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8-7新世との対面~新世が告げる

 会えて嬉しいと、用意していた言葉を発したラムールは、ほんの少し満足そうに息を吐くとリト達を見た。

 思わず視線が合ってしまったリトはとっさに横を向いた。


「……?」


 そこでようやく、ラムールはみんなの表情がおかしいことに気づいた。


「どうしたのですか?」


 その質問に目を伏せた皆とは逆に、清流がまるで書いてある文字を朗読するかのように答えた。


「母さんは、ラムールさんに会いたくないそうです」

「せ、清流!

 巳白達が慌てるが、それは清流の言葉が真実のものである証明にしかならなかった。


「だって、母さん、そう言ったもの」


 清流は少しも慌てず新世とラムールの顔を見比べる。 すると新世はなんということであろうか。 清流を見て嬉しそうに微笑んでいた。 ラムールに向けた冷たい眼差しとはうってかわって、愛おしそうに清流を見て頷く。


「おい、新世?!」


 佐太郎が思わず身を乗り出すが、ラムールが慌ててその服の裾を掴んだ。


「ラ……」

「本当? 佐太郎。 清流が言ったことは、本当?」


 小さく震えながら掴むその手を感じながら、佐太郎はただ黙った。


「本当なんだね?」


 青ざめたままラムールはその手を離し、問いかけるように一歩近づいた。


「新世?!」


 しかし新世は何も答えない。


「新世!」


 ラムールが叫ぶ。


「声を、声を聞かせてよ、姿を見せてよ、新世っ!」


 その姿は冷静沈着なラムールらしからぬ姿だった。

 すると新世が、ひとつ、溜息をつく。


「会いたくはないけど、あなたに言いたいことはあるの。 ――デイ」

「俺っ?」


 デイが慌てて自分を指さした。


「ええ。 この子には私の声は聞こえないから、私の言ったことをそのまま伝えてくれるかしら?」

「えっ? あっ、うん! 俺でよかったら」


 デイは慌てて新世とラムールの間に立った。


「せんせー! 新世さんが、言いたいことがあるって。 だから俺に伝えてって」


 その言葉にラムールの表情が明るくなる。


「ねぇ、デイ。 かなり厳しいことも言うわよって、まず伝えてくれるかしら? それでも平気?って」

「あのねせんせー、厳しいことも言うけど平気かって」


 ラムールは迷うことなく頷いた。


「何でも聞きますから、デイ、あなたも迷わず伝えなさい」

「うん。 えーと、まずね」


 デイが耳を澄ます。


「まず――怒っている……んだって」


 その響きにラムールは唇をぎゅっと噛みしめた。

 デイは耳に届く新世の言葉を彼女の発するニュアンスそのままに口にする。


「[私が、陽炎の館の子供達をどんなに大切に思っているかは分かっているわね]、って」


 ラムールは頷く。


「[ならなぜ、あなたも同じように大切にしてくれないの?]」


 新世がぐるりと羽織達を見回した。


「[みんなを放っておきすぎじゃない?]」


 その言葉にみんなが息を呑む。


「[ほとんど陽炎の館に寄りつかなかったでしょう? 今更近づくなんて、少し身勝手じゃないかしら? それから、デイにも厳しすぎるわ]……って、ほら、せんせー! やっぱりせんせーは厳しいからさぁ……」


 予想外に重い伝言の重圧を吹き飛ばそうとしたのか、デイがあえて明るく突っ込みを入れたが、「デイ。 良いのです。 続けてください」 と、ラムールは返事をした。

 リトは足下をみつめていたので、ラムールの表情は分からなかった。

 ただ、その口調は静かで、まるで感情が感じられなかった。


「……えー、と。 じゃ、続けるね、せんせー。 [――羽織達の15の祝いもすっぽかしちゃうし。 どんなにみんなが残念だったか、がっかりしたか、想像つく?]」


 リトもかつてラムールに問うたことのある内容だった。


「今は悪かったって、思ってる。 ごめんなさい」

「[今は、ってことは、そのときは悪かったって思わなかったのよね]」

「……」

「[どうなの?]」

「……そうなる……」


 ラムールの返事を聞いた新世が少し黙って、大きく溜息をつく。


「[もっと良い保護者になってくれると思ってたわ。 私や一夢が子供達を愛したのと同じように、慈しんで大切にして欲しいと願っていたのに]」

「……」

「[それに最近はデイの事も放置ぎみよね。 それで教育係と言えるのかしら。 放置といえば、最近は仕事にも集中できていないわよね? 本業に手を抜く子だとは思っていなかったのに。 つい最近だって、国の結界だって弱めていたからリトちゃんだって危険な目に遭ったし、義軍だって体調を崩したわ]」

「……」

「[それだけじゃないわ、どうしてリトちゃんが巳白と一緒に地下洞窟で遭難した時に、すぐ助けてあげなかったの? 巳白がスン村で捕まった時も、どうしてすぐに迎えに行ってあげなかったの? 一晩も放置して、どんなに巳白が不安になるか、考えてもみなかった?]」


