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11-3 大前提  対価

デュマーが可愛らしい瞳でみんなを見回した。


「ナンドイッテモ ワカンナイヤツガ オオイカラー タシカメルケドォ― ……ワカッタ?」

「まーな」


 佐太郎が不満そうに頭をボリボリと掻いてテーブルの上に置いた珠に視線を向けた。

 デュマーの説明。

 それはまず、大前提として

【死に神やデュマーと人間は双方、直接的に傷を負わせることはできない】

 ということ。

 勿論、死に神は鎌を持っているのでそれで魂と肉体を切り離せば人間は死ぬのだが、それはあくまでも行程と結果であって、それ以外の方法で死に神は人間を死に至らしめることは不可能であり、また逆に人間がいくら死に神に攻撃を加えようとも次元の違う彼らに「死」という結果をもたらすことは無理ということだった。 

 ではラムールがやっていたのは何かというと、一度も死んだことのない魂――処女魂――を使っての特殊な封印作業でるが、その過程で一度自らの血を死に神に触れさせて情報を与えてしまったため再度の封印はおそらく無理。 できたとしても封印時間はほんの数年であろうということ。


「サ゜ーンネン ダッタヨナー アノ フーインガ セーコーシテタラ オマエタチガ イキテルアイダハ アンゼンダッタノニ」


 デュマーも何故か少し残念そうにぼやいていた。

 そして大前提の補足として、

【契約期間中は双方の同意がないと期間を延長、終了することはできない】

 とのことだった。 

 つまり期限を延ばして欲しいと人間が思い、それに死に神が同意すれば伸びるのだ。 ただしそれには死に神を満足させる何かが必要となる。 逆も然りで、人間が諦めてしまえば死に神は予定より早く魂を刈ることもできるのだ。


「ジュミョージャ ナイカギリ ケーヤク キカンチューハ シナナイカラ ソレガ オトクトイエバ オトクカナ」


 大きな尻尾をふりふりさせながらデュマーが小首をかしげ、あまり意味のないお得さをアピールした。

 そして本題。

 波紋解除の方法だ。

 正確には「波紋解除」ではなく「契約終了」にあたるとデュマーは言った。

 そもそもこれは、罠をしかけた者と死に神の約束。 死に神は死の液体により罠にかかった者を、罠をしかけた者が来るまでの間、捕獲しておく、そういう約束。 石碑に珠を埋め込む作業はいわば契約終了のコードだ。

 石碑には13列5段のくぼみ。 ここに正しい色のものをはめ込んでしまえばそれで良い。

 契約をした者はその並びを知っている。 簡単なことだ。

 それが分からないリト達は透明の珠を一定の条件下におけば、ある時に正しい色で光るそうなので、それをしなければならないのだが、リト達はその前に――


「珠の形が実は全部違うってか?」


 アリドが珠に手を突っ込んで平らにするように表面を転がした。

 一見、同じ形に見えたそれだが、言われてみると半面に凹凸や溝がありそれぞれに模様が違う。 模様が違うということは、石碑にはめたとしてもきっちりとはまっていない、つまりは間違えているということだ。


「例えば一番右上が青色の珠だと分かっても、そこにはめる珠の溝の形が一致してねぇと間違いってことになんのかよ」

「ソー ソー」


 理屈では分かっても、このバラバラになった珠のどれが石版のどこにはまっていたかなんて分かるはずもない。


「しかも、透明の珠を光らせるための一定の条件下ってのは、タダじゃ教えらんねぇときた」

 佐太郎がボリボリと頭をかき、リト達は押し黙った。


「エヘー」

 デュマーが真似してポリポリと頭をかく。


 極めつけのデュマーの申し出。

 それは、珠の並びか珠の色を知る方法等、これ以上何か知りたかったら対価をよこせというものだ。

 対価。

 それが何なのか確かめきれずに皆押し黙っていたという訳だ。

 

「や……やっぱり、寿命……とか?」

 リトが恐る恐る口を開いた。


「イイヤ ソレハ イラナイ」

「いらないっ?」


 リトは声が思わず裏返ったが清流は冷静に呟いた。


「それはそうだろうね。 どうせ僕達が波紋解除に失敗したら魂を取られるんだもの。 今更、寿命なんかで取引するメリットは無いよね」

「そうだろっな。 ――んじゃあ、デュマー? やっぱり経験値か」

「アッタリィ」


 デュマーはパチンと指をならした。


「け…経験値?」

「ああ。 俺も文献で読んだだけだから確実にはいえねぇがよ、魂は経験によって磨かれる。 経験が磨くってのは、つまり、色んな感情を得るってこった。 喜怒哀楽だけじゃねぇ、悔恨慈愛、勇気、憧、嫌……つっこみどころは山ほどあらぁな。 んで、どーするつもりだ? デュマー」

「ココデ ダレカノ ヒミツヲ オイラニ バクロサセテ モラエバ♪ ――アア ヤッパリ ミーンナ カオイロガ カワッタ」

「余計な感想はいい。 そうか。 秘密の暴露か。 何人分だ?」

「ンート フタリデ イイ」

「この中から二人、抱いてる秘密を一つずつ、おまえが暴露する。 それが交換条件だな?」

「ソーソー」


 デュマーが頷くのを待って、佐太郎はみんなを見回した。


「てな訳だ」

「……それしか道はないんですよね?」


 羽織がちらっと弓を横目で見てから返事をした。

 頬がほんのり赤い。 おそらく羽織の秘密なんぞその程度のものであろう。

 佐太郎は小さく苦笑して頷く。


「トリアエズ ココロノ ジュクビ シタイ ダローカラ 10プン マッテ ヤルヨ」


 デュマーはそう言うとクルンと丸くなって眠るように目を閉じた。

 ふう、と息をついて佐太郎はその場を離れ、みんなを呼ぶ。

 それぞれに表情が固い。

 しかしそんな彼らを見て、佐太郎は安心させるように微笑んでみせた。


「なーに、気にするなって。 秘密の暴露っつったってなぁ、物事には理があって、明らかになる時期があらかじめ未来に予定されているものを前もって明らかにはできねぇんだ。 ってことはだ、そうたいしたモンじゃねぇ。 たいてい、ああ、そうだったのかと思える程度のもんさ。 本人以外にはな。 ただしやっぱり知らなかったことを知らされるから精神に動揺が走る。 ま、それでも魂の研鑽にはなるんだろうから、今は事情が事情だし、お互いに何を聞いても取り乱さない、それだけ心構えしておけばいいってことよ」


 佐太郎の言葉は結論なのだろうが、やはり、何を暴露させられるか分からないリト達にとって、今の心情は大いに乱れていた。


「10分か。 ……佐太郎のおっちゃん、俺、ちょっくら巳白に会ってくる」

「おう」


 佐太郎は優しく許可し、アリドは巳白が入っていった部屋の前に行くとノックをした。

 巳白の返事を聞いてアリドが扉を開けると、そこはやはりリトの開けた扉の先とは全く違う綺麗な部屋で、リトは思わず後について一緒に入りたいと思ったが、扉はリトを待つことなく閉められた。


「リト」


 リトの様子に違和感を覚えたのだろうか、弓が声をかけた。


「あ、弓。 わ、私達も一回、別の部屋でゆっくりしない?」


 リトは少し慌てながら弓を誘い手をひいて扉の一つを開けた。

 しかし中は、窓ひとつないあの部屋だった。

――弓でも駄目か

 リトの胸に失望が広がっていった。



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