8-5 新世との対面~異変
「ええっと、後は……」
新世はデイから視線を離すと、巳白を見る。 巳白は一呼吸おいて、「えーっと」と言いながら新世に近寄った。
「ええっと」
新世も同じように言葉を探す。
「巳白、最近は寒かったけど、風邪、ひいてない?」
「あ、うん。 全然元気」
「ええっと」
「……えーっと」
二人、少し可笑しそうに目を合わせたので佐太郎が呆れたような溜息をついた。
「なんだなんだ? おまえら、何話すか決めてなかったのかよ?」
「ヤダ。 決めていなかった訳じゃなかったんだけど……」
「うーん、そうっすね。 何か飛んじゃったっつーか」
新世と巳白はクスクスと笑いあった。
「やっぱり、みんなと会えると嬉しくって。 あれだけ考えたのに駄目ねぇ」
「はは」
巳白は頭をかいた。
「俺、もう胸いっぱいだから、いいですよ」
嬉しそうに口角をあげたまま、巳白は一歩、後ろに退いた。
それと同時におあずけを我慢していた子犬達のように義軍達が再び近づき新世を取り囲む。
「あのね、お兄ちゃん達、陽炎隊っていう、じけいたいのテストに合格したんだよ」
「ランクも着実に上がってるぜ!」
「母さん! 僕も神の樹から喜びの新芽を貰えるようになったんだよ!」
「あのね新世さん。 ぼくの勘ではいつか今度は一夢さんとも会えるような気がするんだ」
「私ね、アイロンがけが大分上手になったの。 この前の城下町祭りでは大会にも出て」
「一夢さんに伝えてくれる? 大剣はすごく使いやすいって。 あと、教えて貰った技もいくつかできるようになったって。 これからも大切に使わせてもらうって」
「それがさ新世さん、俺、旅していて不思議に思うことがあるんだけど」
ワッと彼らが話しかけてきたので新世は「あらあら」と笑う。
リトはそんな彼らを優しい眼差しで見つめているデイの横顔を見た。 デイもリトの視線に気づくと顔を向けて視線を合わせて微笑む。
「嬉しそうだなぁ、羽織達」
「だねぇ」
「りーちゃん、新世さんって本当に優しそうでしょ」
「うん。 美人だし声も綺麗」
「そそ。 あんな人を俺は小さいころ、怖いものだって思いこんでたんだからなぁ」
「あー。 わかるー」
リトは心の隅にちょっと残ったシンディの記憶を思い出しながら呟いた。
凶暴で、人を食べる、翼族。
怖くてたまらない存在。
でも、目の前にいる新世はそれとは対極の位置にある存在で、弓達の母親がわりの愛に溢れた存在。
――そういえば
リトはふと、レセッドのことを思い出した。
彼も優しかった。
愛するノアのために、呪いにて己の身を変えてでも彼女を守ろうとしていた彼。
人を襲う存在に堕ちてもノア、つまりシンディの側にいた。
――翼族は悲しいほど優しい
リトはラムールの言葉を思い出していた。
そして、詳しい事情は分からぬが、新世は優しいがために死んだのだろう
なんたが胸が切なくなった。
だから余計、我先にと一生懸命話しかける弓達に、良かったねと声をかけたくなった。
会えて、良かったね、と。
「――羽織たち、良かったなぁ」
同じことを考えていたのだろうか、デイがぽつりと呟いた。
リトは頷いて佐太郎に視線を向けると、佐太郎もリト達と同じような眼差しで新世と羽織達をみつめていた。
リトはそして、なにげなく、今まで忘れていたその人に視線を向けた。
間違いなくその人も同じ眼差しで羽織達を見ているはずだった。
だが。
「……せんせー?」
リトより先にデイが異変に気づき、突っ立っているその人の名を呼んだ。
しかし、返事は帰ってこない。
「せんせー?」
デイがもういちど呼びかけても、その声は耳に届いていないようだった。
ただ、一言、絞り出すようにラムールは呟いた。
「なぜ……?」
その一言でリトの血がスッと引く。
たった一言だったが、何か異変があったのは確かだった。
なぜなら、そこに突っ立っているラムールは、ここにいる誰よりも青くなって呆然としていたからだ。




