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一話

マジックドラゴン・オンライン


 ――アバター名、ドラゴンアポスル。直訳すると『竜の使徒』で、有り体に言えば中二病を拗らせちゃった系の名前だ。名付けた当時の年齢は11歳だったんだが。飲み込み辛いなら某頭のおかしい赤眼魔法使い集団と同じ、生まれつきの中二病疾患者とでも思ってもらおう。


 種族はドラゴニュート。人の骨格に竜の身体を持つ、日本人風に言えば竜人だ。種族の特徴として筋力と魔力に優れ、俊敏と器用さにマイナスの補正がかかる。ありていに言えばバリバリの火力職だな。弓のエルフ、槌のドワーフ、槍のマーマン、剣のヒューマン、拳のライカンスロープと同じようになんでもありのドラゴニュートと言われている。まあ、貧乏魔法戦士乙wwとか笑われてるだけなんだけどな。器用すらつかない時点でその性能はお察しだ。


 ま、不遇されるのも仕方ないだろう。

 VRMMO技術が浸透して、つい五年前に嗅覚の再現に成功したばかりのこのご時世、世界には様々なVRMMOが溢れている。このマジックドラゴン・オンライン、略してMDOもその一つだ。

 ファンタジー、アクション、クリエイト、エンゲージ、テイムと王道も王道揃いのMMORPGで、毎年のようにMMOランキング争いを僅差で勝ち負けしている人気タイトル。リリースは五年前と新顔ながら、老舗のVRに負けていないんだなこれが。


 このMDO、名前にドラゴンと付いているだけあってドラゴン型の敵が多い。各種族各職には大抵四つか五つ、ドラゴンキラー属性のスキルがある。武器や防具も上位になるとまるで対ドラゴンがデフォのような扱いだ。

 どんだけドラゴン嫌いなんだ、ってネトゲで半竜半人。

 そりゃ不遇もされるよ。ドラゴンキラーとか、ドラゴニュートにも効くし。あー、ヒューマンキラーとかエルフキラーとかドワーフキラー実装されないかなぁ……ヴァンパイアキラーくらいならそろそろ実装されそうなものだが。


 私怨はともかく、ドラゴニュートは魔法も武器もいけるのにマイナス面が強すぎて不遇されまくってる……という性能的な面だけが嫌煙されている理由ではない。

 そもそもVRというからには、人が中に入っている状態だ。

 そんな中で……明らかに竜の頭が乗っかってるドラゴニュートを、選ぶのかって話だ。

 そりゃぁ中にはそういう奴もいる。この前なんかお前、わざわざ隠蔽スキル使いながらドラゴンの群れに混じってPKなんだかMPKなんだか分からんような事をしてた馬鹿もいるし。まあエルフが放った広範囲の弓技食らって隠蔽が解けてドラゴンにフルボッコにされてたが。


 不遇要因は姿形だけじゃない。

 ドラゴニュートの尻尾は、長いのだ。

 マーマンやライカンスロープなんかもヒレや尻尾はあるけど、奴らの尾は軽い。姿勢制御の観点で有利に立てる分、むしろ好まれてすらいるのだ。ライカンスロープのはモフモフだし。


 それに比べてドラゴニュートの尻尾は長く、重い。長さは最低が身長の三分の一、最大が身長とほぼ同じで、重さも大体似たような割合だ。元々人間に付いていない尻尾は、気が付くと引き摺っていて無駄にダメージ食らってたり戦闘中に勝手に動いて味方を襲ったり、腰に力が入らなかったりと、他の種族に比べて格段に動きが鈍るのだ。VRのアクションRPGでこれはデカい。下手をすればレベル15のプレイヤーでもレベル1の他種族に負ける事もある。職の相性によってはその差が酷く広がる事もある。俺の知り合いはそれが原因で引退しかけた。数少ないドラゴニュート仲間なので必死に説得してどうにか引退はやめてもらったが、彼が戦場に戻ってくる事は無かった……あ、涙が。


