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1-4 陽炎の館

ゲンキンなもので、アリドと話せたことにより、リトの機嫌は急上昇。

 ルンルンと足早に白の館の自室に戻る。

 扉を閉めて、お札を貼って、ノックを5回。

 トン

 トン

 トン

 トン

 トン♪


「リト? どうぞ?」


 扉の向こう側から弓の声がする。


「おじゃましまーす♪」


 リトは気軽に扉を開ける。

 扉の向こうには、白の館の廊下ではなく科学魔法の札で道が通じた、陽炎の館の中の弓の部屋。


「あら、リト、いいことあったの?」


 弓が小ダオルを何枚か手にしたまま言った。


「アリドが来たよん♪」

「あらっ、聞かせて? でもちょっと待ってて」


 リトが扉を閉めると、弓は札を外して扉を開ける。

 札が無いので扉の向こうは陽炎の館の廊下。


「義軍の熱がなかなか引かなくて」

「ええっ、義軍ちゃん、風邪?」


 部屋を出て行く弓にリトもついてくる。


「ずっと鼻をグスグス言わせてたんだけど、一昨日から熱があったみたい」


 弓は義軍の部屋に入る。

 部屋のベットには幼い義軍が顔を真っ赤にして寝ている。

 弓はタオルを濡らして義軍の額にのせる。


「世尊くんは? お兄ちゃんが側にいるから心配するなって側で叫んでるかと思ったのに」

「世尊も来意も羽織様も、みんな魔獣退治に出かけているわ。 魔獣がいるとね、体調を崩しやすくなるの。 小さい子は特に」

「うっわぁ。 本当? なら気の入れ替えだとか1ヶ月とか言わないで、サクッと最初に退治してくれればいいのにねぇ!?」

「そうね。 原理は分かってるけど同感」


 弓もため息をつく。

 その時、階下の扉がガタガタと音を立てて、人の入ってくる気配がした。

 一つの足音は迷うことなく速効でこの部屋に近付いてくる。

 これはいわずともがな、世尊に違いない。


「義 軍 っ ! 」


 案の定、ものすごい勢いで扉が開かれる。


「義軍、平気か? お兄ちゃんが帰ってきたぜ? 頑張れ? 風邪なんかに負けるんじゃないぜ?」


 義軍に駆け寄り、その手を握る。 まるで危篤の知らせを受けて駆けつけたかのようだ。 

 義軍は目を閉じたまま、ゼイゼイと眠り続ける。 義軍と世尊は年の差はあれど顔が激似なので大げさに世尊が騒げば騒ぐほど、どこかコミカルだ。


「ちくしょう! 清流の奴、早く帰って来ないかなっ! 義軍に風邪を引かせるなんて魔獣の奴めぇ~! 許せネェぜ!」

「はいはい、世尊。 騒いだら義軍ちゃんが心配して眠れないから部屋を出ましょ?」


 弓は無理矢理世尊の服をつかんで部屋を出る。

 弓の気配に気付いて階下から羽織が声をかける。


「弓ー! お昼くれる? 食べたらまたすぐ行くから!」

「はーい、待ってて」


 弓は忙しそうに一階に降りる。 リトがつづいて階段を下りている間にリビングのテーブルには弓の特製おにぎりが運ばれてくる。


「リトちゃん、来てたの?」


 羽織はそう言いながら、嬉しそうにおにぎりを頬張る。 来意が手に長い数珠を持ってジャラジャラさせながら慌てて言う。


「羽織、その隣のおにぎりは僕の好きな梅おかかだから取らないで」

「オケ。 俺が今食べた高菜も美味しかったぞ」

「一番端のネギ味噌は世尊が食べたがるからね、食べていいよ」

「食べていいのか?」

「世尊がそれを食べたら最後、味噌の味が甘いって文句言い出して面倒だから食べちゃって」


 勘の鋭い来意の言うがままに、一見表面は真っ白のオニギリが選別される。


「急がしそうだねぇ」


 リトは急いで食べる彼らを見ながら椅子に座った。


「退魔は慣れてないから手こずって」


 羽織が笑った。 ふと見ると、羽織が背中に背負っている剣がいつもは3本なのに今日は4本だ。


「剣が増えてる」

「あ、うん。 老師さんの持っていた剣に、退魔の剣があったからそれ使ってるんだ。 他の剣だとあの魔獣、分裂するから面倒で。 来意は数珠」

「来意くんが数珠持ってるのって初めて見る」

「初めてだよ。 108個、珠があってね、1個に1匹、魔獣を封印できるんだ。 数が多いからさ、108貯めたら一度帰ってきて聖水で浄化して、の繰り返し」

「俺は翼族の羽で作られた羽扇子。 これで起こした風は魔獣の体を飲み込んで無にするんだぜ!」


 聞いてもいないのに世尊までやってきて説明してくれる。

 うーむ、女官達の考えとは違って、なんと王道な退治の方法だろうか。


「さすが陽炎隊っていうの? どんな相手でもきちんと対応できるんだね」


 リトは心の底から感心した。


「ま、まぁ、うん。 ありがと」


 羽織達は照れたのか歯切れ悪く返事する。

 ここに清流がいたならば、「当然だよ。 このくらい」と言い放つのだろう。


「清流くん、まだ帰って来ないのかなぁ」


 リトは思わず口にした。


「ねぇ、勘で分からないの? 来意くん」


 しかし来意は首を横に振った。


「最近、魔獣で気が乱れているせいかな。 いまいち。 すぐにでも帰ってきそうな気もするし、でも昔から翼族界に行きたがっていた清流がそうそう簡単に帰ってこない気もするし」

「ふーん」


 リトはそう返事をして立ち上がった。 そして何となく陽炎の館の玄関に向かう。

 玄関の扉を開けたら、清流は立っていないだろうか?

 巳白さんの翼は、治ったかなぁ?

 そんな事を考えながら扉を開ける。

 しかしそこには当然ながらだれもいない。

 ふぅ、とため息をつき扉を閉めようとしたその時だった。

 それは、ほんとうに一瞬で。

 瞬きするほど、一瞬で。



 次の瞬間、リトはスイルビ村の中央の広場の真ん中に立っていた。

 リトを取り囲むように、地面からわらわらと魔獣が沸いて出てくる。







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