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十話

第二章・現実に干渉する幻想、幻想に影響を与える現実

「アポル、ちょっと良いかな?」


 宴もたけなわ。しかして未だ熱は醒めず、『オールマイティ』シュバルツと『ヒーロー』エレヴィオが大迫力の異常大剣バトルを繰り広げている。シュバルツは一メートル八十センチもあるツヴァイハンダーを二刀持ち、エレヴィオは二メートルと半メートルもありそうな超々大剣(形だけならば片手半剣によく似ていた)を持つ。二人そろって頭がおかしいとしか言えない。勿論俺達は人間とドラゴンの別なく、やんややんやと野次と咆哮を飛ばしまくっているのだが。


 そんな中、ふとルナナが声をかけてきた。ささやきではないものの、十分他者に聞こえないくらいの小さな声で。

 ふむ……何の話かまったく想像は付かないが、まあいい。俺とルナナの仲だ。


「良いぞ。すまないイフィルニ、少し離れる」

「分かった。ルナナ、カトハを、与ろう。アポスルも、その子を」

「きゅぅ」

「ごめんね。頼むよ、イフィルニちゃん」

「俺も。すまん、イフィルニ」


 両手で抱えていた緑竜をそっと地面に下ろし、子守を頼むルナナと俺。カトハ坊も相棒の機微を察したのか、のんびりとイフィルニの元へ歩き出した。ちなみにイフィルニはついさっき『ドラゴンライダー』ローランVS『ドラゴンライダー』ケリットヴィルスの魔法合戦の余波で水浸しになってしまい、酔いが醒めてしまっている。原因のケリットヴィルスにはキツいお仕置きが待っていたが、その話はまた今度思い出し笑おう。


「それじゃ、俺とルナナは男同士の語らいをしてくる。連中が変に絡んで来たら遠慮なくブレスをお見舞いしてやれ」

「任せておけ、アポスル。私は、アポスルの恋竜、だからな」


 頼もしい婚約者だ。だからこそ惚れたと言えるが。

 そそくさとその場を後にし、竜の里でも滅多に誰も寄り付かない場所。つまりは白石館の前まで移動した。お祖母ちゃんに聞かれるかもしれないが、まあ問題ない。あとでしっかりお願いして肩でも揉んで差し上げれば黙っていてくれるって信じてる。


「ここらでいいだろう。なんだったらささやきでも良いが」

「いや、良いよ。君が選んだ彼らなら、最悪聞かれても問題ないからね。というより巻き込んで運命共同体にするから」


 おおっと、こいつは穏やかじゃねぇな。


「その彼らっていうのは、シュバルツの旦那やコウイチも含まれるのか?」

「そうだね。むしろコウイチ君は今からでも引っ張り込みたいくらいだよ」

 コウイチを……? 確かにあいつはゲーマーとして女神に祝福でもされたような幸運の持ち主だが、他の取り柄と言えばハーレムと最近の資金力くらいだ。強さ自体は実にお粗末。まあ俺とは別の意味で全ての攻撃がクリティカルになるから、戦力という点で言えばそこそこ使えるのだが。それにしたって俺がいる限りルナナにとってコウイチの利用価値は無いに等しい。だというのに、何故……


「さて、そろそろ本題に入るよ」


 ふむ。まあ話が進めば色々と見えて来る物もあるだろう。俺は黙って頷いた。

 ルナナはやや黙って考えを纏めていたが、とうとう切り出した。


「僕の名前は弓良光」

「アァ!?」


 脊髄反射でルナナの襟首を掴む、その直前。辛うじて反対の手で自分の頬を殴りつけた。


「悪い……だが俺にとって弓良の名は無条件で悪感情を抱かせる姓なんでな」


 弓良……

 あの空中都市の、『領主』の姓。


「……という事は、君は草葉打鉄君か? その節はウチの従業員が本当に済まない事をした。君がそうだとは知らなかったけど、何年も謝れなくてごめん」

「いや、いや……良いんだ。ルナナだって当時は11だろ。ネトゲっていうのはたとえリアルでは仇敵であっても親友になっているかもしれない世界なんだから。あ、いや、別にルナナが仇敵って訳じゃ無くて」