 そんなこんなで、ドラゴニュートは不遇種族だ。去年の統計では全体の5%もいないって言われてさ。エルフはいいよなぁ、耳が長くて美男美女なだけで36%ってなんだよ。中身のコンプレックスをゲームに引き込むなって話だ。


 おっと、またもや私怨に引き摺られそうになったな。悪い、どうも最近話が飛び回ったり独り言をする癖がついてな。主に俺の目の前で二人の世界に入り込むバカップルのせいで。

 とにかく、俺の種族は何かと不憫なドラゴニュートだが特段不満を感じている訳ではない。

 むしろ大好きだ。ドラゴンの一族というだけで選ぶに値する。伊達に竜の使徒を名乗っている訳じゃ無い。俺は無類のドラゴンマニアなのだ。

 それに……他はともかく俺は強い。


 三か月毎の種族内闘技大会では何度も何度も優勝しているし、攻略の最前線に行っても見劣りしない腕を持っている自信がある。むしろソロでパーティーとタメ張れるトッププレイヤーと言っても過言ではない。あ、ちょ、石投げないで! ごめん、でも事実だからやめて魔法投げないで! こら! この防具修理費めっちゃ高いんだぞ! 腐食魔法なんか使うんじゃありません! 対人でそれやったらリアルアタックされるからな!


 コホン。

 そんな俺だが、一年ほど前から最前線に行くことは無くなった。

 ネトゲではたまにある事なんだけど、あるクエストの前提クエストをやってなくて、それが最初の町でお使いしてこいってクエストだったんだよな。当時は面倒くさいわりに経験値そんなに貰えなかったからスルーして忘れてたんだけど、そのNPCがアイテムを受け取らないと謎の邪神アクールが封じられている壺が壊れるんだよ。そうなるとクエストは強制失敗。始まりの町にそんな物騒なフラグ置いとくなよってつい絶叫しちまった。


 面倒くさいけどやるしかないか、とテイムした愛竜に乗って始まりの町に戻り、クエストを受けたんだ。新人ばっかりの中で、サバに何個も無いような武具で身を固めたドラゴニュートが飛竜から降りてきた。こう聞くだけでどれほど針の筵だったのか容易に想像は付く筈だ。


 周囲の視線から逃れるようにNPCのお姉さんに話しかけ、伝統の糊ってアイテムを受け取って骨董屋に行ったんだ。これだけならVRどころかMMORPGをプレイしたことのある奴なら大なり小なり経験している筈だったんだ。

 ところがそうは問屋が卸さなかったわけよ。まず骨董屋のドア開けるだろ? そしたらさ。


 ライカンスロープの少女がヒューマンの少年を押し倒してたんだよ。

 しかも見つめ合ってやがった。

 これは事案かな、とGMに嫉妬報告を送りかけたその時、不意にヒューマンが俺に声をかけてきたんだ。


「あ、ちょ、そこの人! ちょっと助けて! この子さっきから全然動かなくなって動けないんです!」


 声というか、救援要請だった。

 おそらく、リアルで誰かに無理矢理VR機をひっぺがされたのだろう。正規の手続きを踏まないままログアウト出来ると、それを悪用して本来ならログアウト不可能なエリアでログアウトを繰り返す廃人が現れるからな。その対策に三十分くらいアバターが放置されてからログアウトするんだ。リアルの事情に巻き込まれたヒューマンには同情する。


「幸運な変態が人に見られたからって慌てて態度変えんなよ、見苦しい。殺すぞ」

「ラッキースケベって言ってくださいよ! そのままだと犯罪者みたいじゃないですか! あ

と物騒です!」


 チッ、と舌打ちをしてから仕方なくライカンスロープの少女を引っ張った。掴んだのはもちろん尻尾。ライカンスロープのウィークポイントだけど、中の人いないし町の中だからダメージも無い。下手に担いで体が触れてる状態で戻ってこられて、GMを呼ばれるのは御免だ。

 あまりにアレな救出方法にヒューマンが「もうちょっと優しく起こしてあげてください!」とか言っていたが、自慢の尻尾(鱗付き)で叩き落とさなかっただけマシと思ってもらおう。


