11-5 清流の秘密
アリドが部屋を出たのは丁度良い時間らしかった。
テーブルの側で丸くなって寝ていたデュマーの耳が物音を探るようにピンと立ち、おもむろに起きあがる。
それが合図だったのか、少し離れた場所にいた羽織達も中央に集まってきた。
リトと弓がいないので部屋を見回すと、一つのドアがゆっくりと開き、そこから二人が出てくる。 誰にでも分かるくらいリトの表情は固かった。
「ネー アンタタチツテ スゴク タイセツニ サレテタンダネ」
いきなりデュマーが感心したように告げた。
「キョーイクカカリ ダケジャナクテ アンタタチニモ マモリガ ツイテタ」
「ほぅそうかい。 アカシックレコードへのアクセスが難しかったかい」
「マーネ サテサテ」
デュマーは自分を取り囲んだ彼らをぐるっと見回していきなり話し出した。
「マズ タマノ カタチ ハ 108 シュルイアル」
「108か。 108種類の珠のうち、65種類の珠を使うのか?」
「イーヤ クミアワセハ オナジシュルイモアル」
「つーことは、使われる珠の形は、1種類から65種類」
デュマーが佐太郎の確認に頷く。
リトはテーブルの上に散らばる小豆サイズの珠に目をやった。 ちょっとした小山になっているそれはどう見ても65個より多い。 珠の種類が108あるのなら、それぞれ5色のパターンがあるとしても540個。 ……いや、多分それよりも多い。
「最初にはまっていた透明の珠の形を調べれば、種類はすぐに分かるぜ?!」
勢いよく世尊が発言する。 清流が一つの透明の珠を手に取ると、そこには確かに凸凹の模様がついている。 だが。
「無理だね」
清流が呟いて机の上の珠のうち透明なものをざっと分けたが、一瞥しただけでその数は65を超えている。
「サアテ」
そこまで言ってデュマーがコホンと咳払いをする。
「ココカラガ モンダイ イマカラ ヒミツヲ ヒトツ バクロ スル」
リト達はごくりと唾を飲んだ。
「コノ タマノ ナラビト イロヲ シル ホウホウ ドッチガ シリタイ?」
「色を知る方法」
佐太郎が迷わず答える。
「ンジャ トーメイノ タマヲ ヒトツ モツテキテ アト オサラニ スコーシダケ キレーナ ミズ イレテ」
言われるがままに弓が透明の珠をデュマーに渡す。 佐太郎はまたどこからか手の平サイズの小皿を出し、そこに手持ちの清水を入れた。
デュマーの手がゆっくりとお皿の中央に珠を置く。
「コレハ オタメシ ダカラネー ミンナニ ミエルヨウニ シテ アゲル」
珠は静かにその身を清水にひたし、何の変化も無い。
が、1分くらいたっただろうか、デュマーは珠に触れて向きを変える。 すると珠は一度くるっと回転した。
そして再び、部屋に静けさが訪れ――
「あ」
その珠が小さな灯を点すようにふんわりと赤く輝く。 儚げな美しい光に、リト達が「うわあ……」と溜息にも似た深い呼吸をすると、ほどなく光は静かに消えていった。 その点灯時間、わずか――
「30秒ってことか」
冷静な眼差しの佐太郎が言った。
「ソー。 コレハ キヨイ ミズニ イレルト ジブンノ イロヲ オシエルンダナ。 デモ」
デュマーはそう言って手近にあった珠を一つ取り、同じように清水の張られた水に置いて、今度は1分たっても珠に触れずにだまって見ていた。
すると、珠の輪郭が薄茶色に変化しはじめたかと思うと、みるみる間に焦げ茶色に変化し、乾燥するかのようにひからびてしまった。
「コノタマハ イキテル。 ダカラ ウゴカシテ アゲナイト シヌ」
デュマーはその萎びた珠を掴むとあーんと大きな口を開いてパクリとおいしそうに食べた。
「動かないと死ぬって、どの位動かなかったら駄目なんだ?」
「サイショハ 1フン ツギカラハ ソノ バイ 」
「1分後、2分後、4分後、8分後ってことか?」