 混乱からか、普段より言葉のチョイスが無神経になった俺へルナナが安心させるように手を肩に置いてきた。うむ……少し落ち着くか。


「重ね重ね悪ぃ……けど、何故その事を今俺に?」


 本気でルナナの目的が分からない。

 弓良家の力を使って俺の事を調べたのか、それとも本当にただの偶然だったのか、あるいは最初から、知っていたのか……


「うん、実は……いや、君が草葉君というのなら、むしろ断るかな」

「ブレスを息吹かなければ灰も炎も生まない。ルナナらしくない浅慮だな」


 ……ルナナがあの憎い弓良の人間と言うのなら、行幸だ。

 憎む。その諸刃を鍛え直し、両刃とする事が出来る、チャンスだ。

 ドラゴニュートの爪が拳にめり込む。無視して更なる言葉を紡ぐ。


「ルナナ。本名を知った今なお、あえてそう呼ぼう。お前は俺の親友だ。そうじゃなかったのか? そして訊ねよう。お前は、俺の、ルナナじゃないのか?」


 別に俺の物とかそういう意味じゃないのはルナナにもわかるだろう。

 人は他人に自分を植え付ける生き物だ。印象、記憶、傷、感情、熱……自分の行動を相手の物にし、誰かの行動を自分の物にする。だから他人は自分の一部であり、自分は相手の一部でもある。


 俺のルナナ、翻って俺の為のルナナ。ルナナの行動は俺にどんな物を与えた? 俺の行動はルナナにどんな物を与えた? そして俺の行動は、ルナナにとってどれだけの価値があった? 少なくとも俺はルナナの行動に随分な物を貰った。互いの価値を知るからこそ、互いに少なからず所有権が発生する。その意味を、ルナナは知っている筈だ。

 そして当然ルナナは苦く笑い、力なく肩をすくめた。


「やれやれ、君に屁理屈で敵う日は来ないように思えるよ。下手な脅しより心を叩くね、その信頼」

「振るわれない爪はなまくらに劣る。しかし幾時経とうと我らが爪は英槍に勝る鋭さを損なわない、だ。聞かせろよ、俺とお前と、癪だが弓良の物となるその行動をよ」


 ルナナは笑んだ。

 空に恐れを抱いていた幼い竜が、翼の喜びを知ったかのように。

 清々しく、心地よく、楽しそうに。


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「なるほど。そりゃ確かに皆が幸せになる提案だ」


 それは至極単純な事だった。

 ルナナはイフィルニに、翼をくれるらしい。


「フォースロイド第一世代、『ヒトガタ』。第二世代『ケダモノ』。第三世代『ニンゲン』。第四世代『ドウブツ』……今の世に、これ以上のフォースロイドはいらないと民は言うも、それ以上を望むが人の業というものか。まあ、俺も人の事は言えないが」


 フォースロイド第五世代『マボロシ』。機械の人、機械の獣、人と変わらぬ機械、獣と変わらぬ機械、その一つ先、機械の幻……つまり、幻獣。

 実際に存在しないと言われる彼らのフォースロイドを作ろう。それがルナナの齎した計画。人が求めてやまない傲慢の証。幻想計画。


「フォースロイドを開発していないのは弓良家だけでね。それは空中都市が他の都市に技術力で大きく劣っていると世界に宣言しているに等しい。確かに五大都市の内の三つは日本国の物だ。フォースロイド開発都市の内半分を一国が所有すると言えば聞こえは良いけど、開発を担わなかった都市として蔑まれるのは、空中都市の弓良家。それが随分と気に入らないらしくてね、僕のお父さん」