「それで? 助けた相手にお礼も名乗りも無しか、最近の新人は」


 ゆとり世代の親を持つクソジジイキャラみたいな奴だな、と思っていると、ヒューマンは思

い出したように手を叩き、頭を下げた。


「ありがとうございました! 僕、今日からこのゲーム始めたラガルトって言います。えと、

あなたは……」

「俺はドラゴンアポスルだ」

「ドラゴンアポルスさん?」

「アポスル、だ。長いならアポとかアポルで良いぞ」


 長名のネットゲーマ―は略称を自分から言っていくのが礼儀だ。ドラゴンの方にしなかったのは単純。ドラゴニュートにはその類の名前が多いからだ。


「じゃあアポルさんで。アポルさん、良かったら僕にこのゲーム教えてくれませんか? あと

この子にも」

「はぁ?」


 驚いた。

 何が驚いたって、こいつなんでネトゲ初めてすぐにこんなフレンドリーに接せるんだって所だよ。俺なんて同じドラゴニュートにすら声かけられなくて、ずっと森の中を一人で彷徨い歩いていたっていうのに。まあ、だから強くなったってところもあるけどさ。


 自分の悲しい境遇は一先ず置いておいて、こいつの提案を少し考えてみた。

 今、俺は最前線で暴れに暴れている。現在のMDOでは四つまで職に就けるんだが、戦士職と回復職、そしてテイム職の三つがあったおかげで、他パーティーからの支援なく暴れられていた。ちなみに四つ目は当時実装されたばかりで、何にしようか悩んでいたところだった。


 つまり、攻略については差支えがなかった。

 ……逆に言えば、それは未来において不安が残るという事だ。

 今はまだ一人で戦えている。あと一、二年は大丈夫だろう。

 だがその先は?


 きっと、とんでもない大群や負ける事前提のボスキャラみたいな強さの奴らがうじゃうじゃ出てくることだろう。それでも捌く自身はあるけど、流石にそんなダンジョンが来たら時間的な問題で無理が出てくる筈。そうなれば人付き合いの苦手な俺の事だ、あっさりと前線から脱落してアポルオワコンのスレが立ちまくるだろう。

 ……想像しただけで寒気が走る。


 しかし、そんな冬眠まっしぐらな未来もこのヒューマンとライカンスロープがいれば、回避出来るのではないか? と思う。今の内に恩を売っておいて、なし崩し的に固定パーティーを組む。そうすれば前線入りが少し遅れるだろうけど、確実にこの先もMDOを楽しめる。

 うん、これは良い拾い物をしたかもな。


「そうだなぁ……ま、俺は良いぞ。ただし、合わなかったらすぐに捨てるからな。自然体で楽

しめないパーティーに長居はしない主義なんでな」


 その主義のせいでリアルは愚かネトゲにもあまり友達いないんだけど。いいさいいさ、俺には関係ないね。友達とか時間の無駄だし、自由にバイトできなくなるし。


「そうなんですか……分かりました。全力で仲良くやっていけるよう頑張ります!」


 何この眩しい子。光系の盲目デバフですらこうも見えなくなることは無いんだけど。これが若さか……いや、俺もまだ未成年だけどさ。


「そ、そうか。じゃあ頑張れよ。っていうかよろしくな、トカゲ」

「誰がトカゲですか!? それ言ったらアポルさんの方がよっぽどトカゲ……」

「おう、ドラゴンをトカゲ呼ばわりとはまた随分な野郎だな。食うぞ?」

「ごめんなさい! ああ、牙をガチガチ鳴らさないで! でもなんでトカゲなんですか?」


 え。そりゃぁお前、決まってるだろ。


「ラガルトってポルトガル語でトカゲって意味だぞ?」

「え、ほんとですか!? 全然知りませんでした」

「お前な……自分の名前の由来くらいしっかり確認しとけよ」


 ヒューマン改めトカゲは「僕、トカゲなのか……」と蜥蜴に失礼なショックを受けて項垂れ

た。豚とか牛よりマシだろ。


「……はっ! ごめんなさ……きゃあ!? なんでこんな姿勢になってるの!?」


 お? ライカンスロープが目を覚ました。って、ああ……そういえば尻尾引っ張ってそこらに放ったから、お尻を付きだした状態でうつぶせになってたんだな。ふむ、確かに乙女的にアウトな絵面だな。


