるもの、常に武装組織と銃撃戦を行えるよう備えなければなりません」
「おかしい、日本にはもうヤクザやマフィアはいない筈」
「旧帝国軍が残っております。もっとも、彼らに関しては少々シークレットな扱いをさせていただいておりますので、どうか詮索無きようお願いいたします」
「え……ええ!? ちょ、アポル! さっきのは全面的に僕が悪かったから! 本当の話を聞かせてよ! 旧帝国軍とどんな関係なの!?」
あぁ……? あぁーーー……おぉ、旧帝国軍? ああ、そうだな。うん、いつまでも拗ねてられないもんな、おう……まあいいや。大した質問じゃないし、答えてやろう。
「再起まで面倒見てるんだよ。今度はもっとスマートに、英雄的に、そして紳士的に、新たな国を作れるようにな。それよりマスター、キリマンジャロもう一杯くれ」
「国家反逆罪ーーー!!!」
「馬鹿言うな。俺らが面倒見てるからテロとかしないんだぞ、連中。安心しろ、別に日本を奪うような真似はさせん。せいぜい火星か木星で新国家建設。その程度だ」
「……分かった、もういい。二度と君の一族の話は聞きたくない。今までのは全部聞かなかった事にするから、もう話さないで」
そうか。まあ今の日本の『領主』からしたら、反政府組織の旧帝国軍関連の話なんて厄介事でしかないからな。う~ん、まあチクられはしないだろうしいいか。
「了解した。他にも色々表ざたに出来ない事は色々やっているが、基本迷惑はかけん。オタクは人様に迷惑をかけないからこそ生存を許されるんだからな」
今はそうでも無いが、昔は濃いオタクに対して迫害に近い差別意識が根を張っていた。俺達草葉はその再来を望まない。深く関わった夫婦やルナナとて、あまり深い所に連れ出せば瘴気とも言えるオタクの闇に蝕まれてしまうかもしれない。
ただ色々と便利な組織。そう捉えられるだけで十分だ。
「……そろそろ、か」
無難なところで会話を切り上げる。雰囲気は少々ぎこちないが、今回の会合の主目的は互いをより理解する事だ。俺達が最後は情や正義ではなく矜持で動くと知ってもらえれば行幸ですらある。良し悪しは別にして、行動原理を青臭く誤解されるとキレるのが草葉一族だからな。
マスターも、その為に引き金を引いてくれたのだろう。
「もういい時間だ。解散と行こう。ルナナ、良い物をありがとうな」
「……そうだね。こちらこそ、優れたテスターとの出会いに感謝するよ」
お互いに仕事人の顔で握手を交わす。悪くなった空気もMDOに帰れば挽回はしやすい。元より俺らはネトゲの関係だ。リアルを引き摺る程素人でもねぇ。
「ほら、お前らもさっさと帰る支度しろ」
「えぇー、もう少し一緒にいたいよー」
「一緒にいたいって、お前らほとんど話を聞いてただけ……いや聞いてすらいなかっただろ」
本来なら今件には無関係で、この場にいることすら出来ないんだ。一年来のパーティーメンバーであり同じ地域に住まう者だからこそプチオフ会的なノリで同席を許してやっただけなんだから、わがままを言うんじゃありません。
「ほらシャナ、アポルもルナナさんも困ってるよ」
「ラガルトぉ……」
柔らかくトカゲがシャナを窘めるも、今度はシャナが子供っぽく拗ねてそっぽを向いた。なんて可愛らしい子供なんだろう。つい、ほんわかする。
「眼福ですなぁ」
「然り然り」
「……念のため聞きますけど、シャナに邪な思いを抱いたりしてませんよね?」
本当に念のためなのだろう。トカゲの眼には呆れしか浮かんでいない。俺もマスターも優しく頷いておいた。小動物は愛でる物だ。愛する者じゃない。
「シャナ、またMDOで会えるんだから良いだろう? アポルはこっちの姿、あまり見られたくないみたいだし」
「そうだな。用事とあれば会えるし、ただ遊ぶだけも出来る。だが俺のリアルは醜悪の塊でしかない。必要が無ければ見せたいとは思わん」
「アポル……うん、分かった」
シャナは聞き分けよく、素直に言う事を聞いて立ち上がった。どうも彼女もトカゲも嗤えない事情がありそうだし、出来るだけ自由にはさせてやりたいのだが……
「それじゃ、帰ろっか」
「うん……またね、アポル、ルナナさん」
「またねーシャナちゃん、ラガルト君」
まだ少し拗ねの部分が残っていたのか、シャナは若干寂しそうにトカゲの腕に寄りかかりながら喫茶店を出た。ルナナもほどなく二人に続き、彼らの後には我らが隠密部隊がこっそりと護衛の任を全うすべく追走を開始した。
残ったのは、俺とマスター。
「なあマスター、あいつらコーヒー被ったままなんだが、良かったのか?」
「心配なさる必要はございません、当主打鉄様。きちんと洗濯をすれば綺麗に片が付きましょう。香りに関しては、我が店のコーヒーの匂いをいつまでも楽しめるよう強化しております」
「そうか、それならいい……のか? ともかく、フォローありがとな」
「いえいえ、これもマスターとしての務めでございます」
軽く低頭したマスターにキリマンジャロをホットで頼み、読書と洒落込む。どうもまだまだ
面倒事が待っているみたいだし、それまで少し休息させてもらおう。
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