ドナンは悪巧みを諦め、スドは額のラクガキにやっと気付く
この辺りで目立った報告が上がっていたモンスターは以上。そう聞いて、ノーワンアトライトはガッカリした。今日は引き揚げる事にする。
行きと同様第三騎士隊を先頭に、ドナンと後ろを歩いて行く。
狼は肉が臭く食えないというので、毛皮だけ剥いだ。アヤナが一頭辺り1分程で処理、元自衛官でレンジャーだった経験が活きている。
ノーワンアトライト「「「強いモンスが湧きますように!!」」」
祈ってから残った肉は森に投げ込んだ。
そんな祈りは迷惑だ!…そう言いたかったが、ドナンやガニル達は言えなかった。
熊とデビ熊は第三騎士隊に馬車を取りに行かせて運ばせた。数台の馬車が騎士隊の中央付近をガラガラ進んでいる。
サド「どうだ?レベルアップした感じするか?」
リッカ「微妙。レベル2のスキルとか使えないし…今夜は熊鍋?いやステーキ?熊のラードって美味しいとかなんとか…。」
ミココ「あの程度だったら、一人百匹とか狩らないとダメなんじゃない?…弱い。」
スド「そうだな。でも1レベ上げるのに百匹だったとしたら、元のレベル95迄はどんだけ掛かるんだか…。」
聞き耳を立てていたドナン達は、顔を強張らせている。話しぶりからして、彼等の基準で最高はレベル95、今がレベル1…最弱らしい。
なのに今日の彼等の戦果は、ドナン達が半年前に赴任して以来今日までの戦果を上回っている。
(ヤバい。なんか機嫌悪そうだし…。)
ガニル「いや皆様は凄ウデです!素晴らしい!」
ドナン「これで近郊の農場への被害も収まる事でしょう。お手柄ですな!」
ドナン達は、道々、引き攣った笑顔でノーワンアトライトを褒めるが、彼等は面白く無さそうに頷いていた。
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やがてドナン邸に辿り着いた。
2km程先に街、更に2km先にゼークス城が有る。
サド「そう言えばドナン。」
ドナン「はい!何でしょう。」
精一杯の笑顔で、ドナンは返事する。
サド「そこのスドがアリエータを気に入ってな。彼女はスドの婚約者になった。」
ドナン「はぁ!? 」
スドは一歩前に進み出ると、自分ではイケてると思う表情でドナンに笑いかけた。いや確かに端麗な美貌なのだが。
(こ…この額に目の落書きがあるガキが!? )
リッカ「それ、どういう事か解る?」
ミココ「もはや彼女は私達の身内。」
いつの間にか、リッカとミココが左右に居てドナンを間近から見上げている。彼女達は微笑んでいるが、くっきりした目が笑っていない。
姉妹なのか?人間離れした美貌の少女に挟まれ、嬉しいような。しかし、人間離れした彼女達の戦いぶりを見たドナンは素直に喜べない。
ドナン「貴女様方の身内…。」
アヤナ「そう。手出しする者は、我々ノーワンアトライトの敵って事になるね。」
ドナン「ヒィ!? 」
真後ろからアヤナの声。
振り返ると彼女も間近に立ち、ドナンを美しい笑顔…笑っていない大きな目で見つめている。
ドナンは大きく頷いた。
この警告が解らない程のバカでは無い。
スド「一筆書いて貰いましょう。なに、簡単な文書で結構です。万一貴方の部下が勝手に動いても、貴方の責任だと解る内容ならば…。」
(このふざけた落書きのガキは、なんで王宮の官僚みたいに如才無いんだ?)
そこにスドが身を寄せて囁く。
スド「僕達が王都に行ったら、何か理由を付けて呼び戻してあげますよ。だから…ね?」
ドナン「ぜ、是非お願いします!それが叶うなら無理に婚姻など…お願い致します。」
(鞭と飴…本当に如才無い。)
ドナンは例の計画を完全に諦めた。
こういう奴を敵に回した結果が都落ちだった事を、思い出したのだ。
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ゼークス城
第三騎士隊にデビ熊2頭、熊1頭を持って来させる。残り熊1頭は狩に付き合ってくれた礼代わりに、ドナンにくれてやった。
辺境騎士団員達「「「これを…貴方方が?」」」
ゼークス「素晴らしい!これじゃドナン子爵も形無しだな!たっぷり報奨金を出さねば!」
更にインベントリから狼の毛皮を取り出して渡す。ついでに、ドナンがアリエータに手を出さない約定書もゼークス辺境伯に渡した。
ゼークス「え!? 今朝頼んだ事が、もう文書に!?」
(ちょ!?優秀過ぎない!?)
スド「恥ずかしながら我々は、まだこちらの文字が読めません。どうか内容をご確認下さい。」
何度も礼をいうゼークスに笑顔で返礼する。狩りの後とて城のお湯を使わせて貰い、その後集合してクラン会議を開く事にした。
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サドの部屋 居間
賓客用だから各部屋に居間と寝室が有る。扉で分かれており居間には暖炉が有って、お茶くらい飲める様になっている。
会議はサドの部屋で行う事になっており、風呂を出たメンバーは順次集まって来た。
アヤナ「ふぅ~っ!やっぱバスタブにお湯を注いで貰うってのは、慣れないね。」
リッカ「狩の手応えはSS以上だけど、汚れるわ匂いは着くわ、後始末が大変だねぇ。」
二人はジャージ姿で頭を拭きながら、ブツブツ文句?を言っている。色違いのジャージの背中にはノーワンアトライトのシンボルが入ってる。
クラン対抗戦で、勝利クランのみ作る事を許されたお洒落ジャージだ。
ミココ「SSの部屋家具にお風呂有ったけど、他人様の城に設置する気はしない。」
ミココはSS内では装飾・家具制作のスキルを持っていた。彼女の家具類は結構人気で、その売上はクランの資金源の一つだった程だ。
SSでは当然と言うかマイホームシステムが有り、金やスキル次第ではマイデザインの城も持てた。戦闘は最小限参加で、物作を楽しむ人も結構いたのだ。
サド「拠点を決めたら城を建てよう。ミココの風呂は当然として…温泉探さないか?」
因みにリッカは食事とお菓子の制作スキル、アヤナは農場を得意としていた。スドは武器防具制作、サドは建築と男性陣は実用スキルだ。
バタン!
スド「コラ~ッ!誰だ~~っ!? 俺の顔にラクガキした奴は!」
駆け込んで来たスドが怒ってる。風呂場でメイドが教えてくれ、やっと気づいたらしい。
スド「いったい何で書いたんだ!? どうやっても落ちん!…せっかくイケメンに生まれ変わったのに!」
主犯のリッカとアヤナが、ヤバっ!て感じで顔を見合わせる。あれ?…どうやったら落ちるんだ?
スド「あ!お前らか?お前らだな!よくも~!」
あちゃー、という表情でサドは軽く両手を挙げ、肩をすくめてミココを見る。ミココはサドの目をチラ見して、タオルで髪を拭き始める。…今は静観。
リッカ「…………スドお兄ちゃん!」
アヤナ「お、お兄ちゃん~!」
リッカとアヤナが涙目でスドに抱きつく。左右から美少女に抱き付かれ、スドの表情が緩む。
スド「そ、そんなんで、ごまかされないからな!」
そう言いながらスドは二人を振りほどかない。よく見れば両腕にリッカとアヤナの胸が当たってる。あざとい攻撃だ!
リッカ「ほんの、イタズラのつもりだったの!」
アヤナ「私達ワケの解らない世界に来て!ジョークで気持ちをほぐそうって…。」
スド「そ、そりゃ解るけど。だからってだな…。」
リッカ・アヤナ「「ごめんなさい!」」
二人はスドの腕を捕まえて、それぞれ胸に押し付けている。ジャージ越しのノーブラらしく、スドが嬉しそうな顔になってくる。あぁチョロい。
リッカ・アヤナ「「お願い!許して!…お兄ちゃん!!」」」
スド「おに……。」
釣れた!リッカとアヤナの目がキュピーンと光り、両側からスドの耳元に近寄り…。
リッカ「お兄ちゃ~ん。」
アヤナ「許して~!」
トドメに左右からチュッ!とキス。
スドはデレ顔になったチョロい。
いいのかスド!それ消えないかもだぞ!
スド「許…す…。」
リッカとアヤナは笑顔で歓声を上げる。
リッカ「さっすがスドお兄ちゃん!心広~い!」
アヤナ「器大き~い~!」
スド「は…ははは!解ったよ。うん、お兄ちゃんだしな!でも、もうやるなよ?」
リッカとアヤナは神妙な顔で頷いた。
チョロいっちゃチョロいんだが、スドのこういう女性に弱いとこは、クラメンに愛される部分でもある。
ミココ「そろそろクラン会議始めるよ~。」