「お前がそこのトカゲの布団になってたから、ぺいってしたんだよ」

「女の子なんだからもう少し優しく……ってあなた誰?」


 不審者を通り越して変質者を見るような目で見られた。おい、この俺の見た目でそういう目をするのかおのれは。まあネトゲで外見と中身が一致しないのは当たり前だけど。


「お前をぽいっとしたドラゴンアポスルだよ。あと、お前らの指導役に、された」

「……警察呼ばなきゃ」

「混乱しているようですが話は簡単です。ゼロとイチがとんでもない確率でトッププレイヤーの俺とピチピチの新人であるお前らを引き合わせた、というだけの事。んで、そこのトカゲが俺にゲーム教えろっていうから、しゃあねぇな、と」

「なるほど……って勝手に決めないでよトカゲ君!」

「ラガルトだよ! ポルトガル語でトカゲだけどラガルトって呼んでよ!」


 なんだこいつら。やけに仲がいいな。恋仲か?


「それは、勝手に決めたのは悪かったとは思ってるけど……でもベテランに教えて貰えるなんて、僕たちは運がいい方だよ」

「う~ん……そう言われるとお得感が出てきたかも」


 夕方の総菜か何かか、俺は。


「分かった。私はシャナです。よろしくね、えっと、ドラゴンアポルスさん?」

「アポスルだ! ええい、夫婦揃って同じ間違いしやがって! アポルと呼べ、アポルと!」

「誰が夫婦ですか!」「誰が夫婦よ!」

「息ピッタリじゃねぇかこのお似合いさんめ!」


 すると一転、二人してアバターの顔面が赤くなった。いや、ライカンスロープの方は顔色とか無いに等しいから頭上の///マークで判断したけど。

 なんだ? 照れるところも同じですか? 何こいつら。マジ新婚か何かなの? ハネムーンにMDOとかMDO舐めてんのか? いや、でもまぁ……


「面白いな、お前ら」


 こんだけスムーズにツッコミが炸裂したのは久しぶりだ。この爽快な気分、悪く無い。

 気に入った。


「面白くありません! からかわないでくださいよ!」

「いやいや、そういう面白さってただ強いだけよりよっぽど珍しいし、良い事なんだから誇れよ。俺はお前らを歓迎するぜ。そして存分に可愛がってやろう、それこそ目に入れても痛くない程にな!」

「え、怖い。ねえラガルト、やっぱりやめておいた方が……」

「……僕もそう思う」

「言っておくがもうスクショは撮ったからな。一度俺を頼っておいて逃げ出そうなんざ、お天道様が許しても俺の愛竜イフィルニが許さん!」

「誰ですか!?」

「強引すぎよ! 別に私たちはあなたがいなくたって……」

「そうと決まれば早速『暗闇の森』に行くぞ! 装備は歩きながら適当にオークションで買ってやるからよ。レベル1で装備できるギリギリの装備で最強のやつを見繕ってやる」

「そんな申し訳ないです! でもちょっと欲しい!」

「私達もうレベル3よ!」

「ウダウダしてんじゃねぇ、ドングリビギナー共。大丈夫、俺の資産からすれば雀の涙の百分の一にも満たないくらいだから!」

「やばい、とんでもない人に頼んじゃったかも……」

「……まあ、悪い人では無さそうよね」


 ごちゃごちゃ言う二人を半ば強引に引き摺って行く形で歩きだし、最寄りの狩場へと足を踏み入れるのだった。

 面白そうな人材を見つけた幸運と、これからの未来に祝福……の魔法を使いながら。



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