 第一はアメリカの宇宙都市、第二は中国の地下都市。第三と第四は日本の海上都市、海中都市。常識って程じゃねぇが、俺も家族を失った事件の影響で色んな都市を調べた口だ。秘匿されていない範囲の技術ならよぉく知っている。


 だから、こう言える。


「バカじゃねぇの? そもそも五大都市の中で一番建設難易度が高いのは空中都市だろうが。主導は弓良家なんだし、立派な事だと思うけどなぁ……安全管理はともかく」


 そもそも宇宙都市を除いて他の都市は全部接地面にしっかりした物質があるし、その宇宙都市だって無重力空間に建設している分、他の都市より建設難易度は(若干)低い。

 それに比べて空中都市は……


「紐で吊り、ファン&プロペラ&ブースターで浮かび、五感はホラー映画の鑑賞者より敏感。そのくせ電子通信の精度が滅茶苦茶良くて、プロテクト技術が世界最高レベルで、各会社・一般航空機との連携が強い……その上、生活水準や産業・観光は他の都市より優れていると来た。正直この俺すら憎しみを忘れて感心したコレに文句を言うような分からず屋は個人的に好かねぇ。住所を教えろ、俺がシメてくるから」

「いや、だから不満を持っているのは僕のお父さんでね?」


 そういやそうだった。憎い相手だが、その政腕は認めている。なのにまだ満足せず、上を目指すのか……なんだか悪感情を持ちにくいな。


「まったく困っちゃうよ。東乃芽のご当主の『貴方の所の街並みは凄いですねぇ。我々はフォースロイドの開発で手一杯でして』なんてやっすい言葉に踊らされて『頼もしい限りですな。では私共も少々、齧ってみましょうか』って馬鹿正直に食いついちゃってさ……あれから不審者が増えてるんだよね、僕の町」


 ……ま、まあ、濃い人程有能と我が一族の家訓にもあるし、そういう突貫バカなのも良いと思うぞ? きちんと成果を出せれば、だけど。


「おかげで空中都市を実験の場に出来なくてさ。かと言ってお父さんが動くと間諜も動くし、それはお母さんも同じ。僕にはそういう目は付いてないけど、ボッチだからね」


 そうか、ルナナもリアルボッチだったのな。安心しろ、俺も今日友好となりうる関係を粉砕してきたから。ボッチ友達略してボッ友だ。


「ま、だから僕がテスターの採用を押し付け……任されたんだけどね。MDOは良質な幻想AIが粒ぞろいだし。空中都市では趣味は読書、特技は園芸で通ってるから、地上に降りたとしてもマークは薄い。念の為、ダミーとして次期当主が宇宙都市に出向いたし完璧だと思うよ」


 なるほど……どうりでサブクラスに園芸なんて微妙な職を取っていると思ったら。


「言いたいことは分かった。だが俺が空中都市の住人だったらどうするつもりだ?」

「そこは大丈夫。空中都市はその性質上電子通信関係は弓良家の独占状態だからね。特権として、既に空中都市に住まうMDOプレイヤーは選出済み」


 それ規約違反にならないか? まあ事が国家規模なだけに、運営の同意は得ているだろうけども。

「それで、受けてくれるかい? 僕の……というより弓良家のわがままを」


 ふむ。

 まあ、確かにこの提案はルナナの純粋な好意という訳ではないと分かる。第一、第三はともかく第二、第四世代のフォースロイドは玩具会社との競合があって、急激な売り上げ増とはならなかった事もあるし、それに比べ本物そっくりの幻獣型フォースロイドが発売されれば、一気に新たな市場を獲得できる。商業的に美味し過ぎる上に開発者の弓良家とルナナの名誉にもなる。俺の為だけ、とはいかないのが現実だ。