 自分の名前を呼ばれて、巳白が顔を上げた。


「それは、母さん!」

「巳白は何も言わないで」


 ところが新世が間髪入れず制したので、巳白はぐっと言葉を飲む。

 新世は強い眼差しのまま、言葉を続ける。


「[翼族調査委員会がテノス国に来たときもそうよ。 あなたは何をしていたの? リトちゃんが狙われて記憶に負荷がかけられるような危険な目にどうして遭わせたの? それに]」


 デイは一瞬言葉に詰まってから、きちんと伝えるのを待っている新世の眼差しを少し反らしてから続ける。


「[それに。 アリドのことも。 アリドを除籍処分にしろなんて、私も一夢も望んでいなかったわ]」


 リトの心臓がドクンと音を立てた。


「[陽炎隊に命令してアリドを捕まえさせたわよね? 兄弟同士にそんな事をさせるなんて何を考えているの? 裁判の時だって、アリドを助けようとするデイを塔に閉じこめて。 あなたはアリドを一切助けようとしなかったわね]」

「……」


 ラムールはただ黙っている。

 そんなラムールを見ながら新世はもう一度、溜息をついた。


「[他にも色々あるけれど、その中でも一番、私があなたに会いたくない理由は――]」


 数秒間の呼吸を経た後、新世は表情を崩さぬままラムールに告げた。


「[どうして私と一夢のお墓に子供達を参らせてくれないのかしら?]」


 その言葉が発せられるのをラムールは予想していたのだろうか。 自分の足下をみつめながら「ごめん」と呟いた。


「[私は子供達みんなに会いたいの]」


 新世が告げ、そしてラムールの姿を見つめる。

 ラムールは顔を上げずに口を開いた。


「そう、だよね。 みんなに会いたいよね。 ――ごめん。 そして、分かった」


 みなの視線がラムールに注がれるが、ラムールは決して顔を上げずにそのまま続けた。


「用を思い出しました。 私は先に失礼します。 新世がここに居られる時間はまだありますから、あなた達はもっと話していて良いですよ」


 その口調は、いつもと同じ穏やかさのはずなのにどこか固くて。


「デイ」


 やっと顔を上げてデイを見たラムールの表情も、平然としているようだが、どこか固くて。


「な、何? せんせー」

「新世の言葉を伝えてくれて――ありがとう」


 微笑みすら、何かがおかしい。

 軽くデイの頭に、あやすように手を乗せて、ラムールはふわりと浮かび上がった。


「新世――。 ボクに、任せて」


 そう口にしたものの、見えない新世が相手でも目を合わせたくないかのように、ラムールは決して新世がいる方を見なかった。

 そして、その一言を聞いた新世は小さく唇を噛みしめる。

 ラムールはそのまま、もの凄い勢いで飛んで空の彼方へと消えていった。


「……」

「……」


 ラムールの姿を見送った後の少しの間、沈黙が場を支配したが、真っ先に口を開いたのは新世だった。


「デイ。 伝えてくれてありがとう」

「……いや、……うん」

「こうでもしないと、あの子はこの場から離れなかったでしょうから助かったわ」


 ほんの少し安堵したように新世が呟いたので、デイが思わず口にする。


「新世さん。 酷いよ。 せんせー、すっごく楽しみにしてたんだから」


 そんなデイを見て、新世は嬉しそうに目を細めた。


「ありがとう。 相変わらず優しいのね。 デイは」


 その聖母のような微笑みに思わず毒気を抜かれそうになりながらもデイが言い返す。


「そうじゃなくて! せんせー、ホントにホントに新世さんに会えるの楽しみにしてたんだって。 なのにどうして」


 佐太郎も怪訝そうに続ける。


「デイの言う通りだ。 あいつ、本当に楽しみにしてたんだぞ。 復活の儀式なんか簡単にできるモンじゃねぇんだから、会ってやればいいじゃねぇか」

「ええ。 あの子、楽しみにしていたでしょうね。 ――だから会いたく無かったの」

「だから……って、どうして、だから、何だ!?」


 戸惑う佐太郎の問いには答えずに、新世は弓達に向き直った。


「だってねぇ、貴方達。 私の言ったことは何も間違っていなかったでしょう? あの子はちゃんと貴方達の保護責任者をしていなかったのよね?」


 弓達は黙っていた。


「貴方達の世話もやかない。 私達のお墓にも参らせない。 15の祝いはすっぽかしちゃうし、アリドなんかは除籍処分になってしまったのよね。 ひどい保護者だって思ってるのではなくて?」

「それは……」


 みな、口ごもる。


「そうでしょう? アリド。 除籍までされたのだから、そう思うわよね?」


 新世が念を押す。

 アリドは黙っていた。

 新世はただ、待つようにアリドを見つめた。

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