「ソー 1カイメヲ ノゾイテ ゼンゴ 1プンノ ヨユウアリ」
「1分後に動かす。1分後~3分後までに動かす、3分後~5分後に、7分後~9分後にってことだな。 何回だ?」
「イチド ヒカツタラ モー ソノアトハ ヒカラナイカラ ヒカルマデ。 サイコー13カイ」
「1分、2分、4分、8分、16分、32分、64分、128分、256分 512分 1024分 2048分、4096分…後」
世尊が指を折って回数を数えながら分を数えた。
「4096分って何時間後だ?」
「2日と20時間16分」
アリドが即座に答えた。
「ずっとその間、光るまで見てろってか? しかも色は、その色が見える奴にしか見えねぇんだろ?」
そんな無理な、と、リト達誰もが思った。 しかしデュマーは「マツサカァ」と高らかに笑った。
「デ ココカラノ ヒントハ ヒミツト コーカン」
リト達がゴクッと唾を飲み込んだ。、
「デモネー アクセス デキナカツタカラ ヒミツガ ワカラナインダヨナァ ダカラ」
その瞳がいたずらっ子のように輝く。
「イマネ ミンナニ シラレタクナイコトヲ バクロスルコトニシタ。 セイリュウ!!」
デュマーは高らかに清流の名を呼び、リト達は一斉に彼を見た。
「僕?」
清流は気だるそうに返事をする。 自分には何の心当たりも無いといいだけに。
「セイリュウハー」
しかしリト達はごくりと唾を飲んで続きを待った。
「セーリューハァ コノマエ ツバサゾクカイニ イツタトキ- ジブンノ ツバサヲ ズーツト ダキシメテタ! ネルトキモ!!」
【清流はこの前、翼族界に行った時、自分の翼をずっと抱きしめていた、寝るときも。】
その言葉に、正直、リト達は
「?」
首をかしげた。
――それが清流くんの秘密っ?
リトは清流の顔を見たが、多少強張ったようにも見えなくもないが、いつも通りのポーカーフェイスである。
――翼を抱きしめて、って所が、ぬいぐるみと一緒じゃなきゃ眠られない、みたいな感じ? そこが恥ずかしいとか?
ぶっちゃけ、その程度のこと、リトはどうでも良かった。
だって、自分の翼がやっと手に入ったのだから抱きしめていたくもなろう。
他のみんなもそう思ったのだろうか、明らかにしらっとデュマーを見つめていた。
「アレー?」
みんなの反応がないのでデュマーが不思議そうに大声を上げた。
「さ、僕の秘密とやらを話したんだから気は済んだろう? さっさとこの先のやり方を言ってよ」
清流がピシリと告げた。
「シカタナイナァ・・ ジカンガキテ タマヲ ウゴカストキニ クルクルツト マワッタラ ソノ ジカンタイデ ヒカルヨ」
「ああ、さっき回ったときのこと。 そのくらい予想がついてたよ」
清流が言い返したのでちょっとデュマーがふくれる。
「まあまあ、清流! 大人気無いぜ! つまりデュマー、1分後とか2分後に珠を動かしたときに珠が自分でクルッと回らなかったら、次に回すまでの時間は光らないってことだよな?!」
「ソーソー。 ソノトキハ ツギニ ウゴカス ジカンマデ ジツトミトク ヒツヨーハナイ」
デュマーの機嫌を損ねないようにだろうか、世尊が明るくとりなした。
「それじゃあ珠が回るゾーンだけ気合い入れて見ればいいだけだぜ! な! みんな!」
「……世尊。 馬鹿でしょ」
清流が呟いた。
世尊は気づいていなかったが、リトも気づいていた。
「例えば2048分後に回転したとすると、光るかもという時間はそれから2048分の間。 つまり丸一日と10時間8分。 つまり最悪、それだけの間ずっと、いつ来るか分からない約30秒の光る瞬間を待ってろってこと」
「セイカーイ♪」
デュマーがご機嫌に手を挙げた。
――絶対、無理だって……
リトの背筋に冷たいものが流れはじめた。