 でもなぁ……


「そのわがままがイフィルニに翼を授けるなら……このリアルの空を共に飛べるようにしてくれると言うのなら、俺は俺も一族を代表してその依頼、受諾しよう」


 事はリアリストだけの問題でもなくなってるんだよね。


「ありがとう、アポル! ……ん? 一族?」

「お前も名を明かしたのだから、俺も応えなければな。俺の名前は草葉打鉄。天下御免のオタク一家にして、驚天動地の裏支配者とは俺の変態一族の事よ!」

「聞いたことも無い上に自慢だか自嘲だか分からない名乗りだね!?」


 そりゃそうだ。草葉の連中は俺を含めて望未を除き、どいつもこいつも頭のおかしいロマン狂だからな。人生の四分の三を面白全部で生きているような連中だ。私的に自慢出来ても公的には恥以外の何物でもない。


「幻想計画、か。実に俺、俺達好みの計画だ。是非俺の一族にも噛ませてくれ」

「えっと……待って。確かアポルの一家ってちょっと歴史の重いオタク一家だよね?」


 そうだが? しかし、疑問解消の答えは有している。


「まさしく。だが歴史的なオタクは歩んできた時代の分だけ歪んだ思想や栄えある思想に幼少の頃から触れ続けている。変わった考えは流暢な流れの外に位置する流動を呼び込み、時に害になることはあれど莫大な益となる事もある。その性質を生かして、草葉一族の半数は大手企業や政治家の相談役を担っている。俺の一族は資産を共有しているから、宝くじ一等程度の資金なら余裕で提供できるぞ?」


 あ、ルナナの顎が外れた。まあ上流階級に噂が広まっているくらいには有名な話だからな。まさかその元締めが俺だったとは夢にも思わなかっただろう。


「い、いや、その……気持ちはありがたいし、凄く意外な繋がりが出来たことに好感は覚えるけど……」

「分かってる。ウチの資金力は所詮その程度だ。第五世代フォースロイドの研究に十分な力じゃない、ってくらいはな」


 しかし。

 我が一族の力は、その程度では無い。

「俺の一族が貸すのは、武力、諜報、コネ、そしてテスターの俺だ。婚約者ってのが家族に含まれるならメインテスターのイフィルニも、だな」


 舐めるな、ルナナ。

 気軽に連絡は取れないが、ある国の王様の側近ってロマンを現在進行形で堪能中のイカレすらいるレベルだぞ、ウチの一族の変態っぷりは。


「ちなみに巷で噂の怪盗フェイクもウチの一族出身だ」

「なんだって!?」


 胡散臭い物を見るようなジト目が一気に見開かれた。

 当然か。怪盗フェイクは日本でこそあまり有名じゃないが海外では名の知れた『贋作専門』の怪盗だ。彼女の尽力により博物館や名うての資産家の、『故あってフェイクを見せなければならない宝物』が『堂々とフェイクをフェイクと言える宝物』に様変わりするんだからな。ルパンやねずみ小僧やキッドとは違う、盗みをしない怪盗だ。怪盗の定義があやふやになりそうなのはともかく。


「ちなみに手口とかも知ってるけど、聞く?」


 彼女はまず、失われた宝物を所持、あるいはつけ狙う汚れ手専門の組織から宝物を盗み、散々煽って輝いて注目を浴びた末、ドロン。直後、フェイクと連携するインターポールだのCIAだのスペツナヅだの『謎の警邏組織』だのが汚い組織を逮捕。世の美点を更に際立たせ、世の汚点を消し去る孤高(笑)の天才女怪盗。それが彼女、怪盗フェイクのロマン。ちなみに謎の警邏組織=フェイク直属の諜報・強襲部隊だ。


 疑い深く手口を聞いてきたので素直にそう答えると、ルナナは乾いた笑みと共に「MDO外にも凄い人脈を持っているね、君は……」と若干黄昏ていた。照れるね。


「なお、怪盗フェイクの本名は……」

「言わなくていい! さり気なくファンなんだから神秘のヴェールを剥がないで!」


 あの女、神秘というより中身はただのアイドルなんだけどな。まあそういう事なら言わないでおくか。そもそも神出鬼没で呼び出しにも滅多に応じねぇし、求められても会わせられん。


「話を逸らして悪かった。ともかく、ウチの一族は資金力こそ大したこと……って言ったら弱小企業さんの顰蹙を買いそうだな。幻想計画には使えない程度の資金力だが、他の力だったら結構助けになると思う。どうだ?」

「なんだか頭が痛くなってくるけど……それってアポルが勝手に決めても良い事なの? 一族の一員ならまず然るべき立場の人に話をつけて……」

「当主は俺だ。直系の子孫が俺と妹の望未しかいないからな」

「……あまり好き放題にすると、あとが怖いよ?」

「承知の上だ。元々一族の力っつっても基本個人の力だからな。いざ一族一丸となって当たるべき事象が起きた時の為の口実として、当主。つまり俺がいるんだ」


 一見当主制を採用している一族とは思えない民主的な方法だが、これはどちらの欠点も知っているからこそ採用している方法だ。船で例えるなら当主が羅針盤兼船長で一族の皆(正確に言えば一族の中の一家族、その代表者なのだが)が水夫であり航海士。指針にすべき目標を当主が掲げ、それに助言及びサポートを一族の者が惜しまず、最終的に当主が旗印片手に一族を引っ張る。真剣半分ノリ&遊び半分で生きる草葉の一族だからこそ出来る組織運用だと俺は思うがな。この現実世界では、という解釈はつくけど。


「ちなみに今回の件は『草葉一族動員条件令(以下草葉動員令)その二・ロボットロマンの実現』と『草葉動員令その四・AIに体を授ける』と『草葉動員令その五・恋人の為に全てを』に抵触する。普段連絡を取らない相手の協力も仰げるレベルだな」

「……なんていうかさ。時期が時期がだしそろそろ怪人でも出てきそうだよね?」

「笑えない冗談だな……もし出てきたら『草葉絶対動員令その一・主人公及びヒーロー及びライバルキャラを全力で支援せよ』が発動しちゃうだろ。絶対令が発動すると俺も当主としてあちこち使いまわされて、MDOにインする日が削れるから言霊にしないでくれ」

「一周回って心強いね。君や君の一族がいれば地球最後の日になっても……待って。終末論をロマンだと言い張る一派っていないの?」


 あー…………まあ、正直に話すか。


「勿論いた。だからそいつらを悪役、俺らみたいな『致命的な害にならない一派』をバックに戦う主人公。的な感じで一回、世界一下らない内輪もめを起こした事がある」

「あるんだ……」


 無論、俺がそういう思想で無い以上その一派は全滅したと言っても良いだろう。まあ何かの拍子に現れるかもしれんが、癌同様いつかは来ると考えて常に対策しておけば問題ない。いつもまともで正常っていうのが逆に珍しいしおかしいんだから。


「また話を逸らして恐縮なのだが……まあそんな感じで、やろうと思えば影響下にある国の狗頭を羊頭に挿げ替えるくらい出来るぞ?」

「ねえ。君って本気でこの世界の住人?」


 失敬な。俺はただこの世界でいざと言う時にロマンを実行出来る一族に生まれたというだけで、本質的に言えば領主の息子……娘かもしれんが、ともかく現代日本で『領主』の二つ名を許された血族の一員であるルナナの方が、よっぽど『そちら側』の住人に見える。


 俺は愛する竜と妹に全てを捧げ、彼女らが望む『草葉家当主に恥じない俺』で居続ければいい。小説で言えば『切っ掛け役』。そういう者に、俺はなりたい。


「……いや、ひょっとしたらそうかもしれん。先祖が宇宙人で将来攻めて来る宇宙人と戦う別の宇宙人の末裔をサポートする的な役割。敵の宇宙人を見れば覚醒する的な」

「……今のところ自覚は無い。それでいいかな?」

 それでいい。俺は頷いて、いい加減に話を戻そうと一度深呼吸をする。

「ま、そろそろ話を次に進めよう。千日手も良いが、お前ら学生はそういう訳にもいかないんだろう?」

「アポルも学生だよね?」

「俺は良いんだよ。普通の友達なんかいらねぇ。友人さえ……ルナナやコウイチ、シュバルツの旦那やローラン達やラガルトとシャナの夫婦、シャット。あとはまあ、戦乙女みたいなバカやあの芸術狂い共もスパイス的に考えれば上質だな。そういうさ、偶然出会った気の合う連中と死ぬまで楽しくいきたいんだよ」


 でも彼らは、俺と違うんだよな。

 変わっている、それでもまともな人間。その中にいたいと、俺は思うから。

 草葉一族という『まるで創られたような』気味の悪い奴と一緒じゃなくたっていい連中だ。

 スライムやゴブリンと仲良くなるくらいの『主人公』が現れれば、草葉の俺なんか――


「ねえアポル」


 む。少し考え込んでしまった。授業中もイフィルニの事を考えているとよく授業が終わっていたりするが、今回もその病気が――


「今の君を見て、僕は君の事をもっと知れたよ」


 ――なんだ、コイツは。

 ルナナの鈍い鉤爪が、一つの丸い銀を……いや、普通に言おう。鏡を俺に、向けていた。脳の一部に、こういうタイプのカメラアイテムがあったと浮かび上がり……

 視覚はそれを、正直に脳へ伝えた。体は凍り、指先が震え、眼が乾く。

 顔の右を忌々しいほど悲しみ一色に染め、顔の左を狂々しいほど愉悦一色に染めた、ピエロのような、樋嘴のような、有り体に言えば強キャラのアルビノに似た異色。


「…………そう、か。これが俺の本性か」


 理性と本能。おそらく、今の俺は矛盾した両者が同時に表に出てしまっているのだろう。くそったれ。

 俺は……そう。そうだ。理性では悲しいと思っていても、快楽を求める本能が自らの境遇を愉しんでいるのだろう。呆れた自己陶酔だ。凍り付いた全身が解れていく。落ち着け俺。単なるツートンリバーと同じで、内容物があんまりにも相いれない為に、二つに分かれているように見えるだけで実質違うところは何もない。


 どちらも愚か。愚か過ぎる者の表情だ。心根の段階で既に俺は愚かだ。だから傷付くなよ、心。理性と本能は別物で、状況によって使いこなすのが渋さってヤツだ。


「……今の君が何を考えているのか、僕にはまったく分からないよ。でも」


 っ、と。ルナナ。そう、ルナナがいたな。うん、うん。そういえば、幻想計画について……いや、草葉一族の特殊性について話していたな。じゃあ、次は足並みを……


「僕は好きだよ。理屈と感情をハッキリさせている人」


 そのコトバが。

 致命傷と言うには憶えがあり過ぎて、かすり傷と言うにはあまりにも開き過ぎた傷を、少しだけ治してくれた。

 おかげで終わりにできる。

 悲嘆に暮れている場合か。褒めてもらっただろうが。本能と区別しろ、理性を。


「本当に悪い……まあ、なんだ。こういう我ながら気味の悪いところもあるから、一般的な学生と同じ事はしたくないって訳だ」

「うん。そういう事なら、もう何も言わないよ。何がトリガーだったのか、正直地雷が謎過ぎて分からないけど」

「いや、気にしなくて良いさ。俺は正真正銘の狂人でお前らはこっちの境界線の向こうにいる変人だ。分からない方が良い。そのままでも、十分親友だったろ?」


 違いないね。そう言われて正直ホッと出来た。

 異端は排除される。

 世界の常識だからな。ルナナがその辺に理解のある奴で、本当に良かった。

 本当に、嬉しかった